おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

河内山宗俊

2019-05-23 08:55:15 | 映画
「河内山宗俊」 1936年 日本


監督 山中貞雄
出演 河原崎長十郎 中村翫右衛門 市川扇升
   山岸しづ江 助高屋助蔵 坂東調右衛門
   市川莚司 瀬川菊之丞 中村門三
   市川笑太郎 中村楽三郎 沢村幸次郎

ストーリー
浪人、金子市之丞(中村翫右衛門)は、森田屋の親分(坂東調右衛門)に使えている用心棒。
今日も、縄張り内で商売をしている者たちから「ショバ代」を集金している。
そんな金子が唯一、目こぼしをしてやるのが、若い女手一つで甘酒を売っているお浪(原節子)だった。
そのお浪にはヒロ太郎(市川扇升)という弟がいたが、このヒロ太郎、最近素行が宜しくない。
たまたま、甘酒屋にやって来た、家老北村大膳(清川荘司)の刀の小柄をこっそり抜き取って盗んでいたのだ。
ヒロ太郎は、インチキ賭将棋の丑松(助高屋助蔵)が、まんまと客に騙されて50両という大金を払うはめになった現場を見ていた。
ヒロ太郎は、賭場を兼ねた馴染みの酒屋で、先ほどの客を目撃、その人物こそが、この家の主人でもある河内山宗俊(河原崎長十郎)であると知り、姉が心配して探しに来たので直次郎と変名を使って挨拶をする。
挨拶の印にと宗俊に吉原に連れて行かれたヒロ太郎は、そこで、幼馴染みの三千歳(衣笠淳子)に出会う。
その後、弟を心配するお浪を気にかける金子と宗俊は、ひょんな事から顔を合わせ、最初は対立しそうになるが、すぐに仲直りし、すっかり意気投合してしまう。
やがて、三千歳と、成行き上、入水心中に付き合ったものの、自分だけ生き残ってしまったヒロ太郎は、死んだ三千歳の代金300両を払えと森田屋の親分に迫られ、自ら身を売る決意をした姉お浪の後を追う事に。
事の次第を知った金子と宗俊も、何とか、お浪を助けようと立ち上がるのだが…。


寸評
無頼の男たちが「この美しい瞳のためなら死んでもいい」と思うような清純で可憐な女優を捜し求めた結果、見出したのが原節子だったらしく、出演者のクレジットでは現代劇特別出演の肩書きが付いている。
そのような肩書きをわざわざ与えているということは、当時は時代劇俳優という枠があったのだろう。

インチキ将棋で大金をせしめた河内山宗俊が女房のお静(山岸しづ江)に物をねだられ「買っちゃえ、買っちゃえ」を連発したり、金子市之丞と北村大膳の掛け合いや、小柄のセリでの友人同士の(高勢実乗、鳥羽陽之助)やり取りなどは当時のユーモアだったのだろうと思わせる。
そのような軽妙なシーンが随所にあって、結構楽しめる作品だ。
お浪に好意を持っている金子市之丞と河内山宗俊が決闘を始めた場面では、金子市之丞が抜いた刀でお浪の指を傷つけてしまい、二人してそのケガを心配する場面なども滑稽だ。
これをきっかけに二人は親しくなり、最後は二人してヤクザに立ちに立ち向かう任侠の世界を作り出す。

ラストのこの二人の立ち回りに至るカット割りも冴えている。
ヒロ太郎と三千歳の心中場面では、ゴーンと金の音が鳴りこの画面に変わる。
柳に月で薄曇りの絵のような光景で、次のショットはうなだれた三千歳である。
切り替えされたキャメラにヒロ太郎が映される.
そして次は水に杭が出ている空ショットで、水に映る月影を映し哀れを誘う。
次はキャメラはロングになって二人が大川の橋の手前にいる全体が映される。
ヒロ太郎は女の覚悟を確かめ、俺も一緒に死ぬと言い出す。
キャメラはいきなり場面を変えて川辺を歩く通行人をロングで映しだし、ボチャンという水音が二度聞こえる。
そしてショットはいきなり水面に何かが落ちて沈んだ波紋だけを映し出し、これだけで男女が身投げしたことを表現している。
当時の映画としては非常にリズム感のある演出だと思う。
さらに場面は続いて、お浪が家に戻ってくるとヒロ太郎が縁側にたたずんでいるのだが、裏庭に干された着物もあり、それで彼だけが心中から助かったことが観客に解る。
余分なシーンを省いて状況を理解させる上手い演出が光る場面だった。

そして圧巻が前述の最後の立ち回りだ。
河内山宗俊、金子市之丞、ヒロ太郎の三人がどぶ川の中を通って逃げ、大勢の敵と狭いどぶ川で戦いは始まる。
当然画面のアングルは縦の構図で、手前や奥の敵に挟まれて凄まじい戦闘が繰り広げられるのだが、臨場感が溢れ出る見事なカメラワークだ。
そのアングルを補うように河内山宗俊とヒロ太郎が逃げる姿を横移動で捉えて盛り上げている。
この乱闘シーンだけでも語りあえることができる凝ったシーンだ。
宗俊と市之丞がお浪のために命を投げ出して戦ったり、 宗俊の危機には身を挺する女房と、それを心配する市之丞に「あいつは俺の女房だ」と言う宗俊。
任侠映画のようでもあり、「男意気とは何か」を堪能できる素晴らしく良くできた作品だ。


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