おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

悲愁物語

2024-06-29 08:07:46 | 映画
「悲愁物語」 1977年 日本


監督 鈴木清順
出演 白木葉子 原田芳雄 岡田真澄 和田浩治
   佐野周二 小池朝雄 宍戸錠 野呂圭介
   仲谷昇 葦原邦子 左時枝 江波杏子

ストーリー
女子体操競技で世界中を熱狂させたチェブルスカをライバル社の極東レーヨンにさらわれた日栄レーヨン社長の井上(仲谷昇)は、対抗馬のタレント発見を急ぐよう命令する。
企画室長の森(玉川伊佐男)や広告代理店の田所(岡田眞澄)は、若くてプロポーション抜群のプロゴルファー・桜庭れい子(白木葉子)の起用を決定し、れい子をまず女子プロゴルフ界のチャンピオンにしなければと、雑誌「パワーゴルフ」の編集長でれい子の恋人でもある三宅(原田芳雄)に特訓をたのむ。
三宅に依頼を受けた高木(佐野周二)のハード・トレーニングによって、れい子が全日本女子プロゴルフ選手権に優勝したことで彼女の人気は爆発し、日栄レーヨンのポスターは店頭からまたたくまになくなった。
れい子は、日栄レーヨンと専属タレント契約を結び、五千万円を手にする。
れい子は、弟の純(水野哲)といっしょに郊外に大邸宅を構え、テレビのホステスにも起用された。
しかし、れい子の家の近所の主婦たちの憧れは、しだいにドス黒い嫉妬へと変っていった。
多忙なれい子の唯一の心のやすらぎは、三宅の胸に抱かれている時だけであった。
そんなある日、三宅とれい子の乗った車が近所の主婦、仙波加世(江波杏子)をはねてしまった。
実は、れい子に嫉妬した加世が自分から車に飛び込んだのだが、二人はその場を逃げてしまった。
れい子の弱みをにぎった加代は、れい子をメイドのように酷使し、邸宅を我が物顔で使用して友子(左時枝)など近隣の主婦たちと傍若無人の大騒ぎを繰り返す。
あろうことかそのうえ、加世はれい子に自分の亭主(小池朝雄)に抱かれることを命じた。
姉を自分だけのものと思っていた純が、ついに主婦たちの蛮行に怒りを爆発させた。

寸評
製作は三協映画と松竹で、制作者に梶原一騎、藤岡豊、川野泰彦           、浅田健三、野村芳樹が名を連ねている。
劇画の世界の梶原一騎、テレビアニメの世界の藤岡豊、実写映画の世界の川野泰彦という別々の世界で存在していた製作者が「三人で協力する」ものして命名されたのが三協映画である。
これに脚本家の大和屋竺が加わり、10年間ほされてどうしようもなかった鈴木清順が監督することで、最高にどうしようもない作品が出来上がったと思えるのがこの「悲愁物語」である。
鶏頭牛尾で、どうせなら最高の駄作となっていることで存在感を示しているというのが僕の印象だ。

前半はプロゴルファーを目指すスポコン物の雰囲気でスタートするが、B級どころか子供だましもいい加減せよと言いたくなるような描写が続く。
それが後半に入るとホラー映画の様相を呈してきて、普通の女が魔女のような女の魔女狩りによって破滅に向かう姿を描くようになる。
狂った女を演じる江波杏子の存在感が際立っている。
突如、江波杏子の顔が緑色になる時があるのだが、それ以外にも色が強調されるシーンが随所にちりばめられていることに自然と気が付く。
緑は狂気の象徴であり、黄色は生を、黒は死を表し、白は無垢であり赤は性を表していたと思う。
少年純が彼を慕う少女と対面するときは白いシャツを着ていて、彼は部屋を黄色の縄梯子で出入りしている。
そう言えば純たちが語らう背景は桜が満開で、最後のれい子が着ているドレスにピンクの模様が浮かんだから、ピンクは愛の象徴だったのかもしれない。
れい子が三宅と接触する時のマニュキュアの色はまっ赤であり、加代と接触する時は緑もしくは黒、純と乃入浴シーンでは黄色が用いられている。
もちろんれい子の最後のマニュキュアは黒であり、分かりやすい演出だ。
三宅と田所が殴り合いを繰り広げる場面では、あたかも赤と緑の対決と言った風だった。

れい子を演じたのが白木葉子という新人女優である。
記憶に残る女優さんではなかったように思うが、僕たちの年代の者にとって白木葉子と言えば、梶原一騎原作、ちばてつやによる「あしたのジョー」における矢吹丈をリングへ導く財閥令嬢でありヒロインの白木葉子なのだ。
梶原一騎が制作者の一人だったから、このヒロインの名前を芸名にしたのだろうと思われる。
白木葉子が演じるれい子が江波杏子演じる仙波加世によって蝕まれていく様子は滑稽なぐらい強調的に描かれているが、言いがかりとも言える理由で逆恨みの犯行を起こす事件は珍しいことではなくなっている。
社会はやはり蝕まれているのだろう。
野次馬的な主婦たちの恐るべきパワー、モンスター主婦の出現である。
僕は江波杏子よりも、この主婦たちの方に嫌悪感と恐怖感を持った。
江波杏子は悪意を持って行動しているが、主婦たちは罪悪感をまったく持っていなくて、群集心理によるある種の暴動行為である。
抹殺すべきは登場した主婦たちではなかったか。
それにしても自己満足に徹したヒドイ映画だったなあ。


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