おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

パラサイト 半地下の家族

2023-01-22 11:17:39 | 映画
「パラサイト 半地下の家族」 2019年 韓国


監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ イ・ソンギュン チョ・ヨジョン チェ・ウシク
   パク・ソダム イ・ジョンウン チョン・ジソ チョン・ヒョンジュン
   チャン・ヘジン パク・ソジュン

ストーリー
日の光も電波も弱い、半地下住宅で暮らすキム一家。
父のキム・ギテク(ソン・ガンホ)はこれまでに度々事業に失敗しており、計画性も仕事もないが楽天的。
元ハンマー投げ選手の母チュンスク(チャン・ヘジン)は、そんな不甲斐ない夫に強く当たっている。
息子のギウ(チェ・ウシク)は大学受験に落ち続け、娘のギジョン(パク・ソダム)は美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない。
しがない内職で日々を食いつないでいる貧しい彼らは、皆、普通の暮らしがしたいと願っていた。
ある日、ギウを訪ねて、受験を勝ち抜き今や名門大学生となった友人ミニョクがやってきて、留学する間、彼に代わって家庭教師をしないかと持ち掛ける。
受験経験は豊富だが学歴のないギウが向かったのは、IT企業の社長パク・ドンイク(イ・ソンギュン)の自宅である、高台に佇むモダンな建築の大豪邸だった。
偽造した大学在学証明書にさほど目を通す様子もなく、若く美しい妻ヨンギョ(チョ・ヨジョン)に娘ダへの部屋へと案内されるギウ。
受験のプロのギウは少し授業をしただけで母と娘の心をすっかり掴んでしまう。
帰り際、落ち着きのないパク家の末っ子ダソンに、紹介したい家庭教師がいると提案。
後日、ギウは妹のギジョンを連れて豪邸を訪れ、ギジョンはダソンの美術家庭教師となる。
どの家庭教師も1か月も続かなかったというダソンを恐るべき速さで手なずけ、二人はあっという間に一家の信用を得ていった。


寸評
世界的に格差社会が広がりつつあるが、その結果として下流になってしまった家族の悲哀を時にユーモアで包みながら描いている。
社会派作品的な内容だが堅苦しくはなく、むしろエンタメ性に富んだ作品である。
展開はスピーディだが内容は希薄ではなく、むしろ濃密だ。
チラチラと登場人物の本性を描きながら社会の縮図も感じさせる。
ギウは令嬢といい仲になるが、ブルジョアの振舞いを見て自分には似合わないと感じる。
文化、教養、振る舞いがブルジョアとプロレタリアートでは全く違うのだ。
ギウの父親ギテクはパク社長から嫌悪する匂いを指摘される。
衣服に染み付いた家庭の匂いなのだが、換言すれば貧乏くささなのだ。
母親のチュンスクはパク夫人のヨンギョが人をすぐ信じてしまう素直な性格を評して、お札にアイロンをかけたピンとしたお金を持っている人だからとたとえ話をする。
優しい人だと言われ、金持ちなのに優しいのではなく、金持ちだから優しいのだと言う。
そんなヨンギョと対極にいるのが詐欺師一家といってもいいようなキム一家である。
パラサイトと聞いて、親に寄生する子供を想像したが、ここで描かれるパラサイトは上流家庭に寄生する下流一家である。
下流一家を絵にかいたようなキム一家は次々と上流家庭のパク家に寄生していく。
キム一家は半地下に住む下層市民だが、それよりも下層の全地下に住む人間が登場する。
彼らもパク家に寄生していたのだが、それがまた意表を突く登場の仕方なのに違和感を感じさせない演出の力強さがある。
スマホの送信ボタンが核のボタンのような意味合いを持つようになり、前家政婦のおばさんが、北朝鮮のニュースキャスターのオバサンのような絶叫をするシーンは可笑し過ぎて大笑いだ。

最後になって格差社会の上下が激突する。
キム一家は雨の中を豪邸から脱出するが、雨は豪雨となって降り注ぎ濁流となって高台から低地へ押し寄せる。
上流で生まれた雨水の流れが下流に押し寄せる。
彼らの家はその下流の半地下で、床上浸水どころではない。
格差社会とはこういうことなのだと示しているようなシーンだ。
そして格差社会を破壊するような事件が起きるが、キム・ギテクの怒りはパク社長がとった貧乏人を見下す態度に向かう。
パク社長は自分のとった行為の意味を感じていない。
世の中の縮図だ。
最後に父子の情を見せるが、結局下層の人間は自らの力でのし上がるしかないのかという気がする結末で、考えてみればすごく現実的な結論だ。
人間社会において、パラサイトでは生き続けることはできないのだと思う。
人は生まれながらにして平等ではないが、生命力だけは万人に与えられている。
キム一家の生命力に感心したので、ギジョンは生きていて欲しかった。