ふたつの故宮博物院

2011-08-02 15:26:09 | 日記
野嶋 剛著  新潮選書

「故宮博物院」という名の博物館がふたつある。展示物のメインも趣旨も変わらない。こういう事例は世界にも例がない。紛らわしいので、中国にあるのを「北京博物院」、台湾にあるのを「台北博物院」と称している。
これは、清朝滅亡後国民党と中国共産党が争い、敗色濃厚になった国民党の蒋介石が中国の正統の後継者を証する証しとして、故宮の財宝を台湾に移送した。中国を統一した共産党が、その後北京に博物館を設立、こちらも正統な後継者であるとして同じ名称を称したことが原因となっている。当然、両者は犬猿の仲であり、ここに日本が微妙に関係している。詳しい経過は本文を読んでほしい。実に詳しく調べており、要領よくまとめてある。
ところで、文化財は誰のものだろうか。著者も触れているが、近年自国の文化財を取り戻そうという運動が盛んで、つい最近も日本は韓国に重要文書を返還するなど、欧米、日本の博物館にとって大きな問題となっている。
しかし、文化財の真の価値を見出したのは現在所有している先進国ではなかったか。中国では文化大革命が起き、多くの文化財が破壊された。タリバーンがシルクロードの貴重な遺跡を破壊したのは、つい最近のこと。文化財の保護には安定した政情が必須条件ではないだろうか。
しかし、その国、民族のアイデンティティーを象徴する文化財は、やはりその国にあってしかるべきだろう。難しい問題である。