おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ラヂオの時間

2020-07-07 06:27:57 | 映画
「ラヂオの時間」 1997年 日本


監督 三谷幸喜
出演 唐沢寿明 鈴木京香 西村まさ彦
   戸田恵子 井上順 細川俊之
   奥貫薫 梶原善 モロ師岡
   近藤芳正 布施明 藤村俊二
   渡辺謙 桃井かおり 佐藤B作
   十代目松本幸四郎 宮本信子

ストーリー
まもなく始まるラジオ・ドラマ『運命の女』の生放送のためのリハーサルが行われている。
初めて書いたシナリオが採用され、この作品によって脚本家としてデビューすることになった主婦の鈴木みやこは、緊張しながらリハを見守っていた。
全てのチェックが済み、あとはいよいよ本番を待つばかりとなったが、直前になって主演女優の千本のっこが自分の役名が気に入らないと言い始める。
プロデューサーの牛島はその場を丸く納めようとして、要求通り役名を“メアリー・ジェーン”に変更した。
しかし、そんなのっこに腹を立てた相手役の浜村は、自分の役名も外国人にしてほしいと言い出し、熱海を舞台にしたメロドラマのはずだった台本は、ニューヨークに設定を変更させられる。
みやこはいろいろ辻褄の合わなくなってきた台本を短時間で書き直すことになるが、素人の彼女にそんな器用なことはできず、牛島はまたも急場しのぎに放送作家のバッキーにホン直しを依頼した。
しかし、ドラマの内容を把握していない彼によって、物語はさらにおかしな方向へ向かい、さらに浜村が自分の役柄をパイロットだと勝手に言ってしまったことで、物語は辻褄合わせのためにますますおかしくなっていった。
ディレクターの工藤を筆頭に、スタッフたちは次々にやってくる障害を、行き当たりばったりのその場しのぎで乗り越えていくが、あまりに勝手な台本の変更の連続にみやこは怒りを爆発させ、CM中にブースに立てこもると「ホンの通りにやって下さい!」と叫ぶ。
しかし、そんな抗議も虚しく、みやこの思いとは全く正反対のエンディングを迎えようとしていた。
みやこの純粋さに感じるところのあった工藤は、結末だけでも彼女の思い通りにさせてやろうと牛島に抗議するが、ドラマを無事に終わらせることで精一杯の牛島は、工藤をスタジオから追いだしてしまう。


寸評
「12人の優しい日本人」の脚本でその才能を披露した三谷幸喜が再び脚本を書きその健在ぶりを示した。
今回は監督も兼ねてエネルギーを爆発させている。
もともと舞台劇だったらしいが、その雰囲気を残しながら出演者がオーバー気味な演技でグイグイひっぱていく。
その支離滅裂ぶりに包括絶倒なのだが、時にシリアスな場面が入るので、そのシーンがやけに心に響く。
喜劇映画は映画製作の中でも難しいジャンルのものだと思うが見事に消化させている稀有な作品だ。

プロデューサーの牛島(西村雅彦)がとにかく面白い。
なんとかこの放送を無事終わらせることだけを考えていて、とにかく事なかれ主義を押し通す。
「なんとかしましょう」とか言いながら出演者に翻ろうされていく姿が滑稽で、西村雅彦のキャラクターが存分に発揮されていた。
コンクールに応募作品が1本しかなかったということで選ばれた主婦の鈴木みやこ(鈴木京香)の登場シーンから、なにか変な雰囲気を感じさせ、物語の展開を予兆させる。

僕が子供だったころはテレビがなく、遊びを終えて家に帰るともっぱら娯楽の対象はラヂオで、そこではラヂオドラマが盛んに放送されていた。
放送時間帯には銭湯の女風呂が空になったという伝説の「君の名は」などは、後にそのような出来事を耳にしただけで本放送を聞いたことはないが、「1丁目1番地」「赤胴鈴之助」などの少年向けラヂオドラマの名が記憶に残っている。
ナレーションを担当した保坂(並樹史朗)の話し方や、声音はすごく懐かしいものを感じた。
テレビドラマでも生放送の時代が有ったのだから、当時は生のラヂオドラマも盛んに放送されていたのかもしれず、そんな放送風景が想像されて興味津々な部分もある。

