おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

聖の青春

2021-02-27 10:53:04 | 映画
「聖の青春」 2016年


監督 森義隆
出演 松山ケンイチ 東出昌大 染谷将太
   安田顕 柄本時生 明星真由美
   鶴見辰吾 筒井道隆 竹下景子
   リリー・フランキー

ストーリー
村山聖(松山ケンイチ)は幼い頃から腎臓にネフローゼという難病を抱えていた。
漏れることのないたんぱく質が尿中に漏れ出してしまうことで顔や手足のむくみ、血圧の低下などがあり、悪い時には尿が出にくくなり血液が固まり命にかかわることもある。
聖は入退院を繰り返す中で、父から教わった将棋に夢中になる。
やがてプロ棋士を目指すようになり、森信雄(リリー・フランキー)に弟子入り。
15歳の頃から10年間森師匠と同居、師匠に支えられながら将棋に打ち込んでいった。
1994年、七段になった聖は将棋界最高峰のタイトル『名人』を狙い、森師匠のもとを離れ上京しようとする。
家族や仲間は反対する中、将棋にかける聖の情熱を見てきた森師匠は、彼の背中を押す。
将棋会館に行くと関西の村山として有名だったこともあり、遠慮されて橘正一郎(安田顕)と荒崎学(柄本時生)が来るまで誰も話しかけてくれなかった。
東京で荒れた生活をする聖に皆あきれるものの、聖の思いを理解し陰ながら支えていく。
前人未到の七冠を達成した同世代のライバル・羽生善治(東出昌大)を猛烈に意識する一方で憧憬も抱く聖。
橘と荒崎と飲みに行くが、酒癖の悪い聖は羽生に勝てば20勝の価値があるが荒崎に勝っても一勝の価値しかないと言ってのける。
名人位獲得のため一層将棋に没頭し、快進撃を続けていくが、彼の体をガンが蝕んでいた。
それでも医者の制止を聞かず、聖は“打倒、羽生”と“名人獲得”という目標に向かってなりふり構わず将棋を指し続ける。
名人目指して将棋に没頭する聖は順調な成績を収めていくが突然道端で倒れてしまう。


寸評
難病物でもありプロ棋士の世界を描いた内幕物でもある。
僕の将棋はヘボ将棋で弱いのだが駒の動かし方ぐらいは知っている。
最初の永世名人である木村義雄の名前ぐらいは知っているし、同じく永世名人である大山康晴や中原誠の活躍時代はよく知っている。
そういえばこの作品でも三名の揮毫による掛け軸が三本並んで将棋会館での対局シーンで写り込んでいた。
その後に登場した棋士で将棋の世界に詳しくない僕の記憶に残るのは谷川浩司、羽生善治ぐらいなのだが、この作品ではその羽生善治を東出昌大が演じている。
現役のバリバリ棋士でもあり、マスコミへの登場も多い羽生のイメージを出すのに苦労したような気がする。
漫画、酒、麻雀が好きな村山と、それらを全くやらない羽生との会話シーンが面白かった。

村山聖が倒れたり入院するシーンがあるものの、病魔と闘う場面は少なく悲壮感はないので難病物としての迫力には欠けている。
むしろ棋士の世界を描いた内幕物の要素が強く、僕には将棋会館内の描写が新鮮だった。
村山は関西の棋士で、冒頭では大阪の福島にある将棋会館での対局シーンがある。
対局は長時間を要するのだが、その時間経過をよくある時計を映して表現ではなく、朝の環状線の様子、昼の女子高生の下校姿などをスローで切り取り時間経過を感じさせる演出は好感が持てた。
村山は漫画が好きで本屋に立ち寄っているのだが、そこの女性店員との交流に広がりを見せなかった。
女店員は恋愛の対象者としての存在を感じさせるための存在だったのだろうか。
村山は自分の夢は名人になることと恋愛をすることだと言っているのだが、難病を抱え長生きを諦めている村山にとっての叶わぬ夢の象徴だったのかもしれない。

村山は直情的で棘があり人様に好かれるタイプの人間ではないように思えたが、橘や荒崎のモデルとなった仲間に巡り合えてよかったと思う。
特に荒崎のキャラクターは面白い。
じっさい彼のようなキャラクターの人間がプロ棋士の中にいるに違いないと思わせる。
そんな荒崎や師匠の森などが控室で批評しながら見ている中で行われた羽生との対局場面は、静かなものにならざるを得ない将棋の対局シーンながら緊迫感をだしている。
控室の面々は次の一手で村山の勝ちだと皆が思ったところで、村山は悪手を指してしまい負けてしまう。
その前の、後から考えると自分でもどうしてあんな手を指してしまったのかと疑問に思うような指し方をしてしまうことがあるいう会話が伏線となっている一手だ。
村山は棋譜を言いながら死んでいくが、将棋を教えた父親との関係がいいなと思わせた。
特にテイクアウトされた吉野家の牛丼を食べながら自分の葬式の話をする場面は、父親を知らずに育った僕にはうらやましく思えた。
藤井聡太という若き天才棋士が出現して盛り上がっている将棋界なので、作品的にはタイムリーだと思うが何か一つ物足りなさを感じさせたのは残念だ。