おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ハワイ・マレー沖海戦

2023-01-27 08:09:36 | 映画
「ハワイ・マレー沖海戦」 1942年 日本


監督 山本嘉次郎
出演 伊藤薫 原節子 加藤照子 友田宇女子 英百合子 中村影
   汐見洋 藤田進 大河内伝次郎 井上千枝子 大崎時一郎
   音羽久米子 徳川文六 泉つね 豊原みのり

ストーリー
昭和十一年、海軍兵学校の生徒、立花忠明は休暇で帰省した。
忠明はその時、従弟の友田義一が海軍少年飛行兵を志願しているのを知り、義一の頼みで、志願を許してくれるよう義一の母を説得した。
翌年、義一は土浦海軍航空隊予科練習部に入隊、厳しい訓練を受け始めた。
昭和十四年、義一は予科練を卒業して海軍飛行隊の一員となり、一人前の操縦士となるための猛訓練が毎日の日課になった。
昭和十六年の秋、義一たちを乗せた空母がひそかに出航して行ったが行先は知らされていなかった。
数日後、乗組員が聞かされたのは、十二月八日未明にハワイ真珠湾を攻撃するという命令だった。
その日、空母を飛び立った大編隊は、見渡す限りの雲海の中を進んでいた。
突然、雲の小さな切れ目から真珠湾口が光り、そこには米太平洋艦隊の主力が静かに停泊していた。
やがて、義一たちの雷撃隊、急降下爆撃隊、水平爆撃隊の大編隊の奇襲攻撃が始った……。
一方、仏印飛行場では忠明らの中攻大編隊が、「英国艦隊主力二隻発見」の報に飛び立ったが敵艦を発見出来ないままに帰還しなければならなかった。
しかし、その後、潜水艦の情報で、再び忠明らは飛行場を飛び立った。
やがて、忠明らの編隊は眼下に敵艦を発見、たちまち、激しい戦いが始った。
不沈艦を誇ったプリンス・オブ・ウェールズは死闘をつづけながらも、何本もの魚雷攻撃を受けて、ついに艦首から海にのまれていった……。


寸評
海軍省後援で製作された国策映画で、冒頭「一億で背負へ譽の家と人」と映し出され、海軍省検閲済 海検第255号、後援 海軍省、企画 大本営海軍報道部のクレジットにこの映画を英霊に捧げる言葉が続く。今見ると歴史的な匂いを感じてしまうが、当時はプロパガンダの役割を果たして身震いしたのかもしれない。

映画の前半は予科練における訓練ぶりと、友田義一が落ちこぼれそうになりながらも成長していく様子が描かれる。戦後に撮られた作品と違い、またプロパガンダとしての役割上、作中には新兵をいたぶる古参兵のような者は登場しない。登場するのは厳しい中にも思いやりのある上官や、辛い中でも笑の絶えない仲間たちの姿だ。

今この映画を見て戦争を可とする者など皆無と思うが、どこかの党首ではないが、当時のふんわりとした民意はこの様なものだったのかもしれない。
母親は息子はすでに自分たちのものではないと言い切るし、予科練ではすでに精神論がぶたれているし、命令は天皇陛下の命令で絶対なのだと言い放っている。
訓示はアジ演説的に長々と映し出され、このようなシーンを見ると間違いなくこの時代に作られたプロパガンダ映画だと思わせる。
長い映画だが、ほとんどの部分は予科連と海軍兵学校で練習に励む主人公らの訓練風景が延々と描かれ、最後の十数分間のみが特撮スペクタクルを堪能できる構成で、ついにやっつけたかという気持ちの高ぶりがこの映画の持ち味となっていると思う。
もしかすると当時の映画はこの様な作りだったのかも知れない。

オープニングと同時に登場した姉役の原節子は綺麗すぎないかと感じた。
主人公は田舎の大きな家の長男らしいので、その家のお嬢様みたいな設定なのだろうけれど、これは彼女の持つ雰囲気の宿命みたいなもので、とても百姓家のよごれた娘役を出来る人ではないなと思った。
円谷英二による特撮シーンは、クライマックスにほんの少しあるだけだが、精緻なミニチュアセットが、まるで記録映画のような素晴らしい効果をあげていて、白黒映画のせいか、その後の東宝映画の特撮シーンよりも雰囲気がある。

山本嘉次郎は「加藤隼戦闘隊」なども撮り、プロパガンダ映画監督の立場を受け入れた監督だと思うのだが、戦後にGHQの指導で作られた東宝の労働組合委員長に就いているのは面白い。
常識的に考えればこの人事はないと思うが、GHQも何を考えていたのか…。
人がいなかったのか、誰でもよかったのか、変節は仕方のないことと思われたのか。
ハチャメチャ人事と言われても仕方がないのではないか。
僕は山本嘉次郎その人に対しては、NHKのクイズ番組に出ていた時に見た白髪の素敵なお爺さんという印象があり、エリア・カザンがレッド・パージへの対応で終生批判を受け続けたのとはえらい違いだ。