「孤狼の血」 2017年 日本
監督 白石和彌
出演 役所広司 松坂桃李 真木よう子 滝藤賢一
音尾琢真 駿河太郎 中村倫也 阿部純子
中村獅童 竹野内豊 石橋蓮司 江口洋介
ストーリー
暴力団対策法成立直前の昭和63年。
広島の地方都市、呉原では地場の暴力団“尾谷組”と、広島の巨大組織“五十子会”をバックに進出してきた新興組織“加古村組”が一触即発の状態で睨み合っていた。
そんな中、呉原東署に赴任してきたエリート新人刑事の日岡秀一(松岡桃李)は、凄腕ながら暴力団との癒着など黒い噂が絶えないマル暴のベテラン刑事・大上章吾(役所広司)の下に配属される。
大上はヤクザの組織にどっぷり入り込み、警察からもヤクザからも一目置かれていて、捜査のためなら旅館に火を放ち、警察署の中で女(MEGUMI)にいかがわしい行為をさせてしまうような男であり、「警察じゃけぇ、何をしてもいいんじゃあ」と決めゼリフを言うような男である。
日岡の赴任早々、加古村組系列のフロント企業の経理担当が失踪する事件が発生。
暴力団絡みの殺人事件と睨んだ大上は、さっそく日岡を引き連れ捜査を開始する。
大上の理解者なのが、クラブ「梨子」のママ・里佳子(真木よう子)なのだが、彼女の店はヤクザがたむろし、彼女自身も若いヤクザを恋人に持っているがゆえ、徐々に抗争に巻き込まれていく。
小さな組・尾谷組を支えるのは若頭・一ノ瀬守孝(江口洋介)で、彼に仕える永川(中村倫也)はクレイジーな鉄砲玉として抗争に身を投じる。
尾谷組に執拗な嫌がらせを続けるのが、加古村組の若頭・野崎康介(竹野内豊)で、彼の配下の構成員・吉田(音尾琢真)は股間に仕込んだ“ごっつい真珠”が自慢で、里佳子を我がものにしようとしている。
大上は非合法な方法で捜査を続けていくが、彼の過去に関するネタを握った新聞記者(中村獅童)が現れ、大上は苦境に立たされ、ついに・・・。
寸評
舞台は広島の呉原市となっているが、それが架空の都市であっても呉市であることは容易に想像がつく。
広島の呉と言えば、我々の年代の者は直ちに「仁義なき戦い」を思い出す。
原作者の柚月裕子さん自身が「仁義なき戦い」へのオマージュを込めて書いたとおしゃっているから、映画も「仁義なき戦い」へのオマージュとなっている。
暴力団同士の抗争を背景にしているが、「孤狼の血」はむしろ警察内部に重心を置いて描いている。
そのまた中心が大上で、彼の捜査方法は無茶苦茶でヤクザから小遣い銭も受け取っている。
その大上とコンビを組んでいながら対極にいるのが若い日岡である。
日岡は正義感にあふれているが、見ているうちに両者ともそれぞれの正義感で動いていることが分かってくる。
日岡の正義感は分かりやすいが、大上は大上なりの正義から行動しているのだ。
殺された男が無人島に埋められていることを突き止めた大上が、島へと向かう舟の上で大勢の刑事たちの中でただ一人手を合わせる姿に彼の中にある正義を垣間見る。
大神が守ろうとしている正義の矛先は一般市民である。
ヤクザ同士で殺し合いをやっているのは構わないが、一般市民に手を出すことは許せないのだ。
組織の中の個人は弱い存在だ。
ヤクザ社会の下っ端たちは組を守るために身代わりとなって刑務所に入らねばならない。
暴力団には警察権力に守られ強い態度でいる大上も、組織によって自分が抹殺されることを恐れている。
大上の属している組織は警察であり、その組織あっての大上なのである。
権力機構である警察組織も腐っていて、幹部たちは自分たちの権威を守るためにでっち上げの発表をする。
腐った組織にいる大上は悪徳刑事の役回りを引き受け弱者を守っているのだが、彼はあくまでもダーティだ。
女たちも大上によってダーティな役割を押し付けられているが、かつてひどい目にあっていた自分を助けてもらった恩義からか嫌々やらされている風でもない微妙さが大山の人格を擁護している。
仲間の刑事たちは、広島から大組織の暴力団が進出してくることが分かると、大上がいないことで打つ手が分からず「大上さんがいないのに・・・」と嘆く。
日岡は里佳子から大上の日記を託されるが、大上はFBIのフーバーと同じ手法で自分を守ろうとしていたことが明らかとなる。
その日記を見て目を覚ました日岡の変身振りは見事である。
僕はロケ地巡りで呉市に行き、日岡と里佳子が歩いた黄ビル前の楓橋を訪ねてみた。
里佳子が吉田とやり取りする喫茶店「ブラジル」も訪問し、ママさんから撮影時の話も聞かせて頂いた。
それぞれのシーンが思い出されて感慨も深くでロケ地巡りもいいものだと思った。
日岡を引き立てるための大上を演じた役所広司は年齢を感じさせない迫力で「さすが!」と唸らされる。
白石和彌のバイオレンス描写もスゴイ。
男の自慢する真珠を取り出す場面などは、ここまでやるかというシーンになっている。
石橋蓮司の親分が発する「びっくり、どっきり、○○トリス」なんてよく思いついたもので、笑ってしまう。
懐かしい東映実録路線が帰ってきたという感じで、嬉しくなってしまう作品だ。
