熊谷さんのところでは、稔りの秋を迎えて米の調整作業や出荷が終わると、米作りがはじまる。
それは肥料づくり。20年以上前に失明勧告を受けながらも自分で作った無農薬米で克服し、さらに「健康になるための栄養を米一粒一粒にぎゅっと詰め込むのが大命題」と健康成分を合成する栄養素(SODなどの酵素、アミノ酸、ミネラルなど)に着目し、自家製の発酵肥料を作っている。秋になると、もみがら、玄米、米ぬか、昆布、カニガラ、ミネラルなどを攪拌機に投入していく。まるで漢方の調合のようで、おいしそうな香りが漂う。それをハウス内に積むと土着菌によって発酵がスタートし、つぎに納豆菌が元気になる。すると70度近くになるので温度を下げるための切り返しを行う。切り返しはスコップ一丁。この作業で足に低温やけどを負ったり、手の筋をいためて手術をすることもあった。昭和7年生まれの熊谷さんは今年も元気に続けている。
「もう完成だ、うまくいった」と熊谷さん。暖冬のおかげか発酵も順調にすすみ、乳酸発酵、酵母発酵を終え、切り返した堆肥を手にとってみると、ほどよい水分を維持しながら放線菌の香り(土の香り)がする。これで完成。この肥料が田圃に入ると、生きている酵母菌や放線菌などは活動をはじめて有機物を分解し、さらにはアミノ酸、ビタミン、核酸、植物ホルモン、酵素(肥料にも含まれている)などを産生するので、肥沃な大地になる。やがて田圃に水が入ると、微生物が増殖し小動物も増える。その生命活動によってさらに肥沃となり、土がトロトロになり、常に濁っているために初期の雑草の繁殖が抑えられる機能も併せ持つ。
よい米を作ろうと土づくりを研究した結果、農薬や除草剤を使用せずとも、稲は元気に育つ。もし、この田圃で農薬を使用したら、病害虫が増えるのではと思うほど自然の機能の高さが実証されている。
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