おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

花咲ける騎士道

2023-01-17 08:24:02 | 映画
「花咲ける騎士道」 1952年 フランス / イタリア


監督 クリスチャン=ジャック
出演 ジェラール・フィリップ ジーナ・ロロブリジーダ
   ノエル・ロクヴェール オリヴィエ・ユスノー
   マルセル・エラン ジャン・パレデス
   ジャン=マルク・テンベール ジュヌヴィエーヴ・パージュ

ストーリー
18世紀、ルイ15世統治下のフランスでファンファンは“チューリップの騎士”の異名をとるプレイボーイとして、美女をもてあそんでは、結婚の危機を巧みにかわしながら自由な恋愛を楽しんでいた。
レエス戦争が続いていたころ、ジプシイ娘に「軍人になれば末は王女のお婿様」と予言されたファンファンは早速募兵官のところに行き契約書に署名したが、実ばジプシイ娘は募兵官の娘アドリーヌで彼女の予言は軍人集めのための手であった。
事情を知っても予言を信じこんだファンファンは連隊に向う途中で偶然王女の危難を救い、ますます自分の将来に自信をもってしまったのだが、入営して軍隊に厭気がさし演習を怠けて営倉に入れられ、すぐ脱獄して隊内に大騒ぎを起した。
しかしその時、膠着状態だった戦争が再開され彼の軍も前線に行くことになった。
連隊の駐屯地は王城の近くで、彼は王女に会おうと城に忍びこんだが忽ち捕って死刑の宣告をうけた。
彼に愛情を抱いていたアドリーヌは自分のインチキ予言にも責任を感じ、単身王の許に行き特赦を願った。
彼女の美貌に感じ入った王は特赦の勅命を出し、お礼に参上した彼女によからぬ振舞いに及ぼうとした。
彼女は夢中で王に平手打ちを喰わして逃げ出し、事情を知った侯爵夫人によって修道院に匿まわれた。
報せをうけたファンファンは早速修道院に向ったが、先廻りした王の部下とアドリーヌの奪い合いになり、力尽きたファンファンたちは地下道に落ちのびた。
地下道の終りは意外にも敵軍の司令部で、彼らは咄嗟の機転で敵の司令官を捕虜にし司令部にフランス国旗を立てた。
彼らの殊勲でさしも長かったレエス戦争も終り、ファンファンはめでたくアドリーヌと結婚することができた。


寸評
「戦争なんて後の教科書に載れば理由なんてどうでもいいのだ」という冒頭のナレーションは、単純活劇映画であるこの作品の中での皮肉なメッセージであり、尚且つこの作品の持つ雰囲気の全てでもある。
時代を考えるとさらわれたアドリーヌを追跡するシーンは良く撮れている。
カメラは並走しながら逃げる馬車と追う馬を捉え、時に馬車の下にカメラ位置を変えて迫力を生み出している。
この映画の最大の見せ場で、その為にこの追跡シーンは長いが十分に楽しめる。
随所に笑いの要素も挿入されているので気楽に楽しめる作品となっており、当時としては今以上に楽しめた作品だったと想像できる。
ファンファンはアドリーヌの占いを信じて王女と結婚することに突き進んでいくのだが、マクベスのような幻想的な占いでもない予言を単純に信じてしまっているので、かなりいい加減な滑稽さのある作品とのイメージを持ちながら見ていくことになる。
実際にコメディ的なシーンは随所にある。
ファンファンと恋敵の決闘の決着はコメディそのものだし、アドリーヌが王をひっぱたいたことを聞いてポンパドール夫人が喜ぶシーンは、思わず笑ってしまう愉快なシーンとなっている。
絞首刑を執行されるファンファンたちだったが、それもコメディ的に処理している。

国王の兵に追い詰められて煙突に逃げ込んだファンファンとホラ吹き男だが、出てきた時にホラ吹き男がススだらけなのにファンファンはまったく汚れていないという不思議さはあるが、それがジェラール・フィリップなので許されるのだろう。
ヒロインであるジーナ・ロロブリジーダが演じるアドリーヌのキャラはかすんでいるけれど、美形の女優で僕は好感を持っていた。
内容も描かれ方も、僕が子供の頃に見ていた東映時代劇を思わせたのだが、さすがに丁寧に撮られている。
馬に乗って疾走するシーンなんて時代劇でよくみたシーンで、観客席から応援の拍手が湧きおこったものだった。
もしかしたらこの映画でも同じようなことが起きていたかもしれないなと想像した。

ラストは気が利いている。
ファンファンが王女と結婚したがっていたので、国王は功績の褒美として娘との結婚を許し自分が義父となるとファンファンに告げる場面だ。
戸惑うファンファンの表情を見せたところで、「おっとそうきたか!」の展開に納得する。
ファンファンたちは敵の本部に潜り込み、大軍で占拠したように見せかけて勝利に導いた事に対する褒美だったのだが、閉じ込めていたはずの捕虜はどうなったのか気になるところである。

戦争前に死者は1万人程度と予想されていた。
大量の犠牲者を覚悟していたのに、大砲を撃つことなく勝利した国王は、「1万人の死者はどうした?」と死者数を予想していた参謀に聞くと、参謀は「それはまた次の機会に」と答える。
国家は国民の命など戦争のコマの一つにしか考えていないのだと訴えている。
冒頭のナレーションに続いて、最後に戦争を皮肉る最高の言葉となっている。