ヤノマミ

2011-07-08 16:20:40 | 日記
国分 拓著   NHK出版刊

「ヤノマミ」と聞いてすぐ分かる人は、そう多くはないはずだ。ブラジルとベネズエラにまたがる奥アマゾンで、一万年にわたり独自の文化と風習を守って生きている未開民族の人達を指す。とは言っても、今も「未開」で居られる筈もなく、最低の文明との接触はある。事実、一部のヤノマミの人達はブラジルの都市に出て、それなりに順応しているそうだ。著者が150日間に及ぶ長期共同生活をおくった人達はそうではなく、かなり原始的な昔からの生活、生き方を維持している人達だった。
しかし、共同生活とは言っても生易しいものではなかったらしい。なにしろ、生活原理がまるで違うのだ。誕生、生、死。そのひとつひとつが、現代人には理解できないものだったらしい。著者は帰国してからしばらくは、かなりのカルチャーショックに罹ったことでもわかるだろう。
人はどう生きたら幸せなのだろうか。いや、そもそも幸せとか不幸がどれほどの意味を持っているのだろうか。まして、人はこう生きるべきだ、と押し付けていいものなのだろうか。しかし、最低の接触とは言っても文明との関わりを持ってしまった(決して彼等が望んことではないが)以上、今のままで生きていくことは叶わないだろう。それが、正しいと思ったらただの思い上がりだ。
わずか300ページの本だが、一行一行がとても重かった。しばらくは、文化、文明に関係する本は読めないかも……。

世界をやりなおしても生命は生まれるか

2011-07-06 15:07:54 | 日記
長沼 毅著   朝日出版社刊

本書を読了して印象に残った点をふたつ。本書は、全体講演と(第1章)とゼミ方式(だと思う。第2~4章)で構成されているのだが、この講演とゼミに参加したのは広島大学附属福山高校の生徒達で、これはそのセッションの再録である。感心したのはこの生徒達のレベルの高さだった。
著者も言っているが、「知識と思考力はうちの大学生に負けていなく、知的好奇心は大学生以上」のレベルだったことだ。ちなみに、著者は広島大学大学院生物圏科学研究科准教授。話の内容から生物学、生化学はおろか、地学、物理学、天文学、数学に及ぶのだが、生徒達はしっかりその話について行っているのだ。私には到底理解できない数式も理解しているらしい。
第2点は、私には初耳だった「2045年問題」。生命を考える上で、どうしても避けて通れないのが人工知能なのだが、それには当然ながらコンピュータが関わる。2045問題はこれに関するもので、「ムーアの法則」によれば「コンピュータのIC(集積回路)の集積度やCPUの演算速度、メモリの容量などは18~24ヵ月ごとに倍増する」そうだ。端的に言えば、2045年頃にはコンピュータは人間の知能を超えるということ。下手をすると、人間はコンピュータの支配下にいるかもしれないのだ。私としては、その前提にコンピュータ自身がエネルギー(電力でもなんでもいいか゛)を調達できることが必要で、それはちょっと難しいと思うのだが(なにしろ電源を切れば、コンピュータは死ぬのだから)。
さて、本書の命題「生命は生まれるか」についてだが、これから読む人に失礼なので結論は書かない。問題は「生命」をどう定義するかによるのだが……。
読みでのある本。しかも、高校生を対称に書かれた本なのに……。

プラントハンター  命を懸けて花を追う

2011-07-05 08:23:43 | 日記
西畠清順著  徳間書店刊

プラントハンターとは珍しい花や植物を求めて、世界中を探している人のこと。17~20世紀、ヨーロッパで活躍、初めは食料などになる植物を探すことから始まったが、次第に香料、観賞用植物や花を採集するようになり、アジア、アフリカ、中南米にまでに足を伸ばすようになった。これらの人々がもたらしたさまざまな植物(時には鳥や貝殻、動物の剥製もあった)が、ダーウィンの進化論に大きな貢献をしたことはよく知られている。
著者は明治元年から続く植物卸問屋「㈱花宇」の五代目。世界中を周り、日本に入ってきていない珍しい植物を追い求めているひと。本書はそうした旅の記録。同時に希少植物を守るには、どうしたら良いのかを考える参考にもなる。また、植物の輸入に対してどのような手続きが必要なのかも分かる。
もうひとつ。よく、季節でもないのに桜や桃の花がデパートや店先に活けられているのを見たことがあると思うが、その秘密も教えてくれる。
そして、花が大好きな人には巻頭と巻末に掲載されているカラー写真が堪らない。珍しい花、見たこともない木が載っている。

児玉清の「あの作家に会いたい」  人と作品をめぐる25の対話

2011-07-01 15:10:36 | 日記
PHP研究所刊

児玉清が読書家だとは仄聞していたが、彼の本を読んだのはこれが初めて。ただし、「対話」というにはあまりにダイジェストされすぎているので、些かオーバーなタイトル。インタビューのポイントは「何時、どんな動機で小説家になろうとしたのか」「小説を書く時どんなこと気を付けているか」という二つの点だった。
驚かされるのは、彼の読書量である。もちろん、インタビューアーとして対談相手の著作を読んでいるのは当然だが、作家が次々にあげる作家の著作を殆ど読んでいて、インタビューに淀みがないことだ。俳優業の傍ら、これだけの本を読破したのは、それだけで驚異だが、著者の略歴を読んで納得した。
彼は昭和九年れである。敗戦の時11歳である。この世代が、どんなに活字に飢えていたか、今の人には解るまい。「本を買う」と言えば親はどんなに生活が苦しくても、やり繰りしてお金を用立ててくれた時代である。それも儘ならない子供は本屋で立ち読みした。そして、書店の親父も黙って見逃してくれた時代に青春時代を送った人である。
それが、インタビューの端はしに表出されている。そういう背景を持ったインタビュアーが居て、成り立った対談集。できれば、ダイジェストせずに出版して欲しかった。