三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

仮想的有能感

2010年02月20日 | 

次に速水敏彦『他人を見下す若者たち』です。
速水敏彦氏は仮想的有能感という概念を提起する。
「他者軽視をする行動や認知に伴って、瞬時に本人が感じる「自分は他人に比べてエライ、有能だ」という習慣的な感覚である。
現代人は自分の体面を保つために、周囲の見知らぬ他者の能力や実力を、いとも簡単に否定する。世間の連中はつまらない奴らだ、とるに足らぬ奴らだという感覚をいつのまにか自分の身に染み込ませているように思われる。そのような他者軽視をすることで、彼らは自分への肯定感を獲得することが可能になる。一時的にせよ、自分に対する誇りを味わうことができる。
このように若者を中心として、現代人の多くが他者を見下したり軽視することで、無意識的に自分の価値や能力に対する評価を保持したり、高めようとしているように思われる」

つまりは、自分自身に過去に大した実績がなく、経験も乏しいのに、他者の能力を低く見て、人をバカにした態度や行動をとることで、自分は有能だと思い込み、そうして自己肯定するわけである。
具体的には、他人に攻撃的、批判してけなす、自己を正当化する、自分の失敗を認めない、人のせいにする、他人の気持ちを理解しない、自分への批判を聞き入れない、などなど。
たぶん、自分には何もないから、他者をバカにすることで自分を支えようと無意識にしているのだと思う。
「現在の若者は一般に、内心自信を喪失しており、一種の防衛機制として他者を軽視することで自信を取り戻そうとしているのである」

仮想的有能感を持つ人の特徴
1,共感性が乏しい
2,友人関係の狭さ
3,家族、友人関係に不満

高校を中退した子が「自分には、他の人と違った才能があると思う」と言っている例を速水敏彦氏は紹介している。
自己認識、社会認識が甘いわけで、
「とにかく自分には何人にもない特殊な才能があるはずだ、という根拠のない自己肯定をしているのである」
どうしてそんなに楽観的というか、己に甘くなれるのか不思議だが、速水敏彦氏によると「自分を外側から眺める視点が著しく劣っているのかもしれない」ということです。

自尊感情と仮想的有能感とはどう違うのだろうか。
「自尊感情は自分への満足感や自信を意味するものである」
他者と比較して自分はすぐれていると判断するのではなくて、自己の基準に基づいて、自分をよい、満足できるとする場合に自尊感情が生じるんだそうだ。
「自分を価値あるものと感じ、ありのままの自分を尊敬できる場合は、自尊感情が高い」
心理学者のローゼンバーグの「自分を「非常によい」と感じることでなく、「これでよい」と感じることだ」という言葉は自尊感情をわかりやすく説明している。

それに対して仮想的有能感は、
「勝手な判断で、他者を見下げることで、自分のプライドの維持、上昇を図ろうとするものである」
他者と比較しての有能感だから、他者の能力を低く見るほど自己評価を上げることになる。
「自分よりも下位にある者との比較によって、自分の幸福感を増大させようとするのである」
「しかし、これは自分の過去経験にはまったく左右されない思い込みの自己評価と言える」

だから、自分より下の存在がいなければ困る。
「人は自分よりも優れた人物について知りたがっているというよりも、自分よりも劣っている者に関する情報を求めたがっている」

仮想的有能感の持ち主は、
「自分は特別と考え、周りが特別扱いしてくれなかったような場合、「どうしてなのか」と思ったり、怒りやいらだちを感じたり、傷ついたり、劣等感に苛まれているようにも見える。あるいは「いまの生活は本当じゃない」と思い、どこかに本当のすばらしい自分があると考え、それを探し求める」
この傷つきやすさと怒りという特徴は誇大自己症候群と通じるし、スピリチュアル、ニューエイジ(本当の自分探し)を求める心理的根拠はこれなのかと納得しました。

面白いと思ったのが、インターネットと仮想的有能感の関係について。
「インターネットは、匿名性が確保されているので、それだけ自分の実績に関係なく、他者を気軽に批判できると言える」

宮川純氏がインターネット利用頻度と仮想的有能感の高さとの関係を調べた結果を速水敏彦氏は引用している。
結果はインターネット利用頻度が高いほど、また「2ちゃんねる」を閲覧する人のほうが、しない人よりも、仮想的有能感が高いことがわかった。
さらには、仮想有能感とニュース番組の閲覧頻度とは正の、ドラマ番組のそれとは負の関係が示された。
「すなわち、仮想的有能感が高い人ほど、ニュース番組を見やすく、ドラマ番組を見ないと言える」
私はニュースのような現実よりもドラマというフィクションを好む人のほうが仮想的有能感が高いと思ったが、ニュース番組は自分と切り離して批判することが容易なんだそうです。

「他者軽視を通して自分は他者に比べて有能だと感じていると、常に怒りやすく、それを表現しやすく、さらには、心の中にも怒りの気持ちを多く蓄積させている、と考えることができる」
ネットでの攻撃性はこういうことなんですね。

