おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ネットワーク

2021-08-24 07:05:21 | 映画
「ネットワーク」 1976年 アメリカ


監督 シドニー・ルメット
出演 ウィリアム・ホールデン
   フェイ・ダナウェイ
   ピーター・フィンチ
   ロバート・デュヴァル
   ネッド・ビーティ
   ウェズリー・アディ

ストーリー
最盛期に28%の視聴率を誇ったUBSのハワード・ビールのイブニング・ニュースも今や12%という低落。
これが直接の引金となり、ジェンセン率いるCCAがUBS乗取りを果たし、創立者は会長に追いやられ、CCAより新しい社長が就任した。
報道部長マックスはそんなビールに番組解任を通告するが、翌日、ビールは自分が辞めさせられる事、さらに自殺予告までを本番中にしゃべり、八方破れの暴言に視聴率は27%と上がった。
野心家で報道部大改革以来クローズアップされているダイアナは反応し、ビールを現代の偽善と戦う予言者として、再び売り出しを図ろうとした。
ある雨の日、突然生本番中に入りこんだビールの社会不満の言動が大ヒット。
次々にかかってくる問い合せの電話に金脈を掘り当てた喜びのダイアナ。
新しい『ビール・ショー』は人気を博し48%の大台へ達し、真に史上画期的な報道番組となった。
ダイアナのアイデアはエスカレートし、次は過激派グループと、ビールをからませた衝撃シリーズとなる。
ダイアナの狙いはズバリ当たり、UBS年次総会で認められる彼女だったが成功もつかの間、現代の予言者として過激化するビールが、UBSの親会社CCAを非難し始める。
ジェンセンは、ビールの言動変更を迫り、翌週、ビールはジェンセンの理論をとうとうとぶつ。
だが低下する視聴率にダイアナと社長は、なんとかジェンセンのお気に入りロボットとなったビールを番組から降ろさなくてはと、切羽詰まった彼女らが最後にとった手段は、想像を絶する凄まじいものだった。


寸評
日本のテレビ界も視聴率を追うあまり、やらせ番組などが出現し番組作りの姿勢と内容低下が顕著になってきた。
本作はアメリカのテレビ業界を描いているが、視聴率に翻ろうされる姿は日本と同様で、視聴率の為なら何でもありの世界を痛烈に批判した風刺劇となっている。
ピーター・フィンチのビール、フェイ・ダナウェイのダイアナの2名のキャラクターは強烈で、その人物キャラクターを演じきった二人がそれぞれアカデミー賞の主演男優賞、主演女優賞に輝いたのも納得である。

ビールはかつては人気のあったキャスターだったが、今は落ち目で番組降板が決まっている。
やけっぱちになったビールは番組放送中に次回の放送中に自殺することを表明し話題騒然となる。
それに目を付けたのがエンタメ部門のダイアナである。
彼女はビールをエンタメ番組に転出させ、預言者なども登場する番組を人気番組に仕立て上げ、ビールが番組中で発する「俺はとんでもなく怒っている。もうこれ以上耐えられない!」が大衆の支持を受ける。
世の中に何らかの不満を持っているのが大半で、所得格差はその最たるものだろう。
ビールが電報をホワイトハウスに送り付けろと煽り立てると、本当に大量の電報が届くというすさまじさである。
不満が溜まっていることへの観客の共感もあったと思うが、裏にはテレビから発せられることを疑いもなく信じて従ってしまう大衆の無知も告発しているように感じる。
ダイアナの視聴率至上主義はエスカレートしていき、テロの実行犯が自らの犯行を撮った映像を流すという過激なものとなっていく。
FBIが犯人逮捕につながるその映像提供を申し出ても、報道の自由と取材源の秘匿を盾に要求を拒否する。
過激であればあるほど人々の関心が高まり、大衆と番組はより過激な映像を求めるようになっていく。
日本もアメリカもテレビ局は同じなんだなあとの感想は自然に湧いてくる。
番組は益々過激になり、それがマンネリとなって飽きられていく運命にある。

