おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

飛べ!フェニックス

2021-07-22 07:54:02 | 映画
「飛べ!フェニックス」 1965年 アメリカ


監督 ロバート・アルドリッチ
出演 ジェームズ・スチュワート
   リチャード・アッテンボロー
   ハーディ・クリューガー
   アーネスト・ボーグナイン
   ピーター・フィンチ
   イアン・バネン

ストーリー
アラビア石油空輸会社所属の輸送兼旅客機が、サハラ砂漠にある採油地から基地へ帰る途中、砂あらしに遭遇し、砂漠の真只中に不時着した。
この事故で、2名の死者と1名の負傷者がでた。
操縦士のフランク(ジェームズ・スチュアート)は、事故の一切の責任をとる決心をして、航空士ルー(リチャード・アッテンボロー)と共に、なんとか、乗客を無事救出すべく策を練った。
この乗客の中には、イギリス陸軍大尉ハリス(ピーター・フィンチ)と部下のワトソン軍曹(ロナルド・フレイザー)がいたが、ワトソンは上官であるハリスに根深い反感を持っていた。
数日後、救援隊が来ないのにしびれを切らしたハリスは乗客の1人で、小猿をもっている男カルロス(アレックス・モントーヤ)や、採油夫長トラッカー(アーネスト・ボーグナイン)とともに、オアシスを探しにいった。
だが、トラッカーは、砂嵐にまきこまれたのか、数日後死体となって発見された。
一方、年若い飛行機デザイナーのハインリッヒ(ハーディー・クリューガー)は、人手と器材さえあれば、こわれた飛行機から、あたらしい小型の単発機を組立てることができると、フランクに説いた。
だが、ベテランのパイロットであるフランクには、この年若いデザイナーのことを信用することはできなかった。
しかし、医師のルノー(クリスチャン・マルカン)はハインリッヒ計画に賛成した。
そうしたある日、一行は、近くにアラビア人の1隊がキャンプをはっているのを発見し、ハリスとルノーが偵察に出発したが、期待も空しく、夜が明けると、アラビア人の1隊は姿を消し、キャンプのあとから、ハリスとルノーの死体が発見された。
最早、ハインリッヒが作る飛行機に一るの望みを託す以外になくなった。


寸評
14人の登場人物のバックグラウンドがキッチリと描かれていて手抜きを感じさせないので、流石にロバート・アルドリッチはこのような作品を撮らせると上手いと感じる。
キャスティングも的を得ていて、変に若い男や女性が登場しないのもいい。
決して若くはない男たちの風貌は彼らの人生を感じさせる。
ジェームス・スチュアートのパイロットと言えば「翼よ!あれが巴里の灯だ」を思い出すが、ここでの彼は欠点も持ち合わせていて決してスーパーヒーローというわけではない。
それがかえって人間臭さを感じさせていて人物に深みを持たせている。
彼は自分がミスして犠牲者を出したと思っているし、その事を悔やんでもいる。
そして自分が飛行機に関しては時代遅れな人間だと言うことも分かっているし、ハインリッヒを認める気持ちもあるのだが素直になれない。
そんな操縦士のフランクとハインリッヒの仲を取り持つのがリチャード・アッテンボローなのだが、色んなキャラクターの登場人物が登場する中で僕はアッテンボロータイプかなと自問したりする。
自分を誰かのキャラクターに照らし合わせたくなるような多彩な登場人物が楽しませてくれる。

人物の描き方で面白いのはロナルド・フレイザーが演じる軍曹の存在だ。
卑怯な人間は最後に勇気を見せたり、正義に目覚めたり、あるいは天罰を受ける羽目に落ちるのが常道だが、ここでの彼はそのどれでもない。
ロナルド・フレイザーは脇役ではあるが、演じた軍曹の心情が痛ましく思え、観客にいろんな見方をさせてくれるアルドリッチの視野の広さに感心する。
彼の上官がピーター・フィンチの大尉で、根っからの将校を感じさせる存在である。
大尉は決して悪人ではなく、純粋な軍人であり規律と命令で生きるタイプの人間なので、部下の軍曹は自分の命令に絶対従うものだと思っている。
その態度に軍曹は反旗を翻すのだが、それと呼応するかのように操縦士のフランクは航空士のルーに命令に従えと怒鳴りつけ、大尉と同じ態度をとる。
このあたりの対比の仕方もなかなか堂に入った職人芸を思わせる演出だ(原作にあるのか、脚色のルーカス・ヘラーが書き加えたのかは知らないのだが)。

最後にアッと思わせるのがハーディー・クリューガーのハインリッヒの勤務先が判明する場面である。
その後に続くリチャード・アッテンボローの語る言葉も気の利いたセリフで、クライマックスにつながるものとなっている。
飛行機の設計をするという役回りは、アメリカ人でもイギリス人でもなく、やはりドイツ人なんだと思わせる。
ハーディー・クリューガーはうってつけの人物で、貴重な水を盗み飲みしても悪びれることなく理路整然と主張するところなどはハインリッヒのプライドを感じる。
ドイツ人の彼がアメリカ人のジェームズ・スチュアートを小馬鹿にしている所などは愉快だ。
フェニックス号のプロペラが回った時は、彼らだけでなく観客である僕も思わず手を叩きたくなった。
男性向き映画ではあるが人間ドラマとして楽しめる作品となっている。