(追記)
以下の記事も合わせてご覧下さい。
自己愛パーソナリティ障害
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/08f0c3432a10b0699f79b9726f4d62f8
誇大自己症候群
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/ee86f6abedc53dfb62fc375bf62c57f4
『ライズ』と『8Mile』
http://blog.goo.ne.jp/a1214/e/960c3449dc5471c38097d4b7ab8bee2b



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6 コメント

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そうかなあ (西村雅史)
2010-02-21 13:37:12
 はじめまして。ま、ご存知でしょうが。
 この本、読んでみたいです。だって、貴殿の文章を読んだ限りでは、どう考えても「変」だから。ちなみに貴殿も匿名で無責任で甘っちょろく荒っぽいことを書き散らかしてますが。

 だて、「仮想的有能感」を持つ人って、どう考えてもここ20年で激減してますよ。これ、安保騒動にうかれてる人がピッタリじゃん。
 自分の世代(47ちゃい)の前だと、「若い頃」って、そういう思いに駆られるんです。でも、ネットワールドが電話みたいに「普及」して、社会に出なくても、そういう甘ったれが「ぶん殴られる」んです。いいじゃん。
 だって、昔に比べて今の若い人のほうが、マジで「他人を見下す」なんて思います? だったらあなたは低脳です。そりゃあ私なんか、毎日のように、年齢が下の人に職場で馬鹿にされてますよ。でもそれは飲兵衛の私より仕事ができるからであって、チン毛、じゃなかった、ちんけなイデオロギーが理由ではありません。
返信する
コメントありがとうございます ()
2010-02-22 08:01:50
コメントありがとうございます。
トラックバックを何度かしていただき、これまた感謝です。

『他人を見下す若者たち』はアマゾンでは評価が低いですね。
『誇大自己症候群』はまあまあの点数なのにどうしてでしょうか。
速水氏への批判は私もそうだなと感じるところが多々あります。
誇大自己症候群や仮想的有能感という概念ですべてを解釈できるとしたら、それは疑似科学です。
このことは次回あたり書く予定です。(ほんとですよ)

私の文章が下手くそなために、最近の若者は仮想的有能感の持ち主ばかりだと私が考えている、と思われたかもしれません。
でも、年齢を問わず、自分のことは棚に上げて人をけなす人間、間違いを指摘されるとキレる人間がいることは西村さんも否定しないでしょ。
私の身近にもいますし。
ですから、そうそう、こういうのいるいる、と思うわけですよ。
これも書く予定ですが、仏教で「慢」という言葉があります。
http://homepage3.nifty.com/y-maki/yougo/4/486a.html
誇大自己症候群や仮想的有能感は結局のところ慢だろうなと思います。

ネットでの叩き、私はいやだなと思います。
普通なら面と向かって「あなたは低能です」なんて言わないですからね。
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Unknown (通りすがり)
2011-12-06 05:05:47
しっかり本についてまとまった投稿をされていて、簡明でわかりやすい記事でした。 若者支援の現場の仕事をしていますので、本当に仮想的有能感については、私は共感です。
上のコメント書かれてるのを読んで、余計に納得させられました。
返信する
不思議なこと ()
2011-12-06 16:28:41
近ごろの若い人に限りませんが、仮想的有能感の特徴を持っている人は結構います。
でも、それなりに友だちがいて、仕事の人間関係も壊れていない。
世の中、忍耐強く寛容な人が多いのでしょうか。
返信する
Unknown (Unknown)
2014-01-29 08:46:34
私は同僚にこういう人がいて(若い人です)、いつも理由なく見下されて嫌な思いをしています。
共感性に乏しく、さして有能とも思えないのに根拠のない自信に溢れ、人を見下しては「ふ~ん」と馬鹿にしたような顔をする、そのくせ繊細で小心でキレやすく、自分のミスは能力不足の私のせい、私のミスは「当然よね。能力ないもん」、反論すると「僻んでる」……。ほとほと持て余しています。
夫に言ったら「そういうのを仮想的有能菅って言うんだよ」と教えられ、深く深く納得しました。要するに自分は全能だという設定のバーチャルな世界の住人なんですね。
もう我慢できない! その自己中な世界ごとぶっ潰してやる!! と決意しました。
返信する
コメントありがとうございます ()
2014-01-29 22:07:36
いただいたコメントを読み、陰謀論について何回か書きましたが、陰謀論者も似てるなと思いました。
報われない自分(大した努力はしてない)の現実を認められず、ままならないことの原因を外に見つけ出し、うまくいかないことを人のせいにする。
すべてユダヤ人や中国、もしくは年上の同僚のせいにすれば楽ですもんね。
でも、いくら誠意を持ってやさしくさとしても、被害妄想のかたまりだから、逆恨みをされますよ。

不思議なのが、こういう人にもちゃんと友達がいて、人からちゃんと相手にされている。
最初にコメントをされた方にしろ、私に対してだけこういう態度をするのだろうか、世界は私を攻撃している。
私も妄想モードに入ってしまいます。
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