おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

花のれん

2024-06-25 07:58:27 | 映画
「花のれん」 1959年 日本


監督 豊田四郎
出演 淡島千景 花菱アチャコ 司葉子 森繁久彌
   石浜朗 佐分利信 乙羽信子 飯田蝶子
   浪花千栄子 万代峯子

ストーリー
大阪船場の河島屋呉服店では吉三郎(森繁久彌)が父の急死後二代目の店主となったが、商売に身が入らず、寄席道楽、女道楽に身を持ち崩し、相場に手を出して多額の負債を作り、店の身代を潰してしまう。
多加(淡島千景)は吉三郎をはげまし、天満天神の近くにある寄席を買い取り、天満亭と名づけて再起の第一歩を踏み出した。
天満亭は番頭のガマ口(花菱アチャコ)の活躍もあり順調に繁昌したが、生活が安定すると吉三郎の遊びぐせはまた頭をもたげ、おしの(環三千世)という妾の許へ足繁く通うようになった。
そのおしのの家で、吉三郎は急死した。
通夜の日、多加は婚礼の際に持参した白い喪服を着たが、それがいつしか、二夫にまみえずという心を彼女に持たせた。
彼女は、幼い久雄を女中のお梅(乙羽信子)に託し商売一筋に駈け廻ったが、市会議員の伊藤(佐分利信)と知り合った彼女の女心は燃えた。
法善寺の金沢亭も買い取った多加は、それを花菱亭と改名し入口に“花のれん”を掲げた。
出雲の民謡である安来節が関西一円を風びし始めると、多加は出雲に出かけ、そこで伊藤と再会したのだが、彼女はこの愛情までも商売のためには吹き消した。
世間では彼女を“女太閤”と呼んだが、中学生になった久雄(石浜朗)には母は遠い存在だった。
他人の罪をかぶり選挙違反で投獄された伊藤の自殺が多加の耳に伝った。
多加はいかに伊藤を愛していたかを知った。
大陸戦線は拡大し、久雄にも召集令状が来た。
多加は、久雄から出発直前京子(司葉子)という愛人を紹介された。
お梅にはすでに打ち開けていると聞かされ、多加は淋しかった。
彼には多加が築いた土台を継ぐ意志が無かった。


寸評
多加のモデルは吉本興業の創設者である吉本せいとされているが、山崎豊子の原作もそうであると思うが物語は彼女の一代記ではない。
多加を通じて描かれているのは大阪女の強さと、商売一筋で生きざるを得なかった女の哀しさである。
豊田四郎、淡島千景、森繁久彌とくれば名作「夫婦善哉」を思い起こすが、「夫婦善哉」が良すぎた。
ここでも森繁久彌は道楽者のダメ亭主を演じているが序盤で死んでしまっている。
道楽者の亭主に愛想をつかしながらも、切っても切れない関係の女房と言う中にあった情緒がこの作品にないのは、描かれたエピソードが多すぎたことによるのではないかと思われる。
ダメ亭主の道楽に翻ろうされる女房の姿、手段を選ばず寄席劇場を拡大していく女の奮闘と亭主の妾との対決。
突然湧きおこる女心に、女主人に思いを寄せる番頭の存在。
商売一筋の母親と息子の間に生じる確執と、息子の彼女との和解。
話はテンポよく進んでいくが、テンポの良さはエピソードの深みを削いでいたように思う。

商売に専念する為に子供の世話を女中に任せたばかりに生まれた親子の確執はラストを締めくくる為の大きな伏線となっているが、息子が自分よりも女中のお梅を頼りにしていることだけでは弱い。
多加は議員の伊藤に秘かな思いを寄せていて、伊藤の死でもってその思いを証明してみせるのだが、その裏返しとして花菱アチャコのガマ口が秘かに淡島千景の多加に想いを寄せていたことが描かれる。
ガマ口の多加への献身ぶりはその事によっていたのだろうが、ガマ口のせつない気持ちは伝わってこなかった。
演じていたのが喜劇役者の花菱アチャコだったからだろうか。
あっさりと喜劇的に描かれていたけれど、しんみりさせても良かったような気がする。
僕は映画全体を通じてもガマ口の献身ぶりが身に染みて心に残った。
自分が彼の立場であったなら、やはり同じような行動をとっただろうなと思うのだ。

淡島千景は宝塚歌劇団の娘役スターだったとは言え東京出身である。
東京を意識させない大阪弁を駆使し、すっかり大阪女になりきっている。
船場では二夫につかえないということで、夫の葬儀には白の喪服で式に臨む風習があったようで、ここでの淡島千景の白い喪服姿の美しさには惚れ惚れするものがある。
妾を横に置いて凛とした姿を見せる多加に女の強さを感じる。
多加は冒頭で借金取りの山茶花究や、道楽亭主にすがる弱い女から、寄席へと商売替えを提案して商売を切り盛りする強い女に変身していく。
僕の従兄の女房殿もチンピラの脅しにおどおどする亭主に代わり、堂々と交渉していたから、いざとなれば女は強いのかもしれない。
大阪空襲があり多くあった劇場はすべて焼けてしまい、多加は世代交代を口にするが、戦争は日本自体にも世代交代をもたらしたのだろう。
政治の混乱を見るにつけ、今の世の中に世代交代をもたらすようなものはあるのだろうかと思ってしまう。
大阪人の僕は映し出される風景に魅入ってしまうのだが、セットだと思われる法善寺のシーンは特にいい。
今となっては風俗資料的作品でもある。


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