バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

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おめでとう坂田健史選手

2007-03-20 | ボクシング
昨夜、東京・後楽園ホールでWBA世界フライ級新チャンピオン・坂田健史(たけふみ)が誕生した。4度目の世界挑戦でのタイトル奪取!坂田選手、おめでとうございます。本当に、このひと言に尽きる。

これまで彼の試合は観ていたが、熱狂的なファンというわけではなかった自分がこの件に関してブログを書くのも気が引けるのだけれども…試合のTV放送は東京ローカル・深夜2時過ぎからの録画中継のみであったうえに、放送したTBSもこれまで坂田選手をほとんどまともに紹介してきていないという現状なので。。。

昨夜試合が行われている頃、ソワソワとバイユーで落ち着かない時間を過ごしていた。そのワケはこの試合は中止するべきだ、と強く思っていたからだ。ネットで情報を調べても(5時にはハッキリすると新聞に書かれていた)「中止」というニュースは見当たらない。やはり試合は強行されたのか…お客様からは「興行だから、やるだろ。」といたって真っ当な意見。TVの生中継がないので悶々とした時間を過ごすより他なかった。試合が終わったであろう時間になったらなったで更にソワソワ。携帯でボクシング関係のサイトをチェックすれば結果がわかるはずなのだが、深夜2:00からの録画放送まで結果は知りたくない。でも心配で気になる。
と、いうのもこれは普通の試合ではなかったからだ。一般の新聞等でも大きく取り上げられていたので御存知の方も多いかと思うが、王者ロレンソ・パーラが計量時に体重超過でタイトルを剥奪され前王者となるという大失態を犯していた。坂田選手が勝った場合は新チャンピオン、パーラが勝つか引き分けの場合は王座は空位という変則タイトルマッチになることとなった。坂田選手はこれまで3度世界王座に挑みいずれも僅差の判定で敗れており、4度目となる今回は正にラストチャンスと見られていた。これまでの挑戦はすべて「坂田が勝っていたのでは?」の声もあがるほどの接戦で「運、縁がないのでは?」という声さえあったものだ。愚直なファイタースタイルのボクサーで、もちろん長年世界のトップクラスに留まっているだけにテクニックも持ち合せているのだが、わかり辛く地味な(実戦的な)巧さで若干華やかさに欠ける選手の部類に入ると思う。しかしながら世界戦は全て熱戦で、その上前述の様に接戦でもあった。特に初挑戦ではパーラ相手に2Rにアゴを2カ所砕かれるという重傷を負いながらもフルラウンド激しい打撃戦を展開、無骨で地味なだけの選手ではないところを見せつけた。その後2度の挑戦での熱闘ぶり、そして同じ協栄ジムにカメダ家が入り込んできたために脇に追いやられてしまったという経緯もあって~ボクシングファンの中では、坂本博之選手が世界戦線から退いて以降「最も王座を奪らせたい選手」となっていた。そんなボクサーの大一番が汚された。そう感じたファンは多かったはずだ。
体重オーバーはあってはならないことでことであるが、決して前例は少なくはない。しかしかつては減量に失敗した選手は疲弊して不利な状態で試合に臨むことが常であった(チャッチャイvs花形戦等)のだが近年は状況が変わってきている。階級やタイトル認定団体(WBA.WBC.IBF.WBO)が多くなってチャンピオンになるチャンスが増えたため、体重調整のキツくなった選手は無理に減量をして体調を落とすことをせずに(タイトルを剥奪され)試合前に無冠となり試合を行い(報酬の為)、万全の体調で試合には勝利する。そして戦績に傷をつけないまま上の階級に転級して早い時期での次のタイトル挑戦を目指す(敗戦したわけではないので上のクラスでは元王者としてそれなりの順位にランキングされる)というケースが多々見られる。本当に最低の行為!で人生をかけた大一番にむけ調整してきた対戦相手に対し失礼なことこの上ない。そのような場合、グローブの重さでハンデをつけたりはするのであるが…限度がある。今回のパーラはなんと2.5キロもオーバーしていたのだ!!日本ボクシング史上最重量オーバー。これは最初から減量する気がなかったと思われてもしかたがない。パーラはこれまで無敗。無敗のまま上の階級に上がりたいのが見え見えだ。協栄側はパーラがこれ以上体重を増やさないように試合直前に再計量を行いバンタム級の契約体重で試合を行うことに決めたと報道された。