おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ドッペルゲンガー

2021-07-17 08:27:36 | 映画
「ドッペルゲンガー」 2002年 日本


監督 黒沢清
出演 役所広司 永作博美 柄本明
   ユースケ・サンタマリア
   ダンカン 戸田昌宏 佐藤仁美
   鈴木英介

ストーリー
早崎道夫は、医療機器メーカー、メディカル・サイテック社のエリート研究者。
彼は10年前に開発した血圧計が大ヒットしたことで、次の開発へ向けて周囲から期待を寄せられている。
だが、今では助手と共に人工人体の開発を続けるもはかどらず、上司からもたびたび進捗状況を問われ、ストレスを募らせていた。
そんなある日、彼は助手の高野から友人・由佳の弟が、自らの分身を目にして自殺したという奇妙な話を聞く。
間もなく、スランプ状態に陥る早崎の前に、彼とそっくりの外見を持つ分身=ドッペルゲンガーが現れる。
内向的で真面目な早崎とは対照的に、社交的で欲望に忠実な分身は自由気ままに振る舞いながらも、やがて早崎の研究を成功させようと協力を始める。
解雇された会社から人工人体を盗み出し、君島と言う助手を雇い、しかも泥棒を働いて研究費やライバル企業の資料までゲットして来てくれた。
その甲斐あって、遂に人工人体は完成したが、分身の存在が疎ましくなった早崎は彼を殺害。
遺体を処分すると、君島と、同じく自殺した弟の分身に悩まされていた由佳と共に、人工人体を売るべく新潟にあるメディコン産業へ車を走らせた。
その途中で、かつての同僚・村上が人工人体を売れと言ってきたり、君島と仲間割れしたりしたが、それでもなんとかメディコン産業に到着した。
ところが、早崎は全てがどうでもよくなり、新たな人生を歩き出そうと、人工人体を売らずに放してやった。
すると、それはまるで意志を持ったかのように動き出し、崖の上から海へ飛び下りて行くのだった。


寸評
冒頭で由佳(永作博美)の弟(鈴木英介)が自殺したという報告が入り、その分身が部屋に居つくあたりは、薄気味悪いホラーのような雰囲気が漂うのだが、映画はそのあとはホラーとはまったく違う雰囲気になっていく。
コミカルで笑えるところが結構あるが、これをコメディと呼ぶには抵抗がある内容だ。
ドッペルゲンガーは分身で、自分に内在している別な欲望を持つ人格ともとれるからである。

早崎(役所広司)の分身ときたらとんでもないワルで、人殺しも平気でするし、女性にも目がない。
助手の高野(佐藤仁美)を早崎の目の前で誘惑している。
分身がお前の思っていることをやったと言うと、早崎がなんてことをしたんだという雰囲気になるのが可笑しい。
また分身は由佳を無理やり誘惑しようとする。
権力、金、女などに執着するドッペルゲンガーは、善人の早崎本人がもともと持っていた姿だとも考えられる。
そんな分身に手を焼く早崎の姿が全くもって可笑しいので、これはコメディなのだという気がしてくるのだが、それでも大笑いが起きる内容ではないので純粋なコメディではないと感じる変な作品だ。
そもそもドッペルゲンガーが現れるという設定そのものが変なのだ。
ところがこの映画、その設定に違和感を感じさせない雰囲気を持っているから面白い。

早崎とドッペルゲンガーのやり取りを、時に顔を見せない代役を立てたり、合成を使ったり、マルチスクリーンの様な画面分割を使ったりしながら、面白おかしく描いていく。
二人のキャラクターを演じ分ける役所はやはり上手い。
作品は一人の人間の人格の分裂と統合の物語だと見ることもできるのだが、黒沢監督はそういうテーマを徹底的に突きつめたりはしていない。
明快な結論を見せたりはせず、あいまいな点をわざと残し、観客の自由な判断に任せているように見える。

後半になると次々と人が殺されていく展開になる。
それまでとはずいぶんと違った雰囲気だ。
早崎の同僚であり上司であった村上(柄本明)の再登場の仕方や、自分に正直に生きようとした矢先の出来事などは、何のためのエピソードだったのかと思わせる。
それでいて、何か意図あるエピソードだったのだろうとも思わせる内容なのだ。
由佳が早崎のもとで働くことになるが、その行動の裏にあるのが早崎に対する愛とは思えない。
映画初出演の永作博美が、由佳の行動の裏にある心理は?と思わせる不思議な魅力を振りまいている。

早崎はよほど世間と離れた存在だったのだろうか?
ドッペルゲンガーが出現しているにもかかわらず、彼の周りでは騒ぎが全く起きていないのである。
しかし、そんな細かいことを気に掛けていたのではこの映画を楽しめない。
ラストにおける人工人体の結末と、早崎と由佳の様子は人生の出直しのようにも見える。
しかし、ドッペルゲンガーを見ると死ぬということはどうなったのだ?
結末は僕の予想とは違ったなあ・・・。