おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

トータル・リコール

2021-07-06 07:53:24 | 映画
「トータル・リコール」 1990年 アメリカ


監督 ポール・ヴァーホーヴェン
出演 アーノルド・シュワルツェネッガー
   レイチェル・ティコティン
   シャロン・ストーン
   マイケル・アイアンサイド
   ロニー・コックス
   マーシャル・ベル

ストーリー
近未来の西暦2084年、“記憶”は簡単に売買されるようになっていた。
火星には植民地があり、多くの人類が居住しているが、酸素が薄いためマスク無しでは建物の外に出られず、「エネルギー採掘会社と反乱分子との間で紛争が絶えない」と連日報じられている。
大きな戦争を経て正常な環境を失った世界で、人々はわずかな土地を、裕福なブリテン連邦と貧しいコロニーという2つの地域に分けて暮らしている。
退屈な日常に飽き、刺激を欲した人々は、人工記憶センターであるリコール社の人工記憶を買って不満を解消していた。
コロニーで暮らす工場労働者のダグラス・クエイドも、来る日も来る日も工場で働く日々にふと嫌気がさし、リコール社を訪れる。
しかし、クエイドが実際に火星へ行ったことがあると察したリコール社はトラブルを恐れ、クエイドに麻酔をかけてリコール社に来た記憶自体を消し、タクシーに乗せ自宅へ送り返す。
帰宅途中、同僚のハリーを含む謎のグループに襲われるクエイドだったが、クエイドは身に覚えのない格闘術でその全員を殺害し、ようやくたどり着いた自宅でもローリーから攻撃を受ける。
ローリーはクエイドに、記憶を消されて新しい記憶を植え付けられただけで、この世にダグラス・クエイドという人物は存在しない、と告げる。
ローリーを振り切ったクエイドは、行く先で数々の謎のメッセージを受け取り、メリーナと出会う。
メリーナは信用できるのか? 自分は誰なのか? 
クエイドはその答えを見つけられないまま、ブリテン連邦とコロニーの運命を握る戦いに巻き込まれていく。


寸評
SF映画の魅力として空想社会の映像や物語上の登場者(あるいは動物など)の物珍しさや、現実にはあり得ない設定や、現時点では実現化されていない想像の技術などの映像化などがあげられる。
本作では脳操作によって記憶を埋め込む技術が採用されているが、仮想記憶を扱う作品の常としてその記憶が真実のものなのか創造されたものなのかというミステリーが描かれることが多いように思う。
この映画でも主人公のクウェードはリコール社を訪れ、そこでトリップ処理の最中に彼自身の記憶が呼び覚まされて、彼は実際に火星に行ったことがあるのではないかということから物語が始まっている。
記憶が作られたものかもしれないので、クウェードのまわりが嘘つきだらけというのが面白い。
クウェードの妻をシャロン・ストーンが演じているのだが、楽しそうに悪女を演じている。
シャロン・ストーンは本作のポール・バーホーベン監督によって1992年に撮られた「氷の微笑」でセクシーでミステリアスな小説家を演じて一躍世界的なセックスシンボルに躍り出たのだが、本作でもその片りんをすでにに見せていて、主人公の恋人であるメリーナのレイチェル・ティコティンよりも魅力的だ。

バイオレンス描写も究極的な描き方で、特に地下鉄構内での銃撃戦では、主人公が見知らぬ人を盾にして弾除けに使っているのだが、本来ならば悪人側がやっても主人公はやらないものである。
エスカレーターの上と下から狙われ、その人を盾にして撃ちまくり、最後には血だらけの犠牲者を投げつけて逃亡を図るのだが、残酷描写に目が釘付けとなり主人公の取る行動の善悪を判断する暇などなかった。
未来社会の描き方も先端技術が盛り込まれたものというよりも、ノスタルジーを感じさせる未来社会の描き方で、美術はそれを意識したものとなっている。
アーノルド・シュワルツェネッガーは「ターミネーター」のイメージが強いのか、このような未来社会の人物を演じた方が様になっている。
主人公のクエイドは殺害されずに見張られていたということなのだが、なぜ殺害されずに妻のローリなどによって見張られていたのかの理由が後半になって明らかになるが、その理由はもう少し早く明らかにされても良かったように思う。
火星はコーヘイゲン長官によって支配されているのだが、それに反抗する反乱軍がゲリラ戦を展開している。
コーヘイゲンは反乱分子のリーダーを抹殺しようとしているがその所在が分からない。
ラスト近くでそのリーダーが姿を現すが、まるで「スターウォーズ」で見たような登場の仕方である。
火星における欲望の対象は金と自由と空気だと言うが、それでは水はどうしていたのだろう。
水を支配することで社会に君臨している悪徳指導者を描いたSFもあったような気がする。
砂漠のような火星で空気と同様に水も入手困難なものに思えるのだが、それは出てこないし描く必要もなかったのだろう。
クエイドとメリーナは捕らえられて記憶の埋め込みを行われそうになるが、どうしてすぐに殺されなかったのだろう。
自分たちに都合の良い記憶を埋め込んで生かしておくメリットがどこにあったのだろうとの疑問が湧いた。
結局は殺害を命じているのだから、理解に苦しむ対処であった。
ホログラムを使った面白い銃撃戦があり、エイリアンが残していった装置を使って空気を誕生させるシーンには、太古の地球における酸素の誕生を髣髴させた。
地球における酸素の発生メカニズムはまた違ったものだが、自然の力の偉大さを感じさせる着想だった。