更にテレビ局の会長が登場して独自の論理を展開し、ビールは洗脳されたようにその理論を訴える。
会長の論理は、世界は国家とか思想とかに支配されているのではなく、巨大企業を中心とした金が世界を支配していくと言うものである。
現実にも経済援助の名を借りて後進国を支配していく中国のような国家もあるのだ。
1977年の時点で40年後の世界を予見していたことになる。
テレビ局から干され、家庭を捨ててアマンダと不倫関係に陥るビールの元上司のマックスという男がいる。
彼はアマンダに精神構造の異常さを指摘するが、家庭を捨てた男が正常に見えてしまうくらいアマンダの行動は異常を来たしてくる。
それが最終的に彼女が選んだ行為なのだが、こうなってくると法律も道徳もあったものではない。
視聴率さえ取れれば何をやっても良いと言うゆがんだ精神で、日本のテレビ局の現状にも思い当たるフシがあるから、テレビマンの職業病的精神構造なのかもしれない。
マックスの奥さん役の、ベアトリス・ストレイトがわずか5~6分の登場にもかかわらず助演女優賞を受賞しているのは驚きで、ウィリアム・ホールデン演じるマックスの不倫も物語に変化を付け加えている。
主演級4人の演技合戦が見ごたえのある作品である。


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2 コメント

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「ネットワーク」について (風早真希)
2024-06-29 08:52:10
この映画「ネットワーク」の監督のシドニー・ルメットは、TV界の出身で、1950年、CBSテレビに入り、5年間に500本のドラマを手がけて、1957年に「十二人の怒れる男」で映画界に移りました。

脚本家のバディ・チャイエフスキーもTV界出身であり、この二人は、その熟知したTV界に対する不信を、この作品で告発したのだと思います。

バディ・チャイエフスキーは、「この作品は、TVというマスコミ媒体が、民衆の意思を操る恐ろしい力と化し、個人と伝統の国であるアメリカが崩壊し、次第に標準化され、公分母化してゆく、不気味な状態を描いたものだ」と述べています。

日本のTV界は、低劣な番組が氾濫していて、アメリカとは違った形の愚民化が進んでいると思います。

特に、報道関連の番組は、本来、権力に対するチェックを、国民に変わって行うべきなのに、それを全く行わず、忖度が蔓延し、真のジャーナリズムが完全に失われ、国民を洗脳する装置となってしまっていて、もはや絶望的な状況になっている。

TV界での良心派を、ウィリアム・ホールデンが、追放される報道部長の役で演じているが、フェイ・ダナウェイとの初老の恋も不毛に終わる。

この映画は、TV界のはらむ危険な問題点として、視聴率競争の他、演出によって、ヒーローを作り出していくシステムが、興味深く、内側から描き出されているが、ABC、NBC、CBSの三大ネットワークに挑む、UBSの属するコングロマリットCCA社の資金源が、アラブであり、アメリカから流出した巨額のドルが、アメリカを支配しているという、ニュースキャスターの解説が、CCA会長の激怒を買う場面も面白い。

ストレスから狂ってしまい、神がかり的に社会悪を、「怒れ、怒れ」と大衆に叫び続けるアンカーマンのピーター・フィンチは、CCA会長のネッド・ビーティに呼び出されて、その大熱弁に洗脳され、一転して、法人宇宙論の暗示にかかってしまう。

すなわち、「国家やイデオロギーは死んでしまった。そして、もう個人なんて存在しない。今の世界は、持株会社で支配される法人の複合体にすぎない。アメリカのドルとか、アラブの金とか言うが、今の世界は、通貨の融合体制下にあるのだ!」といった、会長の経済論を、この映画で聞こうとは思わなかった。

法人宇宙論に変じてから、この番組のビール・ショウの視聴率は低下してしまうが、会長がその思うがままになるピーター・フィンチ扮するハワード・ビールを手放さないため、視聴率至上主義のフェイ・ダナウェイとロハート・デュバル扮するUBA社長などの策謀で、ハワード・ビールは、生放送の最中に殺されて、この番組は終りを告げるという衝撃的なラストを迎えますね。
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マスメディアの劣化 (館長)
2024-06-30 06:13:07
近年のマスメディアの劣化はひどいと思います。
特にテレビ局の劣化はひどくて、報道番組だけではなく一般の番組も製作費の制約なのか同類のつまらない番組ばかりです。
NHKの映画放送も再放送ばかりです。
この映画とは関係のないコメントになりました。
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