おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

とらばいゆ

2021-07-28 07:42:05 | 映画
「とらばいゆ」 2001年 日本


監督 大谷健太郎
出演 瀬戸朝香 塚本晋也 市川実日子
   村上淳 鈴木一真 徳井優 辻香緒里
   あだち理絵子 山口美也子 大杉漣

ストーリー
本城麻美(瀬戸朝香)は女流棋士で、現在名人戦のB級リーグに属している。
麻美の妹、里奈(市川実日子)も同リーグに所属する女流棋士である。
麻美は、エリートサラリーマンの一哉(塚本晋也)と最近入籍した。
一哉は「恋愛よりも将棋が大切」という麻美を説得して、3年間の試験的な同棲の後、結婚したのだ。
しかし麻美は最近スランプで、「一哉と入籍してから、ほとんど勝ってない」と言ってしまい、口論が始まる。
ある冬の日、二人のマンションに里奈が、新しい彼氏の弘樹(村上淳)を連れて遊びに来た。
弘樹は売れないミュージシャンで、里奈の部屋に居候しており、家事をすべてこなしているらしい。
かたやエリート・サラリーマンで妻の仕事に理解のある夫、かたや家事万能の恋人。
麻美と里奈はお互いの相手を羨ましがる。
次の休日、麻美は一哉に嘘をついて、棋士仲間のアイ(辻香緒里)と競馬に出かけた。
競馬場で麻美は、元カレと一緒にいる里奈の姿を見つける。
麻美がマンションにもどると里奈が来ていて、弘樹と喧嘩したので、今日は麻美と一緒だったと口裏を合わせてほしいと頼んだところ、思わず麻美は「嘘つき。 元カレと一緒だったじゃない!」と言い放ち、今度は麻美が嘘をついていたことがばれ、逆に麻美が一哉から責められるはめに。
女流名人戦の対局は続き、今日の麻美の相手は女子中学生だったが完敗してしまう。
ついに麻美は「C級クラスに落ちたら離婚するから!」と言い放つ。
そして、麻美がBリーグ残留を賭けた対局の日、相手は奇しくも里奈であった。


寸評
男性棋士に対して実力も賞金的にも厳しいのが女流棋士の世界の様で、作中でも厳しい状況が語られている。
女流棋士の厳しい世界としてより、僕には共働き家庭を維持していく大変さを感じさせた作品だった。
掃除、洗濯、炊事と家事の多くを女性に任せる構図は想像できる。
女性からすれば同じように働いているのだから、家事も協力してもらわねばの気持ちが湧くであろうことも想像できるのである。
職場にトラブルやストレスはつきもので、それをお互いに家庭に持ち込まないことは出来そうで出来ないことなのかもしれない。

麻美と里奈の姉妹はどちらもB級に属する女性の棋士で、麻美は同棲にケリをつけ入籍したばかりに対し里奈は目下同棲中である。
この姉妹が兎に角負けず嫌いの意地っ張りで、男目線からは非常に我儘な女性である。
麻美は最近負けが込んでいてB級陥落が目前なのだが、その原因は結婚したことにあるとダンナを責める。
家事を押し付ける夫の勝手も描かれてはいるが、麻美から受ける印象は自分勝手な理屈で夫に食って掛かる嫌な女で、これが瀬戸朝香でなければ殴りたくなってくる身勝手さを感じる。
彼女は負けて帰ってくると不機嫌で、職場の嫌な雰囲気を家庭に持ち込んでいるような感じである。
もちろんその日の夜の食事を作るような雰囲気ではなく、夫は「君が負ければ俺の食事はないのか」と怒るが、妻は「私の気持ちを理解しないで食べる事ばかり気にしている」と反論する。
対局の日に夫が妻の好きな弁当を買って帰ると、「無神経だ。私が負けてまた食事を作らないと思っていたんでしょ!」と弁当を床に投げつける始末である。
それでも夫はひどいことをするなというだけで極めて冷静だ。
この包容力のある夫を塚本晋也が演じていて、監督としての実力もさりながら、どうしてどうして俳優としても中々の味を出している。
麻美は何かといえば実家によりついているが、芳江ちゃんと呼んでいる姉妹の母親である山口美也子は悪いのは麻美だと思っていて、彼女を諭すのだが麻美は聞く耳を持たない。
麻美と一哉夫婦が楽しくしている場面は全く出てこなくて、いつも気まずい雰囲気が流れているのだが、それがこの映画の中心でもあり、二人の会話が可笑しく瀬戸朝香のタンカにはそれは理不尽な言い分だと思っていてもスカッとさせるものがある。
いつもふてくされていて笑顔を見せない麻美の姿は、ラストの将棋で見せる笑顔のためのものだったのだろう。

瀬戸朝香の麻美よりも女の勝手さを出しているのが里奈の市川実日子である。
家事一切を同棲中の弘樹に任せていて、麻美以上に家庭的でない。
この様な役しかできない市川実日子だが、このような役をやると輝きを見せる女優である。
勝気な女二人と、優しい男二人の交流が何ともおかしい。

対局シーンもあるが、勝負の緊迫感はない。
ハッピーエンドはいいけれど、ちょっと甘ったるさを感じてしまった。