ハーバード白熱日本史教室

2012-07-20 15:03:03 | 日記

北川智子著  新潮新書

著者は1980年生まれだそうだ。しかもカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で数学と生命科学を専攻した理系の人。その人が何故ハーバードで日本史の口座を持つことが出来たのか? は本書に譲るが、誰にでも真似が出来るものではないようだ。
まず日本史を教えるについての割り切り方である。受講者の構成を考えた講座の内容(中世に限定)、教授法(実にユニーク。もし、私が学生だったならば休まずに受講した筈)。この割り切り方は理系の人だから出来たのだろう。従来の歴史学の教授にはとても出来ない。
二つ目は、前回紹介したヒラノ教授ならば分かるであろう、大学の講師や教授を選ぶシステムである。ユニークならばやらせてみる、そして失敗したならばサヨナラというシステム(もっとも、終身教授の中には例外もあるそうだが、これは日本も同じ)。
そして、三つ目。Lady Samuraiという視点が素晴らしい。女性を武士という視点から捉えるという試みはこれまでになかっただろう。
唯、不満もないではない。例えば、日野富子。高利貸・米相場にも手を出して蓄財に励んだ女性、重金主義を当時の誰よりも早く先取りし、足利義政の政治も影響を及ぼした。あるいは前田利家の妻・芳春院。利家の糟糠の妻であり、前田家の礎を築いた人。そして近世の人だが、乃木希典の妻、静子夫人。明治天皇の葬儀当日、夫と共に殉死した。まさにLady Samurai ではないだろうか。
勿論、実際の講義では登場したと思うが、本書でも概念をハッキリさせるためには登場させても良かったのでないだろうか。

 


私の戦後追想

2012-07-20 08:17:48 | 日記

澁澤龍彦著  河出文庫

澁澤龍彦のエッセイを初めて読んだ。というのも、私にとっては澁澤龍彦は『マルキ・ド・サド選集』に始まり、<サド裁判>で完結していたからだ。だから、前回紹介した澁澤夫人の『澁澤龍彦との旅』を読んで彼の素顔の一端を初めて知ったような訳で、その流れの中で本書を読んだ次第。
それにしても、昭和3年生まれというのは微妙な歳のようだ。旧制中学に入学したのが昭和16年、太平洋戦争が勃発。旧制浦和高等学校を入学した年に敗戦。つまり12歳から17歳という多感な時期がずっと戦中だったことになる。当然、兵役には就いていない。しかし、著者によれば当時の彼等は日本が負けることは想定内であったという(ただし、今の高校生と当時の旧制の高等学校生とはレベルが全く違う)。
著者は、戦後の民主主義やマルクス主義に溺れる事はなかったと回想している。つまり、醒めていた? どうも、根本にあるこの思想が、どこか他人事のような観察者の文節に表れているように思われる。