おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

タバコ・ロード

2024-06-07 06:52:31 | 映画
「タバコ・ロード」 1941年 アメリカ


監督 ジョン・フォード
出演 ダナ・アンドリュース チャールズ・グレープウィン
   ジーン・ティアニー マージョリー・ランボー
   ウィリアム・トレイシー スリム・サマーヴィル
   ウォード・ボンド
ストーリー
1930年代初めのアメリカ南部ジョージア州の農園地帯、通称“タバコ・ロード”は綿と煙草の生産で栄えたこの土地も今ではすっかり荒れ果ててしまっていた。
この地に豪邸を構えながらも貧困にあえぐ農家の老いた主ジーター・レスターと妻エイダ、息子デュード、娘エリーメイの元に、末娘パールの夫ベンシーが妻の愚痴をこぼしに訪ねてきてひと騒動が起きる。
そんなある日、元地主の息子ティムが銀行家のペインと共にジーターらの元を訪ねてきた。
ジーターの土地は先祖代々から守り続けてきたのだが、土地は銀行の手に渡っており、立ち退きを免れるには土地代100ドルを支払うしかないとジーターはティムやペインから告げられた。
近所に夫を亡くしたベッシーが帰ってきており、信心深いベッシーはデュードを伝道活動に誘おうと思いついた。
一方、ジーターも亡き夫の遺産に目が眩んでしまい、20歳のデュードと38歳のベッシーは年の差がありながらも結婚することになった。
ジーターはこれで100ドルが用意できると思った矢先、なんとデュードとベッシーは彼女の亡き夫の保険金800ドル全額をはたいて車を買ってしまっていた。
ジーターはデュード夫妻の車で薪を売りに行ったが、慣れない運転で新車をボロボロにしてしまった。
薪は売れないまま夜になり、ジーターは夫婦が寝静まった隙に車を奪い、二人を置き去りにして走り去った。
ジーターは土地を立ち退きになった場合に行くことになる救貧農場を下見に立ち寄り、車を100ドルで売り飛ばそうとしたが、相手の男は警察署長であり、ジーターは散々説教をされた挙句自宅に送り返されてしまう。
すっかり心の折れてしまったジーターとエイダは救貧農場行きを決意したところ、妻に逃げられたというベンシーがやってきたので、ジーター夫妻は末娘の代わりとしてエリーメイをベンシーに嫁がせることにした。
夫婦二人だけになったジーターとエイダはペインに金を払えなかったことから諦めて救貧農場へと出発した。


寸評
1930年代のジョージア州を舞台に、不毛の土地に生きる極貧の農民一家の暮らしを、温かなユーモアを交えて描いているが、僕にはドタバタ劇に見えてこれがジョン・フォードの作品なのかと疑ってしまう。
登場する人物にまともな人間がいないのにもついていけない所がある。
食べるのにも困っている一家は、娘の夫が持ってきたカブを奪い取って食べる。
息子のデュードはちょっと頭が弱そうだし、父親を父親とも思っておらずクソジジと叫んでいる。
老夫婦は子供たちより自分たちの喰いぶちを優先し、貰ったトウモロコシも子供たちが帰ってくる前に食べようといって食べ始める。
息子のデュードが帰ってきたら食べかけのトウモロコシを隠すという徹底ぶりである。
とにかくこのデュードは賑やかと言うよりうるさい存在で、おまけにクラクション狂いで騒がしいことこの上ない。
面白い存在と言うより、僕にはうっとうしい存在に思えた。

娘のパールは登場しないが、夫のベンシーが「妻のパールが口をきいてくれない」と訴えに来る。
父親であるジーターに、お前にも悪いところがあるのではと言われたベンシーは、「怒鳴ったり、物を投げたり、なぐtt来しているが、それでも何も言わない」と嘆くのはユーモアの域を超えている。
パールは夫のDVに耐えかねているのだ。
そのことを告発している風には思えず、僕はこのあたりのユーモアにはついていけなかった。

ベッシーは夫と死別して実家に帰ってきている自称伝道師である。
笛のような物を鳴らしてはお祈りの唄を歌い始める。
神のお告げとして、39歳のベッシーは20歳のデュードと結婚するが、おつむの方はデュードと似たり寄ったりな所がある。
買ったばかりの新車に薪を投げ入れるシーンは安っぽいドタバタ喜劇を連想させる。
彼女の住む家と暮らしはマシな方で、老夫婦の家はボロ屋だし暮らしぶりは極貧である。
作中で語られる会話はまともなものは無いと言ってもいいぐらいで、僕はうんざりするものがあった。

ジョン・フォードを感じさせたのはラストシーンに至るカメラとストーリーであった。
老夫婦は土地を諦め救貧農場へ向かう。
モノトーンの画面に映し出されるショットは詩情があふれ、老夫婦の心の内を無言のうちに表している。
そこへ唯一のまともな人間と思えるティムが現れる。
ティムは元地主の息子だが、どんな経緯があったのか土地は銀行の抵当に入れている。
担保の土地を銀行に取られるのだが、なけなしの金で老夫婦を助けてやる。
「猶予を与えたのはあなたの綿作りの腕前を確かめるためだ。父親にしたように、今度は自分につくしてくれ」という言葉にグッと来るものがある。
結構いい加減なジーターが夢を語って終わるが、畑仕事だけは真面目にやるのだろう。
それにしても公開が47年も遅れたことが分かるような内容で、僕は評価しない。
全編を通じて詩情豊かに描けたと思うのだが、ジョン・フォードはドタバタ喜劇を目指したのだろうか。