これには驚いた!フライ級のタイトルマッチを2階級上のバンタムウエイトで!?軽量級での2階級差は準備期間なしで挑むレヴェルではないのではないか???しかも、坂田選手はかつてパーラにアゴを折られたことさえあるのだ。危険なのではないか?…確かにこの階級にとどまらないであろうパーラとの今回の対戦を逃したら次にいつ王座挑戦のチャンスが巡って来るかわからない。しかし、地道に努力を重ね熱いキャリアを積んできた坂田健史の最後の挑戦がこんな失礼なボクサーに(パーラはこういう傾向のある選手なのだ)万一、体重差で押し切られて敗れるようなことがあっていいものなのか!?陣営は勇気を持って試合を中止するべきだ、と思った。しかし協栄サイドがとった対策は当日試合直前の再計量…。不安が残った。
試合は異様な雰囲気の中行われた。前王者となったパーラの入場時には激しいブーイング。拍手は全く無し。ベネズエラ国家が流れはじめると流石にブーイングは止んだが終わってもほとんど拍手なし。パーラの名前がコールされると更に激しいブーイング。後楽園ホールの狭いスペースに集うボクシングファンは外国の選手にも最低限の敬意を表すことが常でこれほどの敵意をみることは珍しい。対する坂田選手は物静かに見える。しかしその姿からは、ありきたりではあるが殺気?らしきものが渦巻いているように見えた。凄い目をしていた。怒りのあまり我を見失ていなければいいが、と思ったのだが…そんなことはまったくの杞憂であった。よく見れば恐いほど冷静である。集中しているのがテレビの画面からもビンビンに伝わって来る。ゴング前から緊張感に圧倒されてしまう…疲れる。もう結果は出ている録画放送だというのに…。試合が始まると、挑戦者が落ち着いているのは明白になった。序盤は元気なパーラのパンチに丁寧に対応している。左ボディが度々ヒットする。凄い集中力だ。2R、パーラは明らかにボディを嫌がっている。そして次の3ラウンドの開始に応じることはなかった。棄権により坂田選手のTKO勝ちとなった。
体調もすぐれず。これ以上やってもいずれは倒されると観念したのだろう。結果的にパーラの増量、不公平な体調回復を懸念した協栄サイドの要求「当日試合直前の再計量」が功を奏したとも言える。過去2度の対戦で坂田選手のラッシュが後半に向けて強くなることを良く知っている筈だ。決定的なダメージを与えたパンチはなかった。心を折った。無理に戦って怪我をするより諦めた、というわけだ。これがふたりは3度目の対戦。初戦でアゴを折ったままで12R戦った坂田選手との計26Rを通じてのボクサーとしての決着は最初からついていたのかもしれない。
一見すると消化不良にも映る決着ではあったが坂田選手は全身で喜びを表現し、人目をはばかることなく涙を流した。観客も熱狂的に喜びを表現している。先日の坂本博之選手の引退試合でも思いっきり熱い選手紹介コールをした富樫リングアナウンサーがベルトを巻いた姿を確認して「WBA世界フライ級、新!チャンピオン!!バーニングフィスト、坂田タケフミー」と場内にコールした後、感極まって大粒の涙をこぼした。勝利者インタヴュー中も後ろに映った富樫氏は涙を拭っている。いろんな人が泣いていた。毎日、ボクシングのリングにマイクを持って上がり、命を賭けた殴り合いを間近に見て栄光や挫折の瞬間に立ち会うことに、麻痺しないまでも準備ができているであろう者をしても落涙させるほどの特別な瞬間。茶番のようなドラマ性を演出したりしている格闘技?とかいうものとは別の世界にあるのをつくづく感じる。もちろんエンターテインメントなボクシングモドキとも。日頃、なんともお手軽で安易な感傷や同調を蔓延させようとしているのを目にすると気持ち悪く感じたりもしているのだけれど…深夜の録画中継を眺めつつ「この試合の過程が人々にもっと知られてドラマ性が作り上げられていたらいたならどのような反響があったんだろうなぁ?」とも考えてしまった。うーん、ドラマ性か、、、やっぱりどうなるか心配だな…。とも思ったりしていたのだが、はたと気づきました。ネタとして、キャラクターとして決定的に弱いと思われているから、扱いにくいから、「KメダのTBS」でさえも深夜2時放送なのでありましたね。都合良く改ざんできたりなんかしないのだ。
ホントのボクシングは今のメディアにはあんまり求められてないようなのでこれは余計な心配でした。20070320
Vs



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