おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

白痴

2024-06-23 08:08:20 | 映画
「白痴」 1951年 日本


監督 黒澤明
出演 原節子 森雅之 三船敏郎 久我美子 志村喬
   東山千栄子 柳永二郎 千秋実 千石規子 高堂国典
   左卜全 三好栄子 文谷千代子 明石光代 井上大助 

ストーリー
沖縄から復員して来た亀田欽司(森雅之)は、癲癇性痴呆性で白痴だと自ら名乗る無邪気な男だった。
青函連絡船の中から欽司と一緒になった男に赤間伝吉(三船敏郎)と軽部(左卜全)という男があった。
伝吉は、政治家東畑(柳永二郎)の囲い者である那須妙子(原節子)にダイヤの指環を贈ったことから父に勘当されるが、その父が亡くなったので家へ帰るところだった。
欽司は札幌に着いて、狸小路の写真屋に飾られた妙子の写真を見せられその美しさにうたれる。
大野(志村喬)は欽司が帰って来たのを見て、ちょっとあわてた。
欽司が父から遺された牧場を大野が横領した形だったからである。
しかし欽司は一向にそんなことには気にかけず、大野から香山睦郎(千秋実)の家へ下宿させてもらう。
その香山は、東畑の政治的野望で邪魔になった妙子を、60万円の持参金つきで嫁にもらうことになっていた。
札幌へ帰ってその噂を聞いた赤間伝吉は、百万円の札束を積んで、妙子を譲りうけに行った。
赤間と妙子が東京へ行ったと聞くと、欽司も、大野から贈られた牧場の少なからざる利益金を懐にそのあとを追って行ったが、やがて赤間も妙子もそして欽司もまた札幌に舞いもどって来た。
妙子は赤間とはどうしても結婚する気にならず、自分を憐れんでくれるような欽司にはひかれるが、やはり反発するものがあるのだった。
大野の娘綾子(久我美子)は、欽司を一番深く理解し、欽司も綾子にひかれていたが、妙子の危なっかしい生活ぶりがよけいに彼の心をひくのだった。
綾子は、妙子に捨て去られた香山と結婚する決心をし、妙子は欽司と綾子とを結びつけるのがいいと考える。
しかし、伝吉が妙子を刺してしまったことから、欽司は伝吉と共に精神病院の一室で生涯を送る身になった。


寸評
2部作計4時間半あった作品を2時間46分にぶった切ったのだから見ていても説明不足感を随所に感じる。
多分、ここを長尺にわたってカットしたのだろうと思われる冒頭には文字によって説明が加えられている。
何のことはない、それならドストエフスキーの原作を読めばいいのだ。
松竹もどうして2部作で公開しなかったのだろう、どうして作品を大幅にカットして公開したのだろう?
確かに内容的には暗い話だし、今で言う差別用語に満ちた作品でもあるので、公開したところで大衆受けはしないだろうとの判断が働いたのかもしれない。
したがって、この作品は余りにも完璧でなさすぎるので、そもそも批評の対象とはなりえない作品だ。
一つ一つのシーンやカットには見るべきものがあるので残念だ。

ここに出てくる女は強い。
強がっているのかもしれないし、気持ちを正直に表すことが出来ない皮肉れ者なのかもしれないが、強い。
原節子の那須妙子は囲われ者だが札束を燃え盛る暖炉に投げ込むような女である。
男からもらった高価な壺も叩き割ってしまう。
久我美子の綾子はなかなか素直になれなくて、常に食って掛かるような物言いだ。
いつも人を睨みつけるような態度で、父だろうが母だろうが姉だろうがお構いなしである。
母親の東山千栄子は夫にも意見する大御所的存在だ。
比べると、志村喬の大野も、柳永二郎の東畑も、千秋実の香山もまったくもって頼りない男たちだ。
そんな中で、 森雅之が純真無垢な亀田をそれぞれを相手に演じていく。

亀田は白痴、いわゆるバカなのだが、自分で白痴というぐらいなので本当のバカではない。
神がかり的な読心術の能力があり、その人が何を考えているかが分かってしまう。
彼の指摘は世間体や制約にとらわれない的を得たものである。
美貌の那須妙子、無垢な亀田を中心に据えて、彼らが破滅に追いやられる姿を追っていくが、前述のようにその描き方は歯の抜けた櫛のようになってしまっている。
それでも、三船敏郎と森雅之が絡むシーンなどは随所にあるのだがどれも面白い。
二人が再会したラストのシーンでは光の使い方が本当にいい。
暗闇の中で差し込む光を効果的にとらえる演出をしている。
こういうライティング技術を伴ったカメラワークを最近ではなかなか見ることが出来ない。
それぞれの分野で優秀な職人たちが大勢いたことを感じさせる。
中島公園の氷上カーニバルシーンなんかも中々幻想的なものになっていた。
外は雪のシーンばかりで、撮影部隊も役者さんたちも大変だったろうと思う。
原作のムード、北欧の雰囲気を出すために北海道がロケ地とされたのだろう。
それにしても、原節子も久我美子もよくわからん女だったなあ。
三船敏郎と森雅之の友情だってよく分からなかった。
ぶった切ったせいだったのかもしれない。
カットする前の完全版を見たいものである。


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