南極で宇宙をみつけた

2011-01-16 15:27:33 | 日記
中山由美著 草思社刊
サブタイトルは「生命の起源を探す旅」。著者は朝日新聞記者、03年第45次南極観測越冬隊に同行、新聞記者としては女性初。08年には北極・グリーンランドで米国観測チームに同行。09年、第51次観測隊で南極を再訪して、隕石探査チームに同行。本書はその同行記である。
なぜ、南極で宇宙を見つけたのか、不思議に思うかもしれない。実は南極は46億年前地球が誕生して以来、地上に降り注いだ隕石が一番よく見つけられる所なのである。著者は略歴でわかるように極地報道のベテラン。とはいえ極地では、ベテランを拒むかのようで、次つぎの失敗には笑わさせられる。
彼女自身も隕石を見つけるのだが、チームの努力たるや半端ではなく、こうした地道な努力が地球誕生という壮大な歴史を明らかにしていくのかと、感動をおぼえる。
人と違うことをしようと思えば、好奇心があること、チームメイトに対する気配り、そして、なによりもタフであることを教えてくれる一冊。

風をつかまえた少年

2011-01-15 09:06:26 | 日記
ウィリアム・カムクワンバ ブライアン・ミーラー著  文藝春秋刊
サブタイトルは「14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった」。舞台はアフリカ南東部マラウイ、アフリカ大陸最貧国のひとつ。しかも彼が住んでいるのは首都から遠く離れた村だった。
トウモロコシとタバコの葉の栽培で生計を立てている人々にとって旱魃は致命傷だった。せっかく入学した中学も月謝が払えず退学せざるを得なくなった少年にとって、唯一心が休まるところはNPOが主催する中学校にある図書館だった。
そこで一冊の本に出会う。「エネルギーの利用」という米国の教科書だった。そして、何もかも廃品と身近な材料で風力発電を実現してしまう(8年後の今、村には風車が4機、飲料や灌漑に利用されている)。
朝日新聞の1月10日付「グローブ」の「著者の窓辺」にインタビューが掲載されている。彼は多くの人々好意との援助受け、現在はアメリカのダートマス大学に在学中だが、彼は言う。「有名になろうと思ってしたことではない。母や妹が水汲みに数時間、畑の水撒きだって半端じやない。それをなんとかしたいというのが動機だつた」こうも言っている。「卒業したら国に帰る。未来のマラウイを住みやすくするために仕事をするつもり。そうすれば空いた時間を勉学に集中できる。僕の国もっと発展できる可能性があるからだ」。
その言や良し。日本の話でないのが残念だ。


オリガ・モリソヴナの反語法  読み返した本・1

2011-01-13 14:55:10 | 日記
米原万理著 集英社文庫
3度目である。おそらく近代ロシア・ソ連を舞台にこれだけダイナミックに書かれた小説はないのではなかろうか。著者は1950年生まれ、惜しくも2006年に亡くなってしまったが、この人がもう少し長生きしてくれていたら、もう一冊傑作を読むことが出来のではないかと思うと残念でならない。
著者はロシア語通訳者であり、ロシア語通訳協会の会長も勤めた人だが、59年から64年までチェコのプラハ・ソビエト学校で本格的なロシア語で教育を受けた人でもある。
三度読んだのには理由がある。背景を確かめるために関係資料漁っていたからだ。それにしてもソ連の社会主義、その後のロシアというものの複雑さには驚かされる。それを歴史的記述ではなく、そこに生きた個人を主人公に小説にしたところに凄さがある。
最近、ストーリーを追うあまり説明や講釈、データを並べ立てる小説が多く、描写力のないものが目立つが、本書にはその心配がない。
ところで、タイトルにある「反語法」であるが、実に歯切れのいい日本語で書かれているのだが、これは読み手の役得というものなのでここではあえて書かない。
 

私の名はナルヴァルック

2011-01-12 09:42:33 | 日記
廣川まさき著 集英社
発売当時、気になってはいたものの、買わずじまいだった。今回、ひょんな機会があって読んでみた。
紀行文学の共通点といえば、異文化との遭遇であろう。自己の文化とどう折り合いをつけるかは、本人がどのくらいナイーブであるかによる。その葛藤が読み手を刺激する。
著者はアラスカ・チュクチ岬にあるエスキモーの村ティキヤック(人口850人)で捕鯨の季節を過ごした体験記である。ナルヴァナックとはエスキモーの長老が彼女につけてくれたエスキモー名。
爽やかで、ナイーブで,真剣で羨ましくなる。俚諺に「亀の甲より年の劫」というのがあるが、どうやら「年の劫」も年をとるにつれ硬くなり、「亀の甲」と大して違わなくなるということを実感したしだい。

がん 生と死の謎に挑む

2011-01-11 09:40:16 | 日記
立花隆著 文藝春秋社刊
病気の話が苦手な私は、がんと癌の違いを始めて知った。癌とは上皮(カルシノーマ)がんを指し、がんとはそれ以外の全てのがんを指すそうだ。そして、がんは完治しないということも。
ただ、「澄明な意志を維持したまま死にたい。チューブに巻きつかれてスパゲッティ状態で、意識がないまま行き続けたくない」「痛みを我慢したくない。それは美学でもなんでもない」という立花氏の考え方には賛成したい。
もっとも、この本にも登場しているノーベル賞が確実視されていた物理学者の戸塚洋二氏の闘病記(戸塚洋二著 「がんと闘った科学者の記録」立花隆編 文藝春秋刊)を読んだ時は、抗がん剤を次々とわが身に試し、後世に役立つように詳細な記録を残した生き様に殆ど感激したことも事実なのだが……。      


帝国ホテルの不思議

2011-01-09 09:40:56 | 日記
村松友視著 日本経済新聞刊
近頃めずらしく装丁の良い本。帝国ホテル良さは4次元の世界の魅力にあるのだろう。4次元目は時間というか歴史。多くの常連客がその魅力の一助となっているのだろう。もしくは従業員と客が醸し出す5次元の世界というか。
ただ、インタビュアの村松氏の思い入れが読み手の読後感をミスリ-ドしているようで、読後感に自信がもてないのがチョットネ。