おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

バーバー吉野

2021-08-30 07:17:47 | 映画
「バーバー吉野」 2003年 日本


監督 荻上直子
出演 もたいまさこ 米田良 大川翔太
   村松諒 宮尾真之介 石田法嗣
   岡本奈月 森下能幸 たくませいこ
   三浦誠己 浅野和之 桜井センリ

ストーリー
ある山あいの田舎町には「バーバー吉野」という散髪屋が一軒あるだけで、子供たちはみんな前髪を短く切り揃えた「吉野ガリ」と呼ばれる同じ髪型にする慣わしがあった。
その散髪屋の子に吉野慶太(米田良)という少年がいて、彼の同級生のヤジ(大川翔太)、カワチン(村松諒)、グッチ(宮尾真之介)の三人は店に遊びに来るのが常だった。
ある日、彼らの小学校に東京から坂上君(石田法嗣)という転校生がやって来る。
彼の髪型は茶髪の横分けでかっこよかった。
授業が終わると、散髪屋の息子の慶太は先生(三浦誠己)から坂上君のために町を案内するように頼まれる。
慶太の母(もたいまさこ)が店から出てきて坂上君に「君が転校生の坂上君だね、うちで散髪して早くみんなと同じ髪型にしないとだめだよ」と言うが、坂上君は強く反発心を持つのだった。
その後、坂上君は学校で先生にも「みんなと同じ髪型にして、早くみんなと仲良くなりなさい。」と言われ、とうとう病気を理由に学校に来なくなってしまう。
学校のプリントを坂上君に渡すために、慶太たち四人は坂上君の家を訪ねたところ、坂上君の部屋で彼が引越しの時に持ってきたという数冊のエロ雑誌があるのを発見し恐るおそる眺める。
グッチだけは小学生はこんなの見ちゃいけないんだと、エロ雑誌を見ようとしなかった。
カワチンが「よし!坂上君は髪型を変えないでいいことにしよう。俺たちの仲間にする。この雑誌は俺たちの秘密基地に隠しておこう」と言ったので、坂上君は慶太たちの仲間となった。
グッチは親に見つからないように、エロ本をかばんの中に入れたまま学校に登校していたが、とうとう先生に見つかってしまう。
そのことを知った吉野のおばちゃんは、転校生の坂上君が原因で町の風紀を乱していると言い張り、そして坂上君の髪型を変えることに執念を燃やしはじめる。


寸評
僕は田舎町の育ちで、子供の頃には秘密基地を造れるような場所があちこちにあった。
藪の中に空間を作り、そこにゴザなどを敷き詰めて潜んでいたし、滅多に人が来ない荒れた農機具小屋なども隠れ家となっていたのだが、そんな田舎町もすっかり様子が変わりそのような場所はなくなっている。
描かれている場所は僕の田舎町よりももっと寂れた山間の村である。
そこを舞台に荻上監督はエロ本を読みふけり、好きな女の子の胸のふくらみや下ネタで異様に盛り上がる男の子のアホな生態を活写していく。
見ながら僕は少女だった荻上直子さんが男の子たちの生活にあこがれを抱いていて、その思いを処女作に繁栄させたのではないかと想像した。
慶太たちは仲良し四人組だが、それぞれがクラスの上杉真央の事が好きで、彼らは恋のライバルでもある。
経験からすれば、この頃の男の子には少し大柄で大人びた感じのする可愛い女の子が人気だったように思う。
小学校時代の同級生の間では、一人の女の子をめぐってお互いに嫉妬めいたものが漂っていた(子供だけにそれは微笑ましいものではあったのだが)。
慶太たちの上杉真央を巡るやり取りは、懐かしくもあり忘れていた感情をくすぐられるものがあった。

荻上監督は、村の融和のシンボル的存在でありながら、同時に子供たちの自由意思を抑圧する最高権力者として 吉野のおばちゃんを登場させ、このユニークなキャラクターを、もたいまさこが熱演している。
少年たちは敢然とおばちゃんに反旗を翻すのだが、時としてそれは現在の政治的権力者への闘争として感じられるような描き方がなされる作品も見受けられるが、この作品ではそのような雰囲気は全くない。
あくまでも、やんちゃな男の子たちを描いた少年映画なのだ。
荻上監督は脚本も担当していて、鉄棒を滑り降りてきた男の子に「ちんちんを擦りつけると気持ちがいいんだぜ」などという言葉をはかせているのである。
女性監督なのにそれを言わせるかと、僕は笑ってしまった。

坂上君を加えた五人は「吉野ガリ」に抵抗する。
村の伝統だと思われている「吉野ガリ」を変更するのは大変だ。
町内でも、長年行われていたやり方を皆がやめればいいと思いながらも実行できない事がある。
誰かが思い切って口火を切らないと変わることはないのである。
しきたりを変えるのはそれほど大変なのだが、ましてや伝統と呼ばれるようなことを変えるのは至難の業である。
村人の大半が入れ替わらないと変えることは出来ないだろう。
それだからこそ伝統なのだ。
慶太の父親は奥さんを諭すが、逆に「あんた、何言ってんのよ」と反撃されてしまう。
結局夫の意見を聞き入れたのだろうが、退職した慶太の父親と吉野のおばちゃんの夫婦関係はその後どうなったのだろう。
おばちゃんには理髪店経営で一家を支えていくバイタリティを感じる。
吉野のおばちゃんも時代の流れに逆らえず自分の思いを断ち切るが、桜井センリ演じる三河のおじちゃんが言う「これも時代の流れで、伝統は伝説となるんだよ」は名言だ。


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