「パブリック・エネミーズ」 2009年 アメリカ
監督 マイケル・マン
出演 ジョニー・デップ クリスチャン・ベイル マリオン・コティヤール
ビリー・クラダップ スティーヴン・ドーフ スティーヴン・ラング
ジェームズ・ルッソ デヴィッド・ウェンハム
ストーリー
その時代を支配していたのはジョン・デリンジャーという男だった。
銀行強盗という決して褒められる仕事をしているわけではないが、弱きからは盗まず金持ちだけをターゲットに絞った義賊的存在の彼は民衆からの支持も集めていた。
彼とその仲間は警察に捕まるものの見事脱獄に成功する。
地元警察は既に買収済みではあるものの、一部の警察内でジョンを逮捕するための捜査局が設立された。
その支局長にパーヴィスという捜査官が任命された。
一方その頃ジョンはビリーという美女と出会っていた。
かくしてパーヴィスとジョンの追いつ追われつが始まった。
パーヴィスはジョンを逮捕するため、経験豊富な捜査官達を呼び寄せた。
そしてビリーと競馬場で遊んでいたジョンをとうとう逮捕することに成功した。
しかしジョンは腕の良い弁護士を雇い、再び仲間と脱獄の計画を立てる。
無事に脱獄したジョンが暫くして仲間の元に戻ると、何故かジョンは一部の人間から邪魔者扱いを受け、そして隠れ家も使えなくなっていた。
不審に思いつつもジョンは新たな銀行強盗を実施する。
しかしその途中仲間の1人が捜査官に捕まり、強制的にジョンの居場所を吐かされてしまった。
そしてジョンのアジトに攻め入った捜査官達とジョン達の銃撃戦が勃発した。
その被害は甚大で、ジョンの仲間はジョンを残して全員殺されてしまった。
そしてジョンにとって最悪なことに、自分と付き合っていた恋人ビリーまでもが捜査官に逮捕されてしまった。
寸評
ジョン・デリンジャーは銀行強盗しかやらず、一般客の金は盗らない義賊的な一面を持つギャングである。
しかし、デリンジャーがどうして犯行を続けているのかといった背景を描くことはないし、義賊的な一面を強調的に描くこともない。
デリンジャーと恋人ビリーとのロマンスも描かれているのだが恋愛劇として成り立っているわけではない。
同じ銀行強盗を描いたアーサー・ペンの傑作「俺たちに明日はない」とは一線を画した作品である。
人間ドラマとして描くことを避け、目の前で起きていることをリアルに描くことに徹している。
見どころはやはりアクションシーンだろう。
冒頭は刑務所のシーンで、収監されているデリンジャーが仲間を脱獄させて銀行強盗を決行するまでが手持ちカメラを使ってテンポよく描かれていく。
その後も銀行強盗を繰り返すのだが、案外とあっさりと捜査当局に逮捕されてしまう。
ところがまたしても脱獄というわけで、一筋縄ではいかないデリンジャーと、彼を追うパーヴィス率いる捜査官との戦いを軸にして物語は進んでいく。
中途半端な恋愛劇になりそうだったビリーの存在が、本筋であるデリンジャーとFBIとの対決に大きく関わってきたので納得させられたし、ラストシーンにおける「バイバイ、ブラックバード」に繋がっていることに唸らされる。
クライマックスとなるのがラストシーンにつながる映画館のシーンだ。
映画館はそれまでにも登場していて、上手く使われているがラストの映画館の場面はシャレている。
なかなか現れないデリンジャーに捜査官がいらだち始めた時に彼が現れる。
捜査官たちは映画館に踏み込むことはなく、四方八方に配置されてデリンジャーが出てくるところを待ち伏せる。
上映されている映画の主人公はクラーク・ゲーブルだ。
クラーク・ゲーブルが演じる人物とデリンジャーをダブらせる憎い仕掛けで決着へと向かっていく。
決着がつき、虫の息のデリンジャーが何かつぶやく。
それをパーヴィスが呼び寄せたベテラン捜査官のウィンステッドが聞くが「聴こえなかった」と告げる。
それまでもウィンステッドがパーヴィスに指示していて、どちらが上司なのかわからない関係が伏線として有る。
ウィンステッドのスティーヴン・ラングも渋い。
ジョニー・デップのデリンジャーはハマリ役で、発するセリフに違和感を感じさせない。
一方のパーヴィス捜査官を演じるクリスチャン・ベールも良くて、緻密ながらも冷徹な面を見せてデリンジャーを追っていくのだが、ビリーに対して優しさを示すあたりの性格描写が決まっている。
見ていると犯罪者側にも捜査側にも時代の波が押し寄せていたのだと感じさせる。
銀行強盗は時代遅れの犯罪になりつつあり、デリンジャーが1っヶ月で稼ぐ金を1日で稼ぎ出すマフィアが登場しているし、捜査側は電話の盗聴でデリンジャーたちの動きを把握していて、捜査手法も発達している。
州警察では犯罪に追いつかないので連邦警察であるFBIの創設が論じられている。
やがてフーバーはその組織に君臨することになることを我々は知っている。
アクションに徹したところがあるが、やはり僕は人間ドラマを期待していたので少々不満が残る内容ではある。