100の思考実験

2012-08-23 15:13:21 | 日記

ジュリアン・バジーニ著  紀伊国屋書店刊

本書にはタイトル通り100の問いが挙げられているが、著者は「これが正解」というものは提示していない。その代わりに幾つかの回答を挙げ、各々に尤もと思われる主張・根拠をあげている。
著者の言わんとするところは明白である。
例えば、今身近かな原発を考えてみよう。「原発ゼロ」に反対するのは難しい。しかし、その結果、関係する部署に勤めていた人々は解雇されるかもしれない。自分の失業を賭けても反対できるか? 輸出大国の日本には大量の電力が必要な企業が多くあるが、「原発ゼロ」が外貨獲得に支障を来たし、企業縮小→失業という問題が浮上するかもしれない。それを、甘んじて受け入れるのか?政府が対応するべきだ、という意見も出るだろう。しかし、原資があってこその話で、金がなければ税金という形で我々にボールが投げ返されるだけだ。 
まだある。代替エネルギーとして風力発電あるいは潮汐発電があるという意見も出てくる。しかし、自然保護の人々から渡り鳥が犠牲になる、回遊魚に悪影響が出るから反対という主張が出るかもしれない(これも反対はできない。渡り鳥や回遊魚を犠牲にしても構わないなんてとても言い張れない)。
つまり、幾通りも回答はあるし、それに反対する根拠もまた幾通りもあるのだ。しかし、万人が納得する正解を出すのは難しい。
本書は、哲学とは何を考える学問かの入門書のようなものである。「哲学は難しい」というのは容易いが、こうした問いに応えるのはそれよりも難しい。
涼しくなったら読むといいと思う。この糞暑い今読んだため、思わぬ時間を取られた。