おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幕末純情伝

2023-01-06 10:22:30 | 映画
「幕末純情伝」 1991年 日本


監督 薬師寺光幸
出演 渡辺謙 牧瀬里穂 杉本哲太 伊武雅刀 木村一八 伊藤敏八
   角田英介 貞永敏 財前直見 松金よね子 桜金造 石丸謙二郎
   榎木孝明 柄本明 津川雅彦

ストーリー
江戸の大通り、新選組隊員の募集広告の立札を見る近藤勇(伊武雅刀)と土方歳三(杉本哲太)の前に一人の道場破りらしい若者が現れる。
美男子で見事な剣さばきで数人の追手をなんなく峰打ちにしてしまったその男こそ沖田総司(牧瀬里穂)だった。
所変わって京都・鴨川、新選組の近藤や総司が屋形船をうかがっている。
船の中にいたのは桂小五郎(柄本明)と坂本竜馬(渡辺謙)で、大声で薩長同盟や倒幕論議をしていた。
そんな彼らに新選組は立ち向かうが、竜馬は何を勘違いしたのかいきなり総司に抱き着き、壮烈な切り合いの中で強引に口説き始めるが、その時、総司は吐血してしまい倒れてしまう。
鴨川の活躍で新選組の評判は一気に高まり、特に総司の人気はすさまじい勢いで、総司の病床には女の子のファンからのお見舞いが山をなしていた。
一方、倒幕の秘策を練る桂や岩倉具視(津川雅彦)、西郷隆盛(桜金造)、大久保利通(石丸謙二郎)を尻目に竜馬は大胆にも朝幕大連合政権の大風呂敷広げ、朝廷はおろか幕府にも工作を計っていた。
そして、なぞの女スパイ・深雪(財前直見)も絡み、京の町は大混戦となる。
総司たちの活躍もますます勢いに乗るが、総司は女だという噂も旋風のように京の町を走った。
そして、総司の一途な思いをよそに深雪に熱を上げる土方、その総司を追い回す竜馬。
そんな新選組に冷水を浴びせたのは、他ならぬスポンサー松平容保(榎木孝明)の手にした請求書の束だった。
活躍のあまり、器物破損のツケがまわってきたのである。
新選組はその活躍ゆえに全員クビになってしまい、さらにそんな時、総司が桂たちにさらわれてしまう。
いきり立った竜馬は土方と共に斬り込み総司を助け出す。
何とか逃げのびた三人が寺田屋でシャモ鍋をはさんでいた時、桂たちの一軍が旅館を取り巻いていた。


寸評
新選組はよく映画に取り上げられる題材である。
近藤や土方を主人公にした正統派時代劇もあれば、新選組に参加した名も無き武士のひたむきな生き様を描いた滝田洋二郎 の「壬生義士伝」や、新選組を男色の視点で描いた大島渚の「御法度」など視点を変えた作品も数多く存在している。
本作は新選組にあって一番の剣客だった沖田総司が女だったという脚色で物語が展開されている。
沖田総司を演じているのは愛くるしい牧瀬里穂である。
牧瀬里穂と言えばJR東海が流していたテレビ・コマーシャルの「クリスマス・エクスプレス」シリーズが懐かしい。
僕たちの世代の男は彼女の見せる新幹線を背景にした恋模様に胸をときめかせたものだ。
映画デビュー作となった相米慎二監督の「東京上空いらっしゃいませ」、続いて市川準監督の「つぐみ」と監督に恵まれ、3作目がこのコメディ時代劇で彼女が一番華やいでいた頃の作品である。

沖田総司、坂本竜馬などが画面狭しと暴れまくるが、コメディだけに時代考証は滅茶苦茶である。
長州の桂小五郎、薩摩の西郷隆盛、公家の岩倉具視などは馬鹿っぽさを通り過ぎて気味が悪い存在で、まともなのは坂本竜馬ぐらいと思わせるのだが、その坂本竜馬も沖田総司にゾッコンになってしまい、フンドシをほどいて襲い掛かるというハチャメチャぶりだ。
後半になってこのズッコぶりの力が落ちて行ったのは残念に思う。
面白いのは坂本は沖田に恋しているが、沖田は土方を思っているという三角関係だ。
土方も沖田を好いていると思われるのだが、御前試合で女の沖田に打ちのめされたという屈辱感が邪魔をしていて素直になれないでいる。
喜劇の中でこの屈折した愛をじっくり描き込んでいればもっと奥深いコメディとなったような気がする。
実は遠い昔の小学生の頃の話ではあるが、僕も土方と同じような経験をした思い出がある。
当時、好きだったスポーツ万能の女の子がいて、プールの授業でその子が良い泳ぎ方の手本として泳ぎを披露したのだが、先生は続いて悪い泳ぎ方の例として僕を指名したのである。
その時の好きな女の子の前で不様な姿を見せた情けない気持ちは誰にも言えなかった。
その屈辱感は彼女との関係において常に影を落としていたように思う。

沖田が土方に恋しているのは、助けた深雪という女に親切にする土方に焼きもちを焼いていることでも分るのだが、しかしこの深雪の描き方は中途半端で終わっているのはいただけない。
どうやら深雪は敵方のスパイの様で、土方に助けられたのも仕組まれた上でのことだったと思われるが、結局彼女は何だったのかと言うような形で終わってしまっている。
ラストで坂本竜馬は大演説を行うが、どうも僕にはピンとこなかった。
坂本竜馬の大演説と言えば、黒木和雄監督の「竜馬暗殺」の方が迫力があったと思い起こした。
土方は傷ついた背中の沖田に蝦夷地に行くぞと告げるが、土方が沖田とともに蝦夷地に行こうと思った心の内がよくわからなかった。
坂本竜馬の渡辺謙が第一主演なのだろうが、牧瀬里穂の可愛さが目立った作品で、これぞB級作品と言った感じで素直に楽しめる作品となっている。