おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

丼池

2021-07-21 07:07:54 | 映画
「丼池」 1963年 日本


監督 久松静児
出演 司葉子 三益愛子 佐田啓二
   新珠三千代 森光子 中村鴈治郎

ストーリー
大阪のド真ん中にある丼池は戦後丼池筋と呼ばれる約1500軒の繊維街になった。
室井商事の女社長カツミ(司葉子)はこの丼池の商店の裏をくぐって貸付をしている高利貸しの一人。
彼女はがめつさでは丼池筋の高利貸し中のNO・1平松子(三益愛子)から高金利で借りて融資している。
大学を出てこの道に入ったカツミは、世間から冷たいといわれるほど合理的な金融業に徹底している。
カツミとは幼馴染みで、かつて婚約者であった兼光定彦(佐田啓二)は、いまは繊維品の老舗“園忠”の使用人だが、定彦の心の中には未だカツミの面影が深く刻まれていた。
定彦の仲介で“園忠”の忠兵衛(二代目中村鴈治郎)に会ったカツミは700万円の融資を頼まれた。
自己資金では足らず、不足分を平に貸りに行ったカツミは、“園忠”なら貸すことをすすめられた。
すでに平も850万円を“園忠”に貸しており、彼女は腹心のカツミが出す700万円と自分のを合せた1550万円で“園忠”をのっとろうと目論んでいた。
“園忠”をねらっているのは、“たこ梅”という料亭を経営するウメ子(新珠三千代)や、さらに“園忠”の店員仁科(立原博)をおいろけ戦法で口説いて品物を横流しさせ、丼池の共同販売に小さな店を始めている金沢マサ(森光子)もいた。
カツミは平と手を切り自立するため素人相手に宝投資という資金集めの新手を考えた。
その頃、平は1550万円をたてに“園忠”の差押えに出たが、定彦に頼まれたカツミは自分の持っている債権で平の“園忠”に対する破産宣告申請を妨害した。
怒った松子は、宝投資が不渡りであるという噂を流布し、カツミは債権者に追われて苦しい立場にたった。
こうした中でウメ子は土建業の田中(山茶花究)と手を組み、忠兵衛に借用書を入れさせ、一時それで店を差押えたあと返すからと瞞して、忠兵衛から4200万円の借用書をとった・・・。


寸評
丼池とかいて”どぶいけ”と読み、繊維の街大阪の中心だった。
今では高速道路なども出来てかつての賑わいはなく丼池筋の地名を残すだけとなり、多くの商店は高速道路下のセンター街に移っている。
僕は繊維関係の会社に勤めていたので、この界隈にはよく出かけたものだった。
在職中にも変わりつつあった場所だが、丼池筋から心斎橋筋に至る通りは今やすっかり様変わりである。
映画に登場する丼池は最盛期の賑わいを見せている。
その中でうごめく人々、特に女性陣が大阪人の僕には魅力的に見える。
彼女たちが闊歩する丼池の雰囲気はセット撮影だろうがよく出ている。
作中で交わされるえげつない会話が僕には心地よいのだ。
高利貸しを営む”がめつい”女たちと、その高利貸しに群がる”がめつい”男や女たちを小気味よく描いている。
平のばあさんや、タコ梅のウメ子などには、職種は違うが東洋信用金庫を破たんさせた大阪市千日前にあった料亭「恵川」の元経営者の尾上縫を髣髴させるものがある。
新珠三千代のウメ子が経営する料亭の名前は「たこ梅」なのだが、「たこ梅」といえば大阪の老舗のおでん屋であり、僕がアルバイトしていた日本料亭の屋号も「多幸梅」だった。
どちらも作中の「たこ梅」とは関係なさそうである。

出てくる女たちは誰もかれもが強欲な女たちで眉をしかめたくなる人物なのだが、それでもなぜか憎めない。
僕も彼らと同じ大阪の人間だからなのだろうか、とても人間臭さを感じてしまって可愛くすらあるのだ。
女は高利貸しの三益愛子と司葉子、金策に大変な新珠三千代と森光子たちである。
三益愛子は金の亡者のような女であるが、同時に孫には目がないごく普通のおばあちゃんである。
司葉子は自分が味わった屈辱を晴らすために意地を張っている可哀そうな女だ。
彼女がやった宝投資は、今でもある投資詐欺と言われても仕方がないようなものだ。
もっともカツミは平から支援してもらった4000万円で完済しているから詐欺にはならないだろうが。
新珠三千代は後年に出現する尾上縫と言っても過言ではないような、男を手玉に取る女である。
森光子もそこいらに居る調子のいいバイタリティある女のような気もする。
中村鴈治郎や立原博の情けない男に比べれば、女たちは遥かに生命力が高い。
女性賛歌の映画とも見て取れる。

えげつない連中がいっぱい登場するが、カツミに店を差し押さえられた男と、浪花千栄子のおばさんを登場させてバランスを取っている。
二人は失敗をして転落した人物だが、人生はやり直しがきくという象徴的存在でもある。
男はカツミの意見に従って良かった、幸せにやっていると言ってカツミを励ます。
浪花千栄子は「そんとくをわきまえないといけない、とくと言っても二宮尊徳の徳でっせ」と言って去っていく。
定彦もカツミもやっと過去の呪縛から逃れて新たな一歩を踏み出すのだろう。
淀屋橋からだろうか、司葉子を見送る佐田啓二と大川を映し込んが景色が清々しかった。
あの頃の船場は活気があったのだが、繊維問屋の衰退がチラリと出ている。