監督 白石和彌
出演 役所広司 松坂桃李 真木よう子 滝藤賢一
音尾琢真 駿河太郎 中村倫也 阿部純子
中村獅童 竹野内豊 石橋蓮司 江口洋介
ストーリー
暴力団対策法成立直前の昭和63年。
広島の地方都市、呉原では地場の暴力団“尾谷組”と、広島の巨大組織“五十子会”をバックに進出してきた新興組織“加古村組”が一触即発の状態で睨み合っていた。
そんな中、呉原東署に赴任してきたエリート新人刑事の日岡秀一(松岡桃李)は、凄腕ながら暴力団との癒着など黒い噂が絶えないマル暴のベテラン刑事・大上章吾(役所広司)の下に配属される。
大上はヤクザの組織にどっぷり入り込み、警察からもヤクザからも一目置かれていて、捜査のためなら旅館に火を放ち、警察署の中で女(MEGUMI)にいかがわしい行為をさせてしまうような男であり、「警察じゃけぇ、何をしてもいいんじゃあ」と決めゼリフを言うような男である。
日岡の赴任早々、加古村組系列のフロント企業の経理担当が失踪する事件が発生。
暴力団絡みの殺人事件と睨んだ大上は、さっそく日岡を引き連れ捜査を開始する。
大上の理解者なのが、クラブ「梨子」のママ・里佳子(真木よう子)なのだが、彼女の店はヤクザがたむろし、彼女自身も若いヤクザを恋人に持っているがゆえ、徐々に抗争に巻き込まれていく。
小さな組・尾谷組を支えるのは若頭・一ノ瀬守孝(江口洋介)で、彼に仕える永川(中村倫也)はクレイジーな鉄砲玉として抗争に身を投じる。
尾谷組に執拗な嫌がらせを続けるのが、加古村組の若頭・野崎康介(竹野内豊)で、彼の配下の構成員・吉田(音尾琢真)は股間に仕込んだ“ごっつい真珠”が自慢で、里佳子を我がものにしようとしている。
大上は非合法な方法で捜査を続けていくが、彼の過去に関するネタを握った新聞記者(中村獅童)が現れ、大上は苦境に立たされ、ついに・・・。
寸評
舞台は広島の呉原市となっているが、それが架空の都市であっても呉市であることは容易に想像がつく。
広島の呉と言えば、我々の年代の者は直ちに「仁義なき戦い」を思い出す。
原作者の柚月裕子さん自身が「仁義なき戦い」へのオマージュを込めて書いたとおしゃっているから、映画も「仁義なき戦い」へのオマージュとなっている。
暴力団同士の抗争を背景にしているが、「孤狼の血」はむしろ警察内部に重心を置いて描いている。
そのまた中心が大上で、彼の捜査方法は無茶苦茶でヤクザから小遣い銭も受け取っている。
その大上とコンビを組んでいながら対極にいるのが若い日岡である。
日岡は正義感にあふれているが、見ているうちに両者ともそれぞれの正義感で動いていることが分かってくる。
日岡の正義感は分かりやすいが、大上は大上なりの正義から行動しているのだ。
殺された男が無人島に埋められていることを突き止めた大上が、島へと向かう舟の上で大勢の刑事たちの中でただ一人手を合わせる姿に彼の中にある正義を垣間見る。
大神が守ろうとしている正義の矛先は一般市民である。
ヤクザ同士で殺し合いをやっているのは構わないが、一般市民に手を出すことは許せないのだ。
組織の中の個人は弱い存在だ。
ヤクザ社会の下っ端たちは組を守るために身代わりとなって刑務所に入らねばならない。
暴力団には警察権力に守られ強い態度でいる大上も、組織によって自分が抹殺されることを恐れている。
大上の属している組織は警察であり、その組織あっての大上なのである。
権力機構である警察組織も腐っていて、幹部たちは自分たちの権威を守るためにでっち上げの発表をする。
腐った組織にいる大上は悪徳刑事の役回りを引き受け弱者を守っているのだが、彼はあくまでもダーティだ。
女たちも大上によってダーティな役割を押し付けられているが、かつてひどい目にあっていた自分を助けてもらった恩義からか嫌々やらされている風でもない微妙さが大山の人格を擁護している。
仲間の刑事たちは、広島から大組織の暴力団が進出してくることが分かると、大上がいないことで打つ手が分からず「大上さんがいないのに・・・」と嘆く。
日岡は里佳子から大上の日記を託されるが、大上はFBIのフーバーと同じ手法で自分を守ろうとしていたことが明らかとなる。
その日記を見て目を覚ました日岡の変身振りは見事である。
僕はロケ地巡りで呉市に行き、日岡と里佳子が歩いた黄ビル前の楓橋を訪ねてみた。
里佳子が吉田とやり取りする喫茶店「ブラジル」も訪問し、ママさんから撮影時の話も聞かせて頂いた。
それぞれのシーンが思い出されて感慨も深くでロケ地巡りもいいものだと思った。
日岡を引き立てるための大上を演じた役所広司は年齢を感じさせない迫力で「さすが!」と唸らされる。
白石和彌のバイオレンス描写もスゴイ。
男の自慢する真珠を取り出す場面などは、ここまでやるかというシーンになっている。
石橋蓮司の親分が発する「びっくり、どっきり、○○トリス」なんてよく思いついたもので、笑ってしまう。
懐かしい東映実録路線が帰ってきたという感じで、嬉しくなってしまう作品だ。