文句を言うみやこに牛島が「君はまだわからないのか 、千本のっこ(戸田恵子)が嫌がっているんだ!」と叫ぶシーンなどは、スターシステムの悲哀を感じさせた。
スターシステムが全盛だったころには、二大スターが共演すると二人のセリフの数まで同じにしたという話を聞いたことが有るので、スターのわがままぶりに振り回されたスタッフは大勢いたと思う。
喜劇的に誇張はしているけれど、作品作りにはこのようなこともあるのだろうと納得させられる。
同じく牛島が立てこもったみやこを説得するために行った演説は心に響いたなあ~。
「この作品はそうじゃなかったけど、みんないつかいい作品をと思ってやっているんだ!」
そんな映画も多いもの…。

ハチャメチャになるのを引き止め、作品を締める役割をディレクターの工藤(唐沢寿明)に負わせているが、もと効果係の伊織万作(藤村俊二)と繰り広げる悪戦苦闘は作品作りの楽しさを示し、彼と別れる最後は職人の素晴らしさを訴えていたように思う。
映画はスターだけではなく、多くの職人によって支えられているのだと再認識させられた。
三谷監督としては、おそらくこれが最高傑作となるのではないか。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「ラヂオの時間」について (風早真希)
2024-06-28 16:24:42
才人・三谷幸喜がドライな感覚のシチュエーション・コメディに挑み、三谷ワールド全開の初監督作品が、この映画 「ラヂオの時間」ですね。

この映画「ラヂオの時間」は、ご存知、三谷幸喜の初監督作品で、ラジオドラマ「運命の女」を生放送する深夜のラジオ局が舞台。
本番直前になって、主役の女性タレントが、役名をリツ子からメアリー・ジェーンに変えろとゴネ始めたから、さあ大変-------。

その時、調子のいいプロデューサーが、この些細な我儘を受け入れたために、何と物語の舞台が、熱海からニューヨークへと変更され、物語の辻褄がどんどん合わなくなっていくんですね。
もう、とにかく、無茶苦茶、支離滅裂な展開へ-------。

生放送のラジオドラマという「時間的な制約」と、スタジオという「空間的な制約」を設ける事で、収拾がつかない大混乱に対処しようとする"人間模様"に、面白味が増幅していくのです。
この映画は、全く見事な"シチュエーション・コメディ"の大傑作なのだと思います。

考えてみれば、それまでの日本映画には、このような"シチュエーション・コメディ"が、ほとんどなかったような気がします。
"ウェットな人情喜劇"が大半の日本映画にあって、ビリー・ワイルダー監督を尊敬してやまない三谷幸喜監督が持ち込んだ、"ドライな感覚の喜劇"は、非常に新鮮に感じました。

加速度的に目まぐるしく変わりまくる、のっぴきならない状況に、巧みな人物造型が織り重なり、"三谷ワールド"が構築されていくのだと思います。

この映画に登場する、それぞれのキャラクター達は、かなり誇張され、そしてデフォルメされてはいるものの、実際、こんな奴って自分達の周りに確かにいるなと、思わず頷いてしまうようなタイプばかりで、非常におかしくもあり、お腹を抱えて笑ってしまいます。

そんな、おかしな面々が、ハチャメチャな状況を収束させようと、必死になって、懸命に動き回るのだから、もう楽しすぎます-------。

とにかく、登場人物の全てが、皆、生き生きとして見えるのだから、これは、本当に凄いドラマなのです。

三谷幸喜の初監督作に賭ける意気込みは、カメラワークの工夫などにも見られ、スタジオを徘徊しながら、登場人物をノーカットで紹介していく冒頭のワン・カットでの撮影は、とにかく見応え十分で、三谷監督、やってるなあと感心してしまいます。

恐らく、この物語には、三谷監督自身がテレビドラマの脚本家として、ディレクターの横やりなどで、ストレスをためてきた、苦い経験が活かされているのではないかと思います。

とにかく、この三谷幸喜の初監督作は、実に三谷らしい、一本のシナリオに賭ける情熱のほとばしりが、よく伝わってきて、観終えて、爽快な気分に浸る事が出来ましたね。
返信する
初監督作品 (館長)
2024-06-29 08:18:16
三谷幸喜の初監督作品ですが、どの監督の初作品にもそれまでの監督の思いが込められていると思います。
この作品もまさにそうで、三谷作品の中でこれが最高だと思っています。
返信する

コメントを投稿