「新型うつ病」のデタラメ

2012-07-25 08:04:00 | 日記

中嶋 聡著  新潮新書

本書で著者が挙げている事例については、殆ど知っていた。というのも、財団法人 精神分析学振興財団(現在は、公益財団法人 精神分析・武田こころの健康財団)が、数年前から「うつ病」に関するシンポジウムを開催しており、傍聴していた経験があったからだ。このシンポジウムの参加者は精神科医・産業医・臨床心理士・企業の人事部・総務課といった人達で、言わば、多角的にうつ病を検討できるシンポジウムだったので、著者が挙げた事例には事欠かなかったのだ。
ただ、このシンポジウムで話題に上らなかったテーマがあった。著者が第二章で取り上げた『「新型うつ病」がもたらした社会的弊害』である。「簡単にもらえる傷病手当金」「しばしばもらえる障害年金」「公費医療・サラ金・奨学金返済・給食費免除・その他の保障や利益」といった問題である。この問題の提示する弊害は大きい。まず、企業の労務費の負担増、そして他の労働意欲のある人の就職チャンスを奪っているという問題、さらにそれらの一部は我々の税金で賄われている事実。
ここまで来ると対岸の火事では済まされない。実はつい最近の週間文春でも『「新型うつ」は病気か? サボりか?』という特集を組んでいたが、その中である精神科医が悩んだ末に診断書を出したところ、その日のうちにとツィッターに書き込んでいたそうだ。本書にも休職が決まった時には「ヤッタという気分だった」という患者の話が紹介されていた。正直言って、意味が分からなかった。第二章を読んで納得した次第だ。
著者が言うように、これは明らかに病気ではない。手っ取り早く生活費を稼ぐ手段に「新型うつ病」が使われているとしか思えない。「利権」化しているのだ。こうなった原因は戦後教育の弊害しか考えられないのだが……。

追記 7月27日付けの朝日新聞朝刊に「うつ病治療 初の指針ー安易な薬使用 自制促すー」という記事が掲載された。要点は、日本うつ病学会は①軽症の場合、抗うつ剤を使う治療は科学的根拠が不充分として「安易な薬物治療は慎まなければならない」、②最近の若者特有の「新型(現代型)うつ病」については、「マスコミ用語であり、精神医学的に深く考察されたものではない」として、定義はできず、科学的に根拠のある治療法はないと判断。
というものだった。これで安易な診断書が減るといいのだが。