おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

血と骨

2019-11-02 14:12:57 | 映画
「血と骨」 2004年 日本


監督 崔洋一
出演 ビートたけし 鈴木京香 新井浩文
   田畑智子 オダギリジョー 松重豊
   濱田マリ 中村優子 北村一輝
   柏原収史 寺島進 唯野未歩子

ストーリー
1923年。日本で一旗揚げようと、17歳で済州島から大阪へ渡って来た金俊平。
蒲鉾職人となった彼は、24歳の時、幼い娘を抱えながら飲み屋を経営する李英姫と強引に結婚し、花子と正雄のふたりの子供をもうける。
しかし、酒を飲んでは荒れ狂う彼に、家族の心が安らぐ日はなかった。
戦争中は行方知れずだった俊平が、ふいに戻って来たのは45年の冬のことだった。
弟分の信義らを従えて蒲鉾工場を始めた彼は、強靱な肉体と強欲さで成功を収め巨額の富を得る。
ところが、そんな彼の前にかつて済州島で寝盗った人妻に生ませた息子・武が現れた。
気ままに振る舞う武は、やがて俊平に金を貰って出て行こうとするも、家族には鐚一文遣う気のない俊平と大乱闘となってしまう。
一年後、自宅のすぐ目の前に妾宅を構えた俊平は、そこへ清子と言う若い女を囲い、高利貸しを始めた。
しかし、清子が脳腫瘍で倒れると、やり場のない憤怒は再び家族へと向けられていく。
しかも、介護を名目に新しい愛人・定子を迎え入れたかと思うと、長年の苦労が祟って入院した英姫に治療費を払ってやらず、正雄とは衝突を繰り返し、夫・希範の暴力に耐えかね自殺した花子の葬式で暴れる身勝手ぶりだが、その俊平も寄る年波には勝てなかった。
体の自由が思うように利かなくなった彼は、定子に捨てられ、英姫にも先立たれる。
ところが、それでも金への執着だけは衰えず、彼はたったひとり残った肉親である正雄に借金の取り立ての仕事を手伝うように言うが、正雄にその気はなかった。
その後、定子との間に出来た息子・龍一と北朝鮮へ渡った俊平は、84年冬、78年の生涯を静かに閉じた。


寸評
自らの肉体と意思のままに生きたビートたけし演じる金俊平よりも、波乱に満ちた人生を送る鈴木京香演じる李英姫に存在感があった。在日朝鮮人の辛さ、強さを演じてイメージしている朝鮮人よりも朝鮮人らしかった。
勤め先で主任の子供を宿して追い出される若い頃の姿から、妾の姿を近くで見ながら過ごす俊平の妻としての姿、また連れ子の春美や花子、正雄の母としての存在、そして副作用らしきものに犯されながら闘病生活を送る姿など、多彩な役回りを見事なまでに演じきっている。
李英姫に存在感があったというよりも、きっと鈴木京香に存在感があったのだと思う。

俊平が脳腫瘍で倒れた清子を見捨てることなく介護するする姿に、彼の持つ二重人格的な側面を描き出して、暴力的で金だけに執着する俊平と、それだけではないもう一面を描き、その性格に深みを持たせていたと思う。
そしてその清子を自らの手で楽にしてやるシーンは、残酷で薄情な男と言うよりは、僕には彼の奥底に潜むゆがんだ優しさに思えた。
もしかすると、清子だけが心を許した女だったのかもしれない。

俊平の家族は、いわゆる家庭内暴力に浸りきっている家族で、逃れたくても逃れられない家族の絆のようなものに翻弄される姿が痛ましい。
妻の李英姫はもとより、花子、正雄もその暴力を恐れている。まして娘の花子は嫁いだ夫の暴力にも耐えかねて悲劇的な末路を迎えてしまう。
唯一、たくましくしたたかに生きる女が定子で、体が不自由になった俊平を見捨てる所などは、女の強さを感じさせ愉快であった。

俊平に寄り添う弟分の信義(しんぎ)・松重豊が非人間的な世界に、常識的な人情や温かみを持ち込むいいキャラクターだった。
葬式のシーンや、電車の中で弁当を食べるシーン、スマートボール場でのやりとりなど、重くなりがちな展開に味付けを行っている。そして、もしかすると彼は俊平の妻である英姫に思いを寄せていたのではないかと思わせるシーンの挿入が所々にあって、人間関係を面白くしていた。

ただ欲を言えば俊平の暴力性が、暴れまくって家財道具などを破壊し、気の向くままに女とヤル割には空回りしていたように感じた。ビートたけしの主演作では「その男、凶暴につき」の我妻の方が破滅的とも言える暴力の恐ろしさが出ていたと思う。解説では極道にも恐れられる男とあったが、そのすご味にもう一歩踏み込めたのではないかと感じた。

花子役を演じた田畑智子さんは、ここんとこ「隠し剣 鬼の爪」「血と骨」と立て続けに出演作を見たが、いい女優さんに育っている。
「お引越し」で初めて見たあどけないしっかり者の少女がこんなに成長していたのだと、変なところで感激した。


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