三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

べてるの家 5 生きづらさ

2011年09月22日 | 

べてるの家のあり方は当事者中心であり、支援者は上から支援するのではなく、自らが降りていく。
向谷地生良氏は「降りていく生き方」をポール・ティリッヒの「ソーシャルワークの哲学」という小論から学んだという。(向谷地生良・浦河べてるの家『安心して絶望できる人生』)
ティリッヒは「人を愛するという営みは、困難に陥っている人を「引き上げる業(わざ)」としてあるのではなく、そのなかに「降りていく業」として現されなければならない」と説いているそうだ。
本田哲郎神父もティリッヒから影響を受けたのだろうか。

この「降りていく生き方」は戸塚宏氏と対照的である。
戸塚ヨットスクールでは本人の意志とは関係なく、上から引っ張り上げようとする。
 苦しみ悩みを解決できる人
   ↓支援
 苦しみ悩む状態にある人
その人の抱えている問題を自分の苦しみ悩みとして共有しなければ、「降りていく生き方」はできないと思う。

向谷地生良氏はこうも言っている。
「当事者研究の持つ力の一つに、「個人苦」が「世界苦」へ広がる経験を当事者がするということがあると思います。当事者の感じる孤立感の一つに、自分の抱える生きづらさが、周りの人との間で共有されないという苦しさがあります」
なるほど。

まず、生きづらさが共有されない苦しさということ。
斉藤道雄『治りませんように べてるの家のいま』に、浦河弁といって、べてるの家で生まれた言葉を紹介している。
その一つが「お客さん」で「頭のなかに浮かぶネガティブな思考全般のこと」である。
たとえば、「みんなは自分のことをきらっている」とか「自分はダメな人間だ」「人が自分の悪口を言っているのではないか」「仲間から非難されている」といった疑念、思い込みが「お客さん」で、そんな思いが頭に浮かぶと「お客さんがきた」とか「お客さんが入った」という。
私も「お客さん」が来ます。
たとえば、私はカウンセリングスクールに一年半かよって挫折したのだが、それは自分の嫌なところが見えてきたり、講師に私の心を見透かされている(サトラレですね)と思ったりしてしんどくなった、ということがありました。

他人が自分をどう思っているかを気にしすぎると身動きがとれなくなる。
鈴木さん「自分のきょう、あそこがダメだったここがダメだったって、すごい責めだして。で、いまのあたしにだれかマルをつけてほしいってなって。それがかなわないから、なんかダダこねちゃって」
人が自分のことをどう思っているか、そんなこと気にしなければいいわけだが、生きるのが下手な人は簡単に気持ちの切り替えはできないし、忘れることもできない。
こうなると人間との関わりが苦になる。

こうした生きづらさとは精神障害者だけの問題ではない。
萱野稔人氏は『「生きづらさ」について』の中で、「生きづらさ」は二つのレベルで生じると言う。
一つは物質的なレベル、金がないこと。
もう一つはアイデンティティのレベル。
「つまり、社会からまともに扱われない、自分の存在を認めてもらえない、居場所がない、といった状態です」
たとえば、場の空気を読むということ。
いじめが起きるのは、
「空気を読み合うことで生まれる重圧をなんとか解消しよう」とするためだと萱野稔人氏は言う。
「いじめられないためには、空気を読んで、うまくたちまわらないといけない。これってたぶん、いじめだけでなく、いまの社会生活のどこにでも当てはまることですよね」
雨宮処凜氏も「自分以外の誰かがターゲットになっていじめが始まったら、一気にその場の緊張感がゆるむというか、やっとみんなホッとする」と言う。
「合コンなんかでいじられキャラがいると初対面での緊張感がなごみやすい」

萱野稔人「日本人がむこう(パリ)でフランス人と話すと浮くんですよ。どうしてかというと、気を遣い過ぎるからです。たとえば過剰に笑みをたたえていたりとか。(略)相手が不愉快にならないように気を遣い過ぎて、逆に空回りしてしまう」
気をつかいすぎで生きづらくなるのは日本特有なのかもしれない。
萱野稔人「空気を過剰に読んで、まわりに過剰に配慮する、というコミュニケーション能力が、それだけこの社会では要求されているってことです」
そして、孤立する。

近藤恒夫『薬物依存を越えて』に、
「依存症は〝孤独感がもたらす病〟でもある」とある。
「依存症者とは相手との距離感を適切にとることが苦手な人のことである。依存すべきときに依存ができず、依存してはいけないときに依存してしまうのが依存症者の特徴で、それゆえ彼らは常に対人関係にストレスを抱えていることになる」
孤立すれば、苦しみ悩みを一人で抱え込むことになる。
その人たちの中には、アルコールや薬物に依存する人がいれば、幻聴さんに依存する人もいるというわけである。

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