おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

裸の太陽

2023-01-09 09:32:07 | 映画
「裸の太陽」 1958年 日本


監督 家城巳代治
出演 江原真二郎 丘さとみ 中原ひとみ 仲代達矢 高原駿雄
   山形勲 星美智子 岩崎加根子 東野英治郎

ストーリー
驀進する機関車のハンドルを握るのは機関士の崎山(高原駿雄)、助手は木村(江原真二郎)。
崎山は妻の房江(星美智子)の出産が明日なので落着かない。
木村には房江の妹でゆき子(丘さとみ)という恋人があり、二人は十万円の結婚資金をためている最中。
その木村は明日は一緒に海水浴に行くのでウキウキしている。
木村が乗務員詰所に戻ると、そこでは親友の前田(仲代達矢)が同僚達に囲まれて不穏な空気が漲っていた。
同僚の金がなくなり、日頃競輪にこったり素行の悪い前田が疑われたのだった。
木村は前田をかばったが、彼は何も弁解しなかった。
喫茶店で木村とゆき子は、水着を買うために貯金を下すことに決めた。
寮から通帳を取っての帰りに木村は前田に会い、金を貸してくれといわれる。
一度は断ったものの、なにか事情があるのを察し、貯金を全部貸してやる。
ゆき子はせっかくの楽しみが駄目になって怒り出す。
二人で町を歩いている時、ビアホールから出て来る前田をみかける。
木村は金の使いみちを詰問し大喧嘩となって、警察に連行されてしまった。
怒りもとけたゆき子は、警察から戻った木村になんとかして海に行こうという。
ところが翌日、木村は警察を出てから行方不明の前田の代りに勤務を命じられる。
これで海水浴もとうとう駄目になった。
浮かぬ気持で寮に帰った木村のところへ、河合富子(岩崎加根子)が前田に貸した金の礼をいいに来た。
昔、前田は富子を愛していたが、富子はそれを知らずに他へ嫁いでしまっていた。
前田は最近富子に会って、富子の夫が胸を病んで困っていることを知り金の工面をしてやっていたのだ。
木村もゆき子も前田の愛情に感動し、昔の仲良しに戻った。


寸評
描かれているのは1950年代の若者たちの、ほほ笑ましい日常である。
SLのカマ焚きである江原真二郎が義兄の高原駿雄と運転席に乗っていて、紡績工場に近づくと江原が運転手の高原に頼んで汽笛を鳴らしてもらう。
紡績工場に勤める恋人の丘さとみへの合図なのだが、SLが走り抜けると大きな空と原っぱや水田が広がり、そこに白いブラウス姿のヒロインが走りながら現れて、恋人の乗務するSLに向かって右手をぐるぐる回す。
この牧歌的な開放感は現実社会でもう味わうことはできない。
僕の最寄り駅の近くに鐘紡の紡績工場があったのだが、今ではマンション群となっていて作中で登場したような紡績工場は日本社会から消え失せている。
メインとなっているのは江原眞二郎扮するSLの機関助士・雄二と、丘さとみ演じる、紡績工場勤めの女性・ゆき子との青春ラブストーリーである。
それも、時代を感じさせるラブストーリーで、当時の社会状況を写し取る風俗映画のように感じる。
街の風景や職場の様子はもちろんことで、登場人物の服装も印象的で急速な経済成長を遂げようとしていることがうかがわれる。
喫茶店でかき氷を食べる雄二とゆき子のデートシーンは時代を感じさせる。
JRの前身である国鉄協賛、文部省推薦と言った趣で、杉の木と名付けられた職場サークルの連中はコーラスをやっていて、働く若者たちの美しき青春を賛美しているようである。
登場人物は江原真二郎とその恋人の丘さとみがメインで、丘さとみの妹が中原ひとみ(江原と中原は後に実生活で結婚する)、丘さとみの姉は星美智子で、彼女の夫は高原駿雄であるから、要は国鉄一家なのである。
当時は国鉄一家と呼ばれる家庭がそこそこに存在していたと思う。

一方の主役は蒸気機関車で、SLの撮影は非常に良く出来ていると思うし、運転席の描写も臨場感がある。
見ている限りにおいては、実際に走っている機関車内で撮影したように思え、そうだとすれば撮影時の苦労と国鉄の協力に賛辞を送りたい。
クライマックスは、SLに乗務した江原が急勾配の箇所で機関車の先頭に腹這いになって線路に砂を落として坂を登りきるところだ。
SLの運転に際して、機関車はこんな風にして坂を登ることも有ったのだと知ると、やはり手に汗握る。
頑張って走る機関車を映しても、機関車が新鮮な魚が待つ駅にたどり着き大喜びされると言うシーンはない。
機関車を持ち詫びる人々よりも、やはり主役は機関車そのものなのだと思わせた。

江原は中学で同級生だった仲代達矢と国鉄に就職したようである。
仲代は酒と競輪におぼれている不良職員で、江原と丘が二人の結婚資金として貯金していた1万7千円を江原から借りる。
当初、競輪で使ったのかと疑っていたが、実は昔好きだった女の岩崎加根子の夫が結核になってしまい、その治療費に貸したことが分かる。
この世の中には悪い人間はいないということで、健全映画の結末らしい。
プールに飛び込む丘さとみの水着にくっきりと縫われた跡が残っていたのがラストシーンを飾っている。