家の建て替えをしている。5月下旬に仮住まいへ越してから早や4カ月が過ぎた。完成は11月下旬だから、2カ月後には新しい住まいに引っ越すことができる。
仮住まいは、すぐ近くで歩いて2分ほどのところにある。4カ月も住んでいると、ずっと以前からここに住んでいるかのようにすっかり慣れてしまった。私個人としては、これからもここに住んでもいいかなと思うときもあるのだが、この家もだいぶ古いのでそうもいかない。
屋根が瓦で葺かれ、窓が入り、だいぶ家らしくなってきた。私が一番驚いたのは、中に入ると、その瞬間から木の香りに包まれることだ。無垢材の家なので、木の香りがするのはあたりまえなのだが、最初は「こんなにもいい香りがするものか」と思ったものだ。それを棟梁に伝えると「こんなもんじゃない。これからは床や天井の板張りをしていくから、もっともっといい香りがする」という。
山歩きをしているから樹木はよく見る。広葉樹の森なんかを歩くのはとっても気持ちがいいもんだ。おのずと樹木には関心を持ち、まあ少しだが知識もある。しかしそれはあくまでも自然の森や林での話である。木の姿や形、それに葉から木の名前を知っている程度で、製材されたものを見せられて「柱がケヤキにヒノキ、床はヒノキで、天井はサワラ…」と言われても、材質の特徴がわからないだけに、私にはチンプンカンプンだ。
ありがたいことに、この棟梁の木に対する愛情と知識には並々ならぬものがある。尋常じゃない。語ると熱くなる。「よく知ってるなあ」といつも感心してしまい、こちらも真剣になって耳を傾ける。私も嫌いな話ではないだけに、おかげでしだいに門前の小僧になりつつある。
ここまで一生懸命に考えてくれる棟梁だけに、ヘタに口出しするよりもすべてお任せするほかない。ただし私が言うことはいつも決まっている。「全体の調和を見て、それでよければ」というもので、棟梁もこのことをとうに承知しているから、私からは「注文」というよりはいつも「質問」になってしまう。
これからは細部の仕上げになっていく。しだいに個人の好みが反映される段階になった。イメージ通りに仕上がるのか。楽しみでもありちょっぴり心配でもある。