おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幸福

2021-02-12 07:01:52 | 映画
「幸福」 1981年 日本


監督 市川崑
出演 水谷豊 永島敏行 谷啓 中原理恵
   永井英理 黒田留以 市原悦子 浜村純
   草笛光子 加藤武 常田富士男 河合信芳
   小林昭二 三條美紀 川上麻衣子

ストーリー
社会福祉員を目指す大学生の中井庭子(中原理恵)は、恋人の刑事、北(永島敏行)に1時間ほど遅れると電話していた。
午後、書店で射殺事件が起こり、野呂(谷啓)、村上(水谷豊)、北の三人の刑事が現場に向った。
そして、三人の被害者の中に、何と庭子がいた。
庭子は父親(浜村純)と二人暮らしだったが、父親は離婚後、幼い庭子を男手一つで育て上げもう愛していた。
あとの二人は大学教授の雨宮、サラリーマンの遠藤という名が判明。
手がかりは、遠藤が死の間際に“ウドウヤ”と言ったことだけだった。
三人の被害者の身辺捜査が始まり、福祉センターで、身寄りがないという嘘がばれてヘルパーが行かなくなっている車崎るい(市原悦子)のところに庭子が出向いていたことが分った。
るいには非行グループの兄貴株の吾一(倉崎青児)と、少し頭の弱いみどり(川上麻衣子)という二人の子供がいたのだが、吾一が不憫でならない妹を思わず抱いてしまったことで、みどりは吾一の子を身ごもっていた。
数日後、近所の川の土手でみどりの死体が発見された。
みどりは、やむを得ず庭子の手配で堕胎するも、手術の経過が悪く、庭子の用意した宿泊施設に行けず、荒川の土手で死亡していたのだ。
車崎家のアパートを訪れた村上刑事に対して吾一が暴力を働いた傷害事件も、吾一が母親が連行されるからと勘違いしたことが判明し、当初、警察はみどりの死亡事件と今回の銃撃殺人事件の関連性を疑っていたが、車崎一家は射殺事件に関係ないとなり、捜査はふりだしに戻った。
北は庭子の父親から別れた妻の良子(草笛光子)の居場所など知らないと言われるが、父親は良子を呼び出して「庭子を殺したのはあの男に違いない」と告げる。


寸評
まず目に付くのがくすんだように見えるカラー処理である。
市川崑はモノクロでの撮影を望んだようだが、製作会社から反対されたために特殊現像処理を施して撮り上げたようで、独特の雰囲気を出している。
特に雨のシーンは風情があって、しっくりくるなあと感じた。
始まってすぐに書店で三人が射殺された事件が起きる。
映画はその被害者である3人の関係者から犯人の手がかりをつかもうとする捜査状況と、捜査員の一人で妻に家出されて二人の子供を抱えて苦労している村上刑事の姿を並行して描いていく。
その中に事件直前の出来事が小気味よく挿入されてサスペンス性を高めている。
村上一家と同様に、被害者家族も問題を抱えていたことが判明して、それぞれに新たな問題提起がなされる展開も小気味よい。

庭子の父親の中井は幼い庭子がいたにもかかわらず離婚して、以来、庭子を男て一つで育て上げ、女も一人で生きていける力をつけるべきだと言っている人物である。
それを理由に庭子の結婚話には乗り気でないのだが、実際は庭子を手放したくないのである。
理由に挙げる行動を妻が取ろうとしたことが離婚の原因だから、言っていることとやっていることが違う典型的な言行不一致の人物で、最後の方で北に要求する内容などは通常の神経ではない。
しかし、そうは言いながらも娘を突然失くした悲しみは分らぬでもない。
一方で北が指摘するように庭子がいなくなると自分が不自由になるからという打算的理由も感じさせるのがよい。
別れた妻と会って「あの男が犯人ではないか」と問い詰める当たりはミステリアスだが、推理劇としてはもう少しドラマチックに演出できたように思う。

庭子が福祉センターのアルバイトを通じて面倒を見ていたと言う車崎るいの一家は一番ひどい。
非常に貧しい家庭で、兄の吾一は非行グループのリーダーで、妹のみどりは少し頭が弱い。
るいは病気を装っているいい加減な女だし、庭子も絡んで、みどりに起きた事は悲惨この上ない。
殺された遠藤の妻は夫が転勤後に仕事で悩んでいて転職を考えているなんてことは知らない。
夫の悩みに妻は気が付かないし、夫は妻の気持ちに気が付かないのも夫婦なのだろう。
大学教授の雨宮の家庭は5人の子供を抱え、残された妻にはもうすぐ6人目が生まれる。
妻は途方に暮れ、泣き崩れるのみだ。

事件は被害者の遺品から急展開するが、被害者の遺品なんて捜査の進行上で真っ先にチェックされるものではないのかと思うので、突然被害者の遺品で容疑者が特定されるのには違和感を感じた。
したがって、犯人逮捕に至るまでの描き方は端折り過ぎの感がある。
もっとも市川崑の狙いはサスペンスよりも、家族の幸せとは何なのかにあるのだろう。
村上の家庭は大変な状況だが不幸せではないし、多分妻は戻ってくることになるのだろう。
女は本当のことを言わないと語る場面が何度かあったが、それでも男は女の気持ちを思わねばならない。
それが家庭円満の秘訣なのだと再確認した。