おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

白熱

2023-01-04 16:57:16 | 映画
「白熱」 1949年 アメリカ


監督 ラオール・ウォルシュ
出演 ジェームズ・キャグニー ヴァージニア・メイヨ
   スティーヴ・コクラン エドモンド・オブライエン
   マーガレット・ワイチャーリイ フレッド・クラーク

ストーリー
凶悪殺人ギャングのコーディ・ジャレツは、一味と共に財務省の郵便馬車を襲って現金30万ドルを強奪した後、母と妻ヴェルナの待つ山のかくれ家に逃げ、官憲迫ると見て、瀕死の部下だけを残して逃亡した。
Tメン(財務省防犯課)はこの事件をコーディ味の仕業と推定、ひそかに内定を進めた末、課長エヴァンスはロサンゼルスのホテルにひそむ一味を発見したが逃げられてしまった。
コーディは捜査を免れるためイリノイのホテルを強盗して自首して出た。
官憲はその裏を察して望み通り投獄した上、課員のハンク・ファロンを同じ監房に潜入させた。
一方ヴェルナは、夫が獄入りしたのを待ちかねて一味のビッグ・エドと通じ、エドは獄中の手下に連絡してコーディをひそかに亡き者にしようと図った。
作業中の事故に見せかけて殺害するという計画はハンクの機敏な働きで未遂に終わったが、そのためコディはすっかりハンクを信頼するようになった。
ハンクはコーディに脱獄をそそのかし、一味の本拠を突き止める計略をたてた。
ところがコーディは新来の受刑者から母が死んだことを聞いた途端、持病の神経性発作に襲われて病室行きの身となったので、ハンクから連絡を受けたTメンは全員引き揚げてしまった。
一方病室へ入ったコーディは医者を脅迫しつつ信頼するハンクらを引き連れてみごと投獄してのけた。
一行はエドとヴェルナのひそむ山小屋に辿りつき、コーディは母の仇とばかりエドを殺害した。
ハンクは一味の重要人物になり上がっていったが、官憲に通報する暇もないまま、コーディと共にロング・ビーチの大化学工場を襲うことになった。
彼はラジオ部品をトラックに装置し、警官を誘導して工場に入った。
金庫焼き切りの現場でハンクは財務省のイヌであることを見破られてしまったが、やっと警官の元へ逃れ、唯一人大タンクに逃げ昇ったコーディは、大爆発と共に散っていった。


寸評
製作年の1949年(昭和24年)は僕が生まれた年であるが、当時の映画としてはスピーディなストーリー展開で引き付けるものがある。
主人公のギャングは社会の矛盾によって生み出された悲劇的ヒーローではなく、狂気と暴力をほとばしらせながら破滅へ向かっていく。
しかもマザーコンプレックスの傾向があり、仲間であろうと殺してしまう凶暴な幼児性をもった異常性格者としていることでジェームズ・キャグニーが強烈な印象を残している。
さらに遺伝からくるものかコーディは発作的に頭痛に襲われるのだが、それも上手く処理されている。
医者によって精神異常と診断されてしまうと病院送りとなって取り逃がすので、その診断が下りるまでに逮捕しないといけない時間的制約も付け加えられている。

コーディがマザコンであることは捜査当局の調書によって述べられているが、それが現実に示されるのは刑務所の大食堂での食事シーンだ。
母親が殺害されたことを耳打ちされたコーディが、悲嘆と怒りの余り凄絶な雄叫びを上げながら食堂じゅうを滅茶苦茶に暴れ回る。
その為にハンクが計画した偽装脱獄計画が水泡と消えてしまうのも無理がない描き方だ。

母親が犯罪に加担しているが、この母親は防犯課の尾行を巻いてしまうなどなかなかの切れ者である。
それに反してコーディの妻であるヴェルナはその場しのぎの態度をとる軽薄な女で、金に目がないがコーディの恐怖から逃れられないでいる。
ヴェルナは手下のビッグ・エドと出来ていて、ギャング団もいつ仲間割れをしてもおかしくない状況であることもスリルを生み出している。
コーディは平気で仲間を見捨てるし、邪魔になればいとも簡単に殺してしまう冷徹な男だ。
機関車の蒸気で大やけどを負った仲間を、一番親しい男に殺させようとする。
さすがにそこまで冷酷なれなかった犯人の一人のとった温情によって彼等の存在が判明する描き方も無理がないし、何よりも仲間の射殺も含めて展開が早く、無駄なエピソードを持ち込んでこないのがいい。

ジェームズ・キャグニーが演じるコーディという異常な男を描いたギャング映画であるが、同時に潜入捜査官を描いた潜入物作品でもある。
したがって潜入捜査官のハンク(エドモンド・オブライエン)が、刑務所に入ってからどのようにしてコーディに近づいていくのかにも興味が湧いてくる。
潜入物の定石として、どこかでその身分が知られるはずだし、情報をいかにして捜査当局に伝えるのかも大きな見どころになるはずで、そのスリル感も期待を裏切らない。
犯人側にも、話している内容を唇の動きで読み取る男がいたりして、なかなか凝っている。
弟のように信頼していた人物が潜入捜査官だったというあまりにも大きすぎる裏切りに、コーディは精神的崩壊状態になるラストも迫力がある。
「やったぜママー!世界の頂点だ!」と発狂するラストは壮絶で印象的だった。