おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

殺人狂時代

2023-11-11 08:22:32 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/5/11は「グレン・ミラー物語」で、以下「黒い雨」「軍旗はためく下に」「刑事ジョン・ブック/目撃者」「KT」「軽蔑」「刑務所の中」「激突!」「けんかえれじい」「恋におちたシェイクスピア」と続きました。

「殺人狂時代」 1967年 日本


監督 岡本喜八
出演 仲代達矢 団令子 砂塚秀夫 天本英世 滝恵一
   富永美沙子 久野征四郎 小川安三 江原達怡
   川口敦子 大前亘 伊吹新

ストーリー
犯罪心理学の大学講師桔梗信治(仲代達矢)はある日、驚くべき人物の訪問を受けた。
男は「大日本人口調節審議会」の間淵(小川安三)で、信治の命を貰うと言う。
しかし、間淵は信治の亡き母のブロンズ像を頭に受けてあっけなく死んでしまい、信治は単身「審議会」に対することになった。
この団体は、実は人口調節のために無駄な人間を殺すのが目的で、会長はヒットラーに心酔する精神病院の溝呂木院長(天本英世)、それに元ナテスのブルッケンマイヤー(ブルーノ・ルスケ)が加わっていた。
信治は、ブルッケンマイヤーが仕事の手始めとして電話帳から無差別に選んだ一人だったのである。
一方、信治には特ダネを狙う記者啓子(団令子)と、コソ泥の大友ビル(砂塚秀夫)が味方についた。
ところで、信治殺しに失敗した「審議会」は、その後次々と殺し屋をさし向けてきたが、その度に三人の返り討ちにあっていた。
じつは、信治の背中の傷には戦争中ヒットラーの手から盗まれたダイヤモンド“クレオパトラの涙”が隠されているということで信治は命を狙われていたのだが・・・。


寸評
タイトルバックからして遊び心満載。
不必要な人間を抹殺するのが役目の「大日本人口調節審議会」という存在がおかしい。
ミステリアスな室内装飾がそれを誇張する。
さらに冒頭でナチスの残党が登場するとあっては完全にコミック、喜劇の世界と認識させられる。
そして起こる殺人事件もリアリティがなくバカバカしいし、主人公の仲代達矢が現実離れしたおかしな大学講師で、彼がやらかす変な行動で相手が倒れるのも喜劇映画とすれば常道だ。
このバカバカしさを満喫できるかが、この映画を見続けられるかの分かれ目である。

桔梗は先ず殺し屋の間淵によって命を狙われるが、間淵の技は2枚のトランプカードの間に剃刀をはさみ、それを飛ばして相手の喉を切るというものだが、失敗して落ちてきた桔梗の母の銅像の一撃をくらい死んでしまう。
この滑稽さの極みは占い師小松弓江のもとに連れていかれた大友ビルが逃げ延びるシーンだ。
大友は全身黒ずくめの服を着た弓江の催眠術にかかり、鳥になった気分で高層階の窓から飛ぼうとしたところで目が覚め、それを見た弓江が窓に立って大友を足蹴にしだす。
助けに来た桔梗が「覗け!」と叫ぶと、大友は上を見上げ弓江のスカートの中を見る。
下着を見られるのを嫌った弓江が足を閉じてバランスを崩し、自らが落下してしまうというものである。
爆笑が起こってしまうシーンで、お遊びもここまでくると中々のものである。

殺し屋は眼帯を使ったり、仕込み傘や松葉杖を使ったりと小道具にも事欠かない。
果ては自衛隊員となって演習場にまで出没する。
砲撃の中での脱出劇は砲弾の穴を次々と渡っていくというものだが、滑稽すぎてハラハラドキドキ感も湧かない。
炸裂する火薬の量だけはふんだんに使用しているらしく、リアリティのない画面の中で浮いたような爆発映像を繰り返し映し出す。
このアンバランスは何なんだと叫びたくなってしまう。
病院での溝呂木と桔梗の対決も、子供の頃に見たテレビ映画を髣髴させるバカバカしいもので、アクションの大芝居は首尾一貫している。
ヒトラーの映像を流しながら溝呂木院長=天本英世に語らせるシーンなども思わせぶりである。
プログラムピクチャと言えばそれまでだが、こんな子供だまし映画を大人に見せようとした岡本喜八の心意気に感服しながらも、どこかでよくもまあこんな作品を恥ずかしげもなく撮ったものだとの思いも湧く。

やっとの思いで助け出したヒロイン啓子の処理もラブロマンスを壊すもので、ストーリー的には最後まで先が読めないものとなっている。
観客の期待を裏切ることを楽しんでいるようでもある。
しかしながら、子供だまし作品の印象はぬぐえずヒットしなかった理由は明白だ。
それでも真剣にこの映画を撮り切ったことで、後世からは変な評価を得ることが出来たのだろうと思う。
理屈抜きに面白い映画をとの岡本喜八の思いが十分に発揮されたとは言い難いが、このおふざけは岡本喜八の晩年作品でも見受けられるから、彼の持ち合わせた資質の一つだったのかもしれない。


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2 コメント

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「殺人狂時代」について (風早真希)
2023-11-13 17:38:29
この岡本喜八監督のカルト映画中のカルト映画「殺人狂時代」は、面白ミステリーの元祖、都築道夫の「なめくじに聞いてみろ」が原作で、元々、日活が宍戸錠で映画化する予定だった脚本が、巡り巡って岡本喜八監督のところに回ってきたという、いわくつきの作品なんですね。

したがって、活劇路線の日活と岡本喜八監督のテイストが融合した、なんとも東宝カラーに合わない"面白映画"の誕生となったわけです。

ところが、完成された作品が、あまりのカルト性のため、案の定オクラ入りとなって、7,8カ月後にひっそり公開という憂き目にあっているんですね。

とにかく、都築道夫の大ファンを自認する岡本喜八監督としては、キャラクターからディテールまで凝りまくった、モダン・ハードボイルドとも言うべき快作なのですが、時代を先取りし過ぎたところが、理解されなかったのかも知れません。

偏執狂患者を暗殺者に仕立てる「大日本人口調節審議会」なる謎の組織に命を狙われた男が、日常品を武器に撃退するアクション・コメディ仕立てで、岡本喜八監督が大いに遊びまくった痛快作だと思います。

主演の仲代達矢のとぼけた三枚目ぶりや、団令子のお色気、がらっ八的な子分役を演じた砂塚英夫に、暗殺団のボス、溝呂木博士を怪演した天本英世など、まさに奇想天外なお話を、キャラクターの掛け合いでグイグイと引っ張る戦略が見事に功を奏し、ダンディズムとモダンが融合した、笑えるハードボイルドになっているところは、岡本喜八監督ならではのうまさだ。

この映画はまた、モンキー・パンチの「ルパン三世」に大きな影響を与えたことでも有名で、スタイル的には都築道夫なのだろうが、峰不二子のルーツは、間違いなく団令子だろう。
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うらやましい (館長)
2023-11-14 07:04:14
当の本人は滅茶苦茶楽しんで映画を撮っていたのだろうなと思わせます。
羨ましい限りですし、日本映画はまだ余力があったのかもしれません。
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