おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

トラフィック

2021-07-29 07:18:04 | 映画
「トラフィック」 2000年


監督 スティーヴン・ソダーバーグ
出演 マイケル・ダグラス
   キャサリン・ゼタ・ジョーンズ
   ドン・チードル
   ベニチオ・デル・トロ
   ルイス・ガスマン
   デニス・クエイド

ストーリー
メキシコ、ティファナ。
国境警備にあたるメキシコ州警察の警察官ハビエル・ロドリゲスとパートナーのマノーロ・サンチェスは、犯罪取締官サラサール将軍に召喚されて、麻薬カルテルの一味である暗殺者フロレスをつかまえるよう頼まれる。
ロドリゲスが難なく男をとらえ連行するや、将軍はフロレスを拷問にあわせ、強力な麻薬組織オブレゴン・カルテルの居場所を吐かせ一味を撲滅する。
アメリカ、オハイオ。
新しい麻薬取締最高責任者に任命されたロバートは麻薬犯罪の摘発に邁進するのだったが、娘のキャロラインがドラッグ中毒への道を進んでいることに深いジレンマを抱く。
アメリカ、サンディエゴ。
オブレゴン・カルテルを訴訟に持ち込むべく捜査を続けている麻薬取締局のおとり捜査官、モンテル・ゴードンとレイ・カストロ、さらに彼らが逮捕した中間ルートの麻薬密売人ルイスと、麻薬王のカール、さらにカールの妻であるヘレーナなどが裁判を通じて大きく絡んでいくのだった。


寸評
メキシコから国境を越えてアメリカに持ち込まれる麻薬の量は想像を絶するものがあるらしいし、国境をまたいで地下トンネルが掘られていたと言う記事をどこかで目にしたような気もする。
「トラフィック」はその麻薬密売ルートに関わる人々を描いた群像劇であるが、セリフのある人物が多数登場し群像劇とは言え目まぐるしい。
ソダバーグは人数の多さによる混乱を抱けるために映像処理を施して観客の戸惑いを軽減している。
キーになる人物はそれぞれのパートに存在している。
ワシントンD.C.などのアメリカの政治にかかわるパートの主人公はマイケル・ダグラスのロバート麻薬撲滅担当補佐官で、ネーム・バリュウから言ってもこの映画の主人公だ。
メキシコのパートはロドリゲス 刑事のベニチオ・デル・トロなのだが、彼の渋すぎる存在はこの映画の中で際立っており、僕には実質的な主人公に思えた。
麻薬の米国側の受け口となっているカルフォルニアのパートはドン・チードル演じる黒人刑事のゴードンである。
しかし彼らも物語の登場人物の一人にすぎず、それぞれに複雑な立場の人物たちが係わっていき、意外な展開も披露されて目を離すことができない。
複雑な人間関係ながら、ソダバーグはそれを整理して見事なサスペンス劇に昇華させている。

メキシコではサラサール将軍が指揮して麻薬撲滅を進めている。
取引現場と関係者を捕らえたロドリゲスたちを襲ったような形のサラサール将軍に疑いの目を向けるが、どうやら本気で麻薬組織を撲滅しようとしているらしいと見えてくる。
殺し屋のフロレスの拷問を見ていると、荒っぽいやり方だがそれがメキシコ流なのだと思わせる。
しかし彼には過酷な摘発の真の目的があって、その目的が明らかになっていく過程はサスペンスフルだ。
しかもサラサール将軍や、麻薬組織のオブレゴンのモデルはいると言うのだから驚きである。
寡黙なロドリゲス刑事は彼こそ麻薬撲滅を願っている人物で、ワイロのようなものも要求せずに公園に照明をつけてほしいと望む、敏腕ながらも清い人で、演じたトロがすごくいい。
ロバート麻薬撲滅担当補佐官に拘わるエピソードは辛い話だ。
補佐官として絶大な権限を持ち、大統領とも面会できる立場で任務遂行に情熱を持っているが、娘が薬物中毒に陥っているという彼の立場上あってはならないことに直面し、ロバートはその事実を隠蔽せざるを得ない。
成績優秀な娘の反抗、娘の管理を押し付けられている妻の反感を知りながらも、ロバートが仕事に埋没し続けることで生まれる夫婦間の溝などが浮かび上がってくる。
権力者や名士の子供が非行に走っているのは、報道される事件の背景として時々見受けられるものであるが、ロバートの家庭に起きていることも有り得ることだと思うし、薬物の根はそれほど深いということだと思う。
ゴードンが捕らえた麻薬密売人ルイスを法廷証人として保護するシーンもスリルがあるし、捕まった密売人のカールを救おうとする妻のへレーナの苦悩とその後に取る行動も緊迫感がある。
摘発した組織が壊滅しても新たな組織が麻薬を取り扱うであろうことが推測されて暗い気持ちになるが、救われるのはありきたりとは言えロバートの家族が再生されそうなこと、そしてなによりも照明が施された夜間の公園で野球に興じる子供たちを眺めるロドリゲスの温かいまなざしである。
ソダバーグはこの頃冴えていた。