「花束みたいな恋をした」 2020年 日本
監督 土井裕泰
出演 菅田将暉 有村架純 清原果耶 細田佳央太 オダギリジョー
戸田恵子 岩松了 小林薫 韓英恵
ストーリー
2020年。カフェで、1組のカップルがひとつのイヤフォンの左右を分け合って音楽を聴こうとしていたが、女と一緒にこのカフェに来ていた山音麦(菅田将輝)はこれでは“本当の音楽”を聴くことはできないと感じた。
一方、別のテーブルに男と共に座っていた八谷絹(有村架純)も麦と同じことを思っていた。
麦と絹はそれぞれ、このカップルに指摘すべく席を立った…。
2015年初旬。終電に乗り遅れた麦と絹はカフェで時間を潰すことになったところ、二人は意気投合する。
麦の家を訪れた絹は、麦の本棚がほぼ自分の本棚と同じであることに気付いた。
それから麦と絹は何度かデートを重ねたが、互いに自分の気持ちを打ち明けられずにいた。
三度目のデートの日、終電間際に麦は絹に告白をし、二人は初めて手をつないで歩き、キスをした。
麦は夢に向かってイラスト描きに情熱を注いでいたが、絹は就職活動で苦戦を強いられていた。
絹を励ました麦は一緒に暮らそうと提案し、二人は多摩川沿いのマンションを借りて同棲生活を始めた。
2016年。仕事しながらも絵を描けると考えた麦は絹との生活のために定職に就く決心を固めた。
やがて絹は歯科医院の受付の仕事が決まったが、麦は仕事が決まらないまま年末を迎えた。
2017年。麦はネット通販会社の物流関連の仕事に就いた。
営業担当になった麦は毎日夜遅くまで仕事に追われる日々が続き、いつしかイラストを描く時間も、そして絹と一緒に過ごす時間をも奪われていった。
2018年。絹は知り合ったイベント会社社長・加持航平(オダギリジョー)にスカウトされ、転職することにした。
その頃、麦はニュースで、配送会社の運転手が荷物を載せたトラックを東京湾に捨て、逃亡した故郷の新潟で逮捕されたという事件を知り、自分と重ね合わせた。
麦と絹は先輩の葬式に参列したが、もはや二人には話し合う気力も、喧嘩する気力すらも失われていた。
2019年。麦と絹はまだ同棲を続けていたが、二人の生活は完全にすれ違ったものとなっていた。
寸評
映画は2020年から始まり、スマホの音楽をイヤフォンの片方ずつを付けて聴くカップルに、それでは本当の音楽が聞けないと注意しようと思った麦と絹が出会うというオープニングで、僕は同じ思いの二人がこの様にして出会って、これから二人の恋が進んでいくのかと思っていたら、場面は変わって2015年となる。
なんだこれから過去をたどるのか、だとすればあのオープニングのシーンはなんだったんだろうと思いながら見続けたのだが、二人の会話はドラマチックなものではなく等身大の彼らを見る思いのもので、若い二人をのぞき見するような気分になった。
二人は趣味や好みが同じで意気投合する。
小説、音楽、演劇といった芸術分野だけでなく、履いている靴までブランドが同じといった具合だ。
二人が思っていることを日記風にナレーションで語るのも、映画の雰囲気にマッチしている。
僕からすればマニアックな好みに思えるのだが、そんな二人だからこそ引き合うものがあったのだろう。
お互いに気持ちが高ぶっているのに告白することができない。
そのもどかしさは、あの頃に帰れば誰もが心当たりがあるものだろう。
やっとの思いで告白し合うシーンは正に青春である。
二人は同棲生活を始めるが、この頃は何もかもが楽しい時期で、賃貸マンションは駅から30分も掛かる場所にあるが、待ち合わせをして帰る道のりも楽しい時間だったことは理解できる。
しかし雨の日はどうしていたのだろうと、ゲスな私はあらぬことを想像してしまった。
二人の生活をステップアップするために、親からの仕送りを打ち切られた麦は定職につかねばならなくなる。
決まった就職先は入社前の説明とは違って拘束時間も長い。
求人に際しては甘い言葉で誘うのが企業側の常套手段であろう。
特に仕事がきつい会社ほどその傾向がある。
入社すれば仕事に追われる毎日となるのは当然のことで、麦と絹が一緒に過ごす時間も奪われていく。
サラリーマンなら当たり前の生活で、家族との時間は週末しかないのが普通だ。
麦と絹は休みをどのように過ごしていたのだろう。
二人の間にすれ違いが起き、隙間風が吹き始める。
そうなると互いへの思いやりの気持ちが無くなってくるのも理解できる。
そして二人の将来像への思いにもすれ違いが生じてしまっている。
別れたくない麦は結婚しようと持ち掛けるが、麦が語る夫婦関係、家族関係は僕には納得できるものだった。
しかし絹は横に座った初々しいカップルを見て、もうかつての自分たちに戻ることができないことを痛感する。
別れ話がまとまった後の二人の様子は微笑ましいい。
それが出来るなら、なぜ最初からやらなかったのかとツッコミを入れたくなる。
ラストシーン、ここに戻って来るのかと納得。
面白い展開だったけど、二人はヨリを戻すことはないのだろうなと思った。
綺麗な花束もいつかは枯れるものだが、そのような恋が出来るのもまた青春ならではで、麦と絹にとっては今の私には望むことができない貴重な体験と時間だったと思う。