おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

パスト ライブス/再会

2024-06-24 07:33:00 | 映画
「パスト ライブス/再会」 2023年 アメリカ / 韓国


監督 セリーヌ・ソン
出演 グレタ・リー ユ・テオ ジョン・マガロ
   ムン・スンア イム・スンミン ユン・ジヘ

ストーリー
ソウルに暮らす12歳の少女ナヨンと少年ヘソンは、互いに恋心を抱いていた。
24年前、ナヨンは幼馴染みのヘソンをソウルに残して、両親と共にカナダに移住する。
12年後、名前をノラに変えたナヨンはヘソンが自分を探していることをSNSで知り、そこから2人のオンラインでのやり取りが始まる。
懐かしい、だけでは済まされない、互いの心に恋する気持ちを確認しつつ。
だからと言って、2人を隔てる距離は容易に埋められない。
ナヨンは今、ニューヨークに移り住んで劇作家になる夢を捨ててないし、ヘソンは兵役を終えて大学に進学し、交換留学生として上海に行く予定なのだ。
36歳となったノラは作家のアーサーと結婚していた。
ヘソンはそのことを知りながらもノラに会うためニューヨークへと向かい、2人は24年ぶりにめぐり会う。
「ソウルに帰りたい。でも帰れない」と呟くナヨンを受け止める勇気がヘソンにはない。
でも、2人はかすかに感じ始めている。
イニョン(縁)で結ばれた者同士の強くて、切ない運命を。
そして、前世からの繋がりを。


寸評
冒頭は3人の男女がバーで会話をしている場面である。
三人の関係はよくわからなくて、3人の過去に何があって、どうしてここにいるのかがその後に描かれていく。
多くの人が自分の過去を投影できる描き方が観客を引き付ける。
人物をとらえるショットに音楽が重なりムードを醸し出す。
青春ラブストーリーから三角関係を描くようになっていくが、ドロドロとしたののしり合いがあるわけではなく、ましてや肉体関係を持つわけでもない静かな描き方がたまらない。
12歳のナヨンとヘソンはとても仲がよくて、2人はともに成績優秀だ。
幼いながらも恋人同士のような関係を築いている。
ところが、ナヨンの両親がカナダに移住することになり2人は離れ離れになってしまうのだが、その時の別れのシーンが印象的だ。
学校から二人が連れ立って帰ってくる。
今まで黙っていたヘソンがナヨンを呼び止め「サヨナラ」とだけ言って分かれ道をそれぞれの方へ歩いていく。
お互いの気持ちは分かっていたのに、それ以上の事が言えずに離れ離れになってしまう。
12年後にSNSを通じて存在を知り、2人はビデオ通話を介してすぐに打ち解けて親密になる。
2人ともお互いの関係が特別なものだと、心のどこかにあったのだろう。
パソコンを通じて交わす会話シーンが長々と続くが、内容はたわいもないもので微笑ましい。
インターネット技術によるものだが、僕たちのころは手紙か電話だった。
電話はまだまだ一家に一台という時代ではなく通信料は高額だったので、やり取りはもっぱら手紙だった。
顔も見られず、声も聴けないツールだったが、行間で想像が膨らんでいくありようは今から思えば趣のあるものであった。
若い二人には、それでも乗り越えられないものがある。
離れ離れになってしまうと、簡単には会えなくなってしまう。
ましてやナヨンとヘソンはニューヨークとソウルの距離だ。
二人は疎遠になってしまう。
ナヨンはノラと名前を変えアーサーと結婚してしまっている。
それでもヘソンはナヨンを忘れることが出来ない。
ヘソンもちょっとしたきっかけで恋人が出来ながら、経済的な条件が合わなくて別れたのだが、本当の理由はナヨンの面影がヘソンを支配していたのだろう。
ヘソンの中には素敵だったナヨンがいつまでもいるのだ。
カメラワークは2人の愛する喜び、苦しさ、そして葛藤や微妙な距離感を映し出す。

ナヨンは「イニョン」の話をよくする。
「イニョン」とは「縁」のことで、韓国人のナヨンが語ると「縁」「前世」「来世」という言葉に東洋的な思想を感じ、日本人の僕はそれを素直に受け入れることが出来てしまう。
「もしもあの時、勇気を出して行動していたら、違った選択をしていたら」との思いが湧く。
そんなことを感じさせたところで冒頭の場面が再び登場する。
冒頭では分からなかった三人の関係と雰囲気がにじみ出てくる。
それまで以上に縁を感じ合っているナヨンとヘソン、そして、まるで爪弾きにされたようなアーサーの間に流れる気まずい空気を映し取ったものだ。
ナヨンとヘソンは韓国語で親しく語り、時々ナヨンはアーサーに通訳して伝える。
アーサーは二人の間に割って入ることが出来ない。
ヘソンはナヨンを奪ったアーサーへの嫉妬があるが、アーサーにも元カレのヘソンへの嫉妬がありナヨンがヘソンのところへ行ってしまうのではないかという不安もある。

ラストシーンはこの映画の白眉となっている。
ナヨンはアーサーに「ウーバーまで送ってくる。すぐ帰って来るわ」と言って、ヘソンと家の外に出てウーバーの車を待つ。
別れるまでわずか2分の時間だが、その間二人は見つめ合ったままで一言も発しない。
24年前の別れが頭をよぎる。
ヘソンは「縁が合ったら来世で会おう」と言って車に乗り込む。
ヘソンにしてみれば精一杯の強がりだったように僕には思えた。
ナヨンはトボトボと歩きむせび泣く。
アーサーはそのナヨンを優しく受け止める。
12年前にグリーンカード取得目的で結婚したナヨンとアーサーも、縁あって結ばれた仲なのだと思うし、結ばれないこともまた運命なのだと思う。
グレタ・リーとユ・テオの演技は自然体で、作品をリアルなものとしていたし、セリーヌ・ソンの演出は冴えわたっていた。