「TOMORROW 明日」 1988年 日本
監督 黒木和雄
出演 桃井かおり 南果歩 仙道敦子 黒田アーサー
佐野史郎 岡野進一郎 長門裕之 殿山泰司
草野大悟 絵沢萠子 水島かおり 森永ひとみ
伊佐山ひろ子 なべおさみ 入江若葉
横山道代 荒木道子 賀原夏子 楠トシエ
二木てるみ 馬渕晴子 原田芳雄 田中邦衛
ストーリー
1945年8月8日の長崎で、一組の結婚式が行われようとしていた。
花嫁は看護婦のヤエ(南果歩)、花婿は工員の中川庄治(佐野史郎)だった。
戦時下ゆえいつ空襲になるかわからないこともあり、式はつつましやかに取り行われた。
庄治の継父である銅打(田中邦衛)が写真を撮り終えたところで姉のツル子(桃井かおり)が陣痛を訴えた。
ヤエの同僚の亜矢(水島かおり)は妊娠3ヵ月だったが、恋人の高谷藤雄は呉へ行ったきり音沙汰がなかった。
ツル子の家には産婆(賀原夏子)がやってきて、「産まれるのは夜になるだろう」と言った。
母・ツイ(馬渕晴子)はツル子に取っておきの小豆をお手玉から取り出して煮て食べさせてやった。
ヤエの妹・昭子(仙道敦子)は恋人の長崎医大生・英雄(岡野進一郎)と会っていた。
英雄は赤紙が来たことを告げ、駆けおちをすすめたが、昭子は「それでも男ね」と突っ撥ねた。
石原継夫(黒田アーサー)の勤務する俘虜収容所でイギリス兵が病死した。
継夫は俘虜とはいえ、イギリス兵を見殺しにした軍に憤りを感じ、そしてその夜、やりきれなさから娼婦(伊佐山ひろ子)を抱いた。
庄治とヤエは初夜を迎え「明日仕事の帰りに待ち合わせて、買い物でもしよう」と提案する。
ツル子は5時17分に男児を出産した。
銅打は昨日の結婚式の写真を現像しているが、現像液の入ったバットの中で、浮かび上がる親戚たちは皆、晴れやかな顔をしている。
誰もが明日に向かって精いっぱい生きていた。
8月9日の朝、いつもと少しも変わりはなかったが、午前11時2分、長崎に原子爆弾が投下された。
寸評
1988年の「TOMORROW/明日」、2002年の「美しい夏キリシマ」、2004年の「父と暮せば」が黒木監督の戦争レクイエム3部作と呼ばれてきたが、僕は2004年の「紙屋悦子の青春」を加えて戦争レクイエム4部作と呼ぶべきだと思う。
その中でも「TOMORROW/明日」はシンプルでいいし、訴えている内容も理解しやすい。
決して涙を誘う内容ではないし、感動や憤りをストレートに呼び起こすものでもなく、むしろどこかほのぼのとしたものを感じさせる作品である。
それゆえに、僕たちは見終った後で原爆投下の悲惨さと無益さをより強く湧き上がらせることになる。
原爆投下の狙いの一つは、核分裂の力を利用した巨大爆弾の威力を試すことだったと聞く。
従って、原爆を投下する目標の都市は無傷であることが望ましいのは言うまでもない。
しかし長崎は軍需工場などが集積する軍需工業都市でもあり、当然米軍による空襲を受けている。
調べてみると1945年(昭和20年)7月29日、31日、8月1日の3回も立て続けに空襲を受けている。
作品中でも捕虜収容所までもが爆撃を受けたと語られている。
目標都市の一つであった小倉が天候の加減で無理だったとしても、なぜ長崎に投下されたのか疑問である。
映画は原爆が長崎に投下された1945年8月9日11時20分の前日の様子を描いている。
空襲の恐怖にに晒されているとはいえ、長崎に住んでいた人たちの日常はごくありふれたものだ。
病気持ちの工員の中川庄治と看護婦のヤエの結婚式が、空襲警報がならないうちにひと通りの儀式をすませようと執り行われている。
腕時計と取り換えて用意したという精一杯の料理が並んでいて、「高野豆腐を久しぶりに見た」といった具合だ。
出席者の一人である市電の運転手をしている水本は、子供はいないが奥さんから毎日どこかの駅で弁当を届けてもらっていて夫婦は仲睦まじい。
ヤエの姉ツル子は結婚式の最中に陣痛を起こすなど大変だったが、結婚式が終わり夜が明ける頃に無事に男の子を出産し、生まれたばかりの赤ん坊に乳を含ませる幸せを実感する。
ヤエの妹の昭子には長崎医大の英雄という恋人がいたが、彼に召集令状が届き英雄が死ねば自分も死ぬと鳴きの別れを行う。
ヤエと看護婦仲間の亜矢は呉に行った恋人の子供を宿していて、連絡のない彼の消息を母親に訪ねに行くが、二人の関係を知らない母親からは「見ず知らずのあなたに、なぜそんなことを話さなければならないのか!」と冷たく言い放たれ、先行き不安で出席した結婚式でも暗い表情である。
結婚式に中川の友人として出席した石原継夫は収容している俘虜が治療を施されないまま死亡したことにいたたまれず娼館に行き、相手をした娼婦に慰められる。
子供たちは石畳の道で無邪気に遊んでいる。
庶民は精一杯生き、ある者はささやかな幸せを感じてけなげに生きていたのだ。
そんなところへ無差別殺人の究極兵器である原爆が投下された。
明日を信じて生きていた何の罪もない非戦闘員の命が一瞬のうちに奪われた。
彼等の幸せだった姿を描くことで戦争のむごさを感じさせる一作である。
