おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幸福な食卓

2019-05-24 09:49:27 | 映画
「幸福な食卓」 2006年 日本


監督 小松隆志
出演 北乃きい 勝地涼 平岡祐太 さくら
   中村育二 久保京子 羽場裕一 石田ゆり子

ストーリー
「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」。
始業式の朝、家族の食卓で、突然「父さん」(羽場裕一)が口にした意外な一言。
佐和子(北乃きい)の中学校生活最後の1年は、こうして始まります。
中原家は、教師の「父さん」、専業主婦の「母さん」(石田ゆり子)、秀才の兄「直ちゃん」(平岡祐太)、中学3年生の佐和子という4人家族。
これといって深刻な問題はないけれど、お互いが何か“言いたいこと”を抱えたときは、必ず四人が顔を揃える毎朝の食卓の場で伝え合う……そんなささやかなルールを大切にしてきた家族だった。
だが3年前のある日、突然訪れた「父さん」の心の崩壊。
その日から、佐和子の家族の歯車が少しずつ狂い始めた。
きっかけは3年前の父の自殺未遂だった。
成績はいつも学校で一番だった「直ちゃん」は大学進学を辞めて農業をやり、「母さん」は家を出て一人暮らしを始めた。
それでも「父さん」と「母さん」は日々連絡を取り合っているし、毎朝の食卓は健在。
そんな危ういながらも淡々と続く家族の日常に、新たな波紋を投げかけた「父さん」の一言。
いったい、どうなってしまうんだろう? 
高校受験を前に小さな心を揺らすそんな佐和子の前に現れる転校生、「大浦くん」(勝地涼)。
彼の存在は佐和子にとって次第に大きなものになって行くのだが……。
崩壊した家族を健気に支えてきた佐和子の身に起こる突然の悲劇。
しかし皮肉にもその悲劇により、家族は再生への道を歩み始めるのだった……。


寸評
「父さんは、今日で父さんを辞めようと思う」という言葉から始まる。
父さんをやめるということは、父さんには父さんの役割があるということだ。
それは一体なんだろう?
生活費を運び家族を養っていくことだろうか。
自分を棄てて家族の為だけに生きるということの辛さで父さんは自殺未遂を引き起こしたのかもしれない。
父さんは真剣に生きることの辛さを遺書に綴っている。
ある程度いい加減な人間の方が長生きするのかもしれない。
天才と呼ばれた兄の直ちゃんは、意識的に真剣さを棄ていい加減さを身に着けたのだろう。
目下兄が付き合っている小林ヨシコという見た目に変な彼女は、直ちゃんは私以上にいい加減だといっている。
直は父の遺書を保管していて、真剣に生きれば自分も自殺してしまいそうな幻影を抱いているのだ。
同様に、何事にも真面目な佐和子の脆さを予感させる淡々とした語り口がいい。
丁寧な脚本とカメラが物語に対して想像の余地を残しながら、これから先の展開に期待をはらませるという堅実な作りで、当初傍観していた佐和子の挙動に段々と引き付けられていくことになる。

佐和子の中三の春、クラスに大浦勉学が転校してきて隣の席に座ると、お決まりのように二人は仲良くなる。
夏休みには一緒に夏期講習も受け、同じ高校に行こうと励むことになるのは青春ドラマだ。
微笑ましくもあり、規律正しく真面目な中学生の佐和子に共感も覚えて応援したくなるのは北乃の魅力だけが原因ではなかろう。
誰にも、こんな風だったら良かったろうなと思うクラスメイトはいたはずだ。
中学、高校と続く変わらぬ二人の交流が描かれるが、それは常に二人きりで、付き物の二人を取り巻く友人が全く登場しない違和感が残る描き方だ。
仲睦まじい二人の姿は、一方で描かれる奇妙な家族関係を際立たせるためのものだったのだろうか。

家族が全員集まったきっかけとしてはあまりに悲しいけれど、それでも久しぶりに4人が揃ったところで佐和子は「なんで死のうとした父さんが助かって死にたくない人が死んでしまうのか」と言ってしまう。
そう言いたいのはわかる、でも言っちゃいけない、思っても言っちゃいけないって兄も言う。
しかし佐和子は忘れているのだ。
大浦が言った 「凄いだろ、気付かないところで中原って、いろいろと守られてるってこと」という言葉を。
家庭崩壊しているように見えるが、そうなっても佐和子は家族に守られてきていたのだ。
兄も佐和子を気遣い小林ヨシコを遣わすが、彼女は「今言うのはどうかと思うが、友達も恋人も何とかなる」と言う。
家族に守られ佐和子はしっかりと生きていくだろう。
佐和子は何度か振り返りながらも前を向いて歩き続ける。
人は過去に起きたこと、起きてしまったことを後悔したり、あるいは振り返りながら生きているのかもしれないが、それでも前を向いて生きていかねばならない。
ラスト、横顔は確かに北乃きいなんだけど、ここでは佐和子として凛々しささえ感じさせ清々しい余韻が残る。
食卓に並べられた四つのお皿が家で待っている。


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