おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

TITANE/チタン

2024-06-12 07:10:35 | 映画
「TITANE/チタン」 2021年 フランス / ベルギー


監督 ジュリア・デュクルノー
出演 ヴァンサン・ランドン アガト・ルセル
   ギャランス・マリリエ ライ・サラメ
   ミリエム・アケディウ ベルトラン・ボネロ ドミニク・フロ

ストーリー
少女アレクシアは父の運転する車で交通事故にあった。
父は幸いにも軽傷で済んだものの、頭蓋骨に大怪我を負ったアレクシアは頭部と首を固定するためのチタンプレートを埋め込むという大手術を施された。
退院したアレクシアはその頃から自動車に対して愛情にも似た強い親近感を抱くようになっていった。
それから21年後、32歳になったアレクシアは未だに側頭部に消えることのない大きな傷跡を残していた。
アレクシアはモーターショーのショーガールとしてステージで情熱的なパフォーマンスを披露し、客の男たちの視線を釘付けにする一方で若手のジャスティーヌに対して性的な興味を覚えていくようになっていた。
そんなある日の夜、ショーを終え駐車場にいたアレクシアの前にひとりの男性ファンが現れ、唐突に愛の告白をすると強引にキスをするなどして迫ってきた。
アレクシアは金属製のヘアピンで男を刺し殺し、死体を車の後部座席に隠した。
そしてシャワーを浴びたアレクシアはショールームに向かい、展示されているマッスルカーに裸で乗り込むと何と車と性行為に及んでしまう。
翌日からアレクシアはお腹の痛みを感じ、股間から血ではなくオイルが漏れてくるなどの異常をきたした。
アレクシアは自分が妊娠したことに気付き、独力で中絶しようと試みたが失敗に終わった。
その夜、アレクシアはジャスティーヌと身体を重ねた。
アレクシアはヘアピンでジャスティーヌを刺し殺し、現場を目撃したルームシェアの者たちを次々と殺した。
そして自宅に戻ったアレクシアは両親を寝室に閉じ込め、家に火を放って焼き殺した。
連続殺人犯として追われる身となったアレクシアは10年前に当時7歳で失踪した少年アドリアンになりすますことを思いついた。


寸評
何かわからない映画だが、何だかスゴイ映画を観たという気がする。
しかしこの作品は好き嫌いがはっきりする映画でもあると思う。
サスペンスのようでもあり、ホラーのようでもあり、作品自体は極めてグロテスクである。
だいたい車とセックスするなんて奇想天外な発想である。
それに比べれば体にチタンプレートを埋め込むことなど序の口だ。
アレクシアがステージで情熱的なパフォーマンスを披露したかと思うと、彼女による殺人が次々と起きる。
殺人の様子はサスペンスというよりホラー映画に近いものがある。
ジャスティーヌを初め、そこに集まっている殺人の目撃者を次々殺していくが、この時のアレクシアはまるで精神異常をきたした殺人鬼だ。
黒いフードをかぶり指名手配から逃れる様子はサスペンスの様相を呈するが、連続殺人犯を追及するサスペンスを追及する作品ではないことが雰囲気からして分かる。
妊娠したアレクシアは行方不明になっている男の子に成りすまして父親と暮し始める。
父親のヴァンサンは、目の前にいるのが本当に息子だと思っているのか、それとも偽者だと知りながら接しているのかよく分からない。
アレクシアは男と偽り、アドリアンと偽っているのだが、ヴァンサンもまたホルモン注射のようなもの打って老化を防ぎ、消防士の隊長として男の中の男であることを演じている。
偽装者として同類のものを感じていたのかもしれないが、僕は初対面の時のDNA鑑定を拒否した時から実の息子ではないことを認識していたのかもしれないなと思っている。
さすがに実の母親は産み落とした子供だけに、即座に息子ではないと見抜いている。
そこで母親がアレクシアに要求する内容が老後問題を髣髴させて面白い。
ヴァンサンが老化を必死で押しとどめていることと連動してくる。

アレクシアは消防士として活動していくが、同時にお腹は大きくなっていき出産時期が近づいてくる。
秘密を知る消防士ライアンは消火活動中の森林火災で爆死してしまう。
アレクシアの出産が始まると、一方ではヴァンサンも衣服を燃やしている。
冷たい金属と熱い炎のイメージが重なり合う。
父親のヴァンサンがアレクシアの出産を手伝う。
僕は出産に立ち会ったことがないのだが、映像からは出産の苦しさが伝わってくる。
必死の形相でアレクシアは子供を出産してこと切れるが、車と行為に及んで生まれた子供は・・・という驚くべき展開である。
色々な作品を連想されているようだが、僕はロマン・ポランスキーの「ローズマリーの赤ちゃん」を思い出していた。
ローズマリーは、悪魔の子という真実を知ってもなお、母として子供を育てることを決意した。
ここでは父親のヴァンサンがその役目を負うのだろう。
そう思いながらも、結局この映画は何だったのだろうと思わずにはいられない。
父性愛と、母性愛を描いていたのだろうか?
僕には何かよくわからない映画で、カンヌではパルムドールに輝いたが、カンヌは時々変な作品を選ぶ。