おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ケンタとジュンとカヨちゃんの国

2021-02-04 08:06:32 | 映画
「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」 2009年 日本


監督 大森立嗣
出演 松田翔太 高良健吾 安藤サクラ
   宮崎将 柄本佑 洞口依子
   多部未華子 美保純 山本政志
   新井浩文 小林薫 柄本明

ストーリー
同じ児童養護施設で兄弟のように育ったケンタ(松田翔太)とジュン(高良健吾)。
2人は、工事現場で壁の破壊を行う“ハツリ”と呼ばれる仕事をして暮らしていた。
だが、職場は低賃金、劣悪な労働環境に加え、先輩の裕也(新井浩文)からの執拗ないじめに遭い、快適さからは程遠い場所だった。
ある日、カヨちゃん(安藤サクラ)という女の子と知り合ったジュンは彼女の家に転がり込む。
一方、ケンタは毎月、裕也に金を払い続けていた。
ケンタが13歳のとき、兄のカズ(宮崎将)が幼女誘拐事件を起こした。
それを馬鹿にした裕也は、カズにナイフで切りつけられ負傷。
その賠償金と称して、裕也はケンタから金を巻き上げていたのだ。
そんなある夜、ケンタとジュンはハンマーを手にして裕也の車を破壊すると、カヨちゃんを連れて逃走し、カズのいる網走刑務所を目指して車を走らせる。
ケンタは、行き詰った毎日にカズが風穴を開けてくれるに違いないと期待していた。
道中、闘犬を飼う男(小林薫)、同じ施設で育った片目の洋輔(柄本佑)、キャバ嬢のゆみかちゃん(多部未華子)など、様々な人々との出会いを繰り返すうちに、ケンタとジュンの間には少しずつズレが生じてくる。
やがてたどり着いた刑務所で、ケンタは期待を胸に兄と面会したが、カズは味気ない返事を返すばかり。
その様子に失望した3人は当てもなくバイクを走らせる。
やがて、希望を失ったケンタは暴走を始める。
拳銃を手にして追ってきた裕也に立ち向かうと、夜にはキャンプファイヤー中の若者たちに襲い掛かる。
野獣のようなケンタを、裕也から奪った拳銃を手に制止するジュン。
だが、ケンタの挑発に思わず引き金を引いてしまう。
夜明け。血まみれでグッタリするケンタの肩を抱いて歩くジュンは・・・。


寸評
重くて暗くて、感動も爽快感もなく感情移入もできないのだが、閉塞感を突き破り何か新しい道を開きたいという彼らと同じ願望は共有できるという作品だ。
僕は歳をとってしまって、今更新しい道をとは思っていないのだが、端っこに追いやられたような気分を持っている人間はいるだろうから、彼等の心情を察するにはいい教材となる映画だ。
閉塞感は若者にだけあるわけではない。
社会人だって会社組織の中で感じている者は少なからずいるはずだ。
期待をされていないことを感じながらも、生活の糧を得るためと家族の信頼の重圧に耐えている社員と言われれば思い当たる人間がいるのではないか。

ケンタの兄のカズは幼児誘拐事件を起こし、ロリコンとからかった裕也に切りつけ、カッターナイフで体に幾筋もの切り傷を残した。
今はそのことで網走刑務所にいるが、その賠償金としてケンタは裕也に毎月金を巻き上げられイジメられている。
同じ施設出身のジュンはイジメられているケンタを助けることが出来ず、高圧的な裕也に従うしかない。
仕事場から解放された彼等は仲良がよい。
二人でナンパなんかを繰り返すが、そこで知り合ったのはブスで馬鹿で腋臭のカヨだ。
カヨは自分がブスであることを認知していて、誰とでもセックスする投げやりな生き方をしている。
三人とも内心では現状を打破したいと思っているのだがどうすることもできない。
何処にも行き場がないから、そこにいると言った感じなのだ。
その事は昔の仲間である洋輔が務めている障害者施設を訪ねた時に語られる。
障害を持つ人々と触れ合う場面では、社会的に弱い立場にあるところに共感するのか、この時の2人は実に生き生きとしていて明るい。
なのに、「こいつらどこにも行き場がないんだよなぁ」という言葉に暗澹とした気分になってしまうのだ。
彼らが施設を去るときに洋輔の母(洞口依子)とすれ違い、挨拶をする彼等を無視して通り過ぎた母親を散々ののしる。
そして「アンタよりずっと洋輔のことが好きだからな!」という言葉を投げつけて去っていく。
無表情だった母親がこの時少しだけ微笑む。
これは息子の洋輔にもそんな友人がいたことへの喜びだったのだろうか?

ロードムービーとして、盗んだ銅線を買い取ってくれた男と出会ったり、旧友の洋輔と再会したりするのだが、それが現状打破につながるような出来事としては描かれていない。
物語が静かすぎる。
その為なのか、最後の衝撃的な出来事も、出来事の割にはインパクトがない。
これは好みの問題かもしれない。
僕としてはもう少しメリハリが欲しかった。
彼らが入っていった海の向こうには、彼等の知らない世界があったのだろうか?
最後に映し出されるカヨの美しい表情がそれを想像させる。