監督 黒木和雄
出演 桃井かおり 南果歩 仙道敦子 黒田アーサー
佐野史郎 岡野進一郎 長門裕之 殿山泰司
草野大悟 絵沢萠子 水島かおり 森永ひとみ
伊佐山ひろ子 なべおさみ 入江若葉
横山道代 荒木道子 賀原夏子 楠トシエ
二木てるみ 馬渕晴子 原田芳雄 田中邦衛
ストーリー
1945年8月8日の長崎で、一組の結婚式が行われようとしていた。
花嫁は看護婦のヤエ(南果歩)、花婿は工員の中川庄治(佐野史郎)だった。
戦時下ゆえいつ空襲になるかわからないこともあり、式はつつましやかに取り行われた。
庄治の継父である銅打(田中邦衛)が写真を撮り終えたところで姉のツル子(桃井かおり)が陣痛を訴えた。
ヤエの同僚の亜矢(水島かおり)は妊娠3ヵ月だったが、恋人の高谷藤雄は呉へ行ったきり音沙汰がなかった。
ツル子の家には産婆(賀原夏子)がやってきて、「産まれるのは夜になるだろう」と言った。
母・ツイ(馬渕晴子)はツル子に取っておきの小豆をお手玉から取り出して煮て食べさせてやった。
ヤエの妹・昭子(仙道敦子)は恋人の長崎医大生・英雄(岡野進一郎)と会っていた。
英雄は赤紙が来たことを告げ、駆けおちをすすめたが、昭子は「それでも男ね」と突っ撥ねた。
石原継夫(黒田アーサー)の勤務する俘虜収容所でイギリス兵が病死した。
継夫は俘虜とはいえ、イギリス兵を見殺しにした軍に憤りを感じ、そしてその夜、やりきれなさから娼婦(伊佐山ひろ子)を抱いた。
庄治とヤエは初夜を迎え「明日仕事の帰りに待ち合わせて、買い物でもしよう」と提案する。
ツル子は5時17分に男児を出産した。
銅打は昨日の結婚式の写真を現像しているが、現像液の入ったバットの中で、浮かび上がる親戚たちは皆、晴れやかな顔をしている。
誰もが明日に向かって精いっぱい生きていた。
8月9日の朝、いつもと少しも変わりはなかったが、午前11時2分、長崎に原子爆弾が投下された。
寸評
1988年の「TOMORROW/明日」、2002年の「美しい夏キリシマ」、2004年の「父と暮せば」が黒木監督の戦争レクイエム3部作と呼ばれてきたが、僕は2004年の「紙屋悦子の青春」を加えて戦争レクイエム4部作と呼ぶべきだと思う。
その中でも「TOMORROW/明日」はシンプルでいいし、訴えている内容も理解しやすい。
決して涙を誘う内容ではないし、感動や憤りをストレートに呼び起こすものでもなく、むしろどこかほのぼのとしたものを感じさせる作品である。
それゆえに、僕たちは見終った後で原爆投下の悲惨さと無益さをより強く湧き上がらせることになる。
原爆投下の狙いの一つは、核分裂の力を利用した巨大爆弾の威力を試すことだったと聞く。
従って、原爆を投下する目標の都市は無傷であることが望ましいのは言うまでもない。
しかし長崎は軍需工場などが集積する軍需工業都市でもあり、当然米軍による空襲を受けている。
調べてみると1945年(昭和20年)7月29日、31日、8月1日の3回も立て続けに空襲を受けている。
作品中でも捕虜収容所までもが爆撃を受けたと語られている。
目標都市の一つであった小倉が天候の加減で無理だったとしても、なぜ長崎に投下されたのか疑問である。
映画は原爆が長崎に投下された1945年8月9日11時20分の前日の様子を描いている。
空襲の恐怖にに晒されているとはいえ、長崎に住んでいた人たちの日常はごくありふれたものだ。
病気持ちの工員の中川庄治と看護婦のヤエの結婚式が、空襲警報がならないうちにひと通りの儀式をすませようと執り行われている。
腕時計と取り換えて用意したという精一杯の料理が並んでいて、「高野豆腐を久しぶりに見た」といった具合だ。
出席者の一人である市電の運転手をしている水本は、子供はいないが奥さんから毎日どこかの駅で弁当を届けてもらっていて夫婦は仲睦まじい。
ヤエの姉ツル子は結婚式の最中に陣痛を起こすなど大変だったが、結婚式が終わり夜が明ける頃に無事に男の子を出産し、生まれたばかりの赤ん坊に乳を含ませる幸せを実感する。
ヤエの妹の昭子には長崎医大の英雄という恋人がいたが、彼に召集令状が届き英雄が死ねば自分も死ぬと鳴きの別れを行う。
ヤエと看護婦仲間の亜矢は呉に行った恋人の子供を宿していて、連絡のない彼の消息を母親に訪ねに行くが、二人の関係を知らない母親からは「見ず知らずのあなたに、なぜそんなことを話さなければならないのか!」と冷たく言い放たれ、先行き不安で出席した結婚式でも暗い表情である。
結婚式に中川の友人として出席した石原継夫は収容している俘虜が治療を施されないまま死亡したことにいたたまれず娼館に行き、相手をした娼婦に慰められる。
子供たちは石畳の道で無邪気に遊んでいる。
庶民は精一杯生き、ある者はささやかな幸せを感じてけなげに生きていたのだ。
そんなところへ無差別殺人の究極兵器である原爆が投下された。
明日を信じて生きていた何の罪もない非戦闘員の命が一瞬のうちに奪われた。
彼等の幸せだった姿を描くことで戦争のむごさを感じさせる一作である。