おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

競輪上人行状記

2021-02-01 10:27:26 | 映画
「競輪上人行状記」 1963年 日本


監督 西村昭五郎
出演 小沢昭一 伊藤アイコ 南田洋子
   高原駿雄 高橋昌也 加藤嘉
   加藤武 渡辺美佐子

ストーリー
宝寺院の住職伴玄道(河合健二)の死は、妻みの子(南田洋子)を悲しませたばかりか、坊主が嫌いで寺を飛び出して教師をする次男の春道(小沢昭一)を悲嘆の底に落した。
それはこの寺を父親の玄海(加藤嘉)からまかせられたばかりか、兄嫁みの子をも背負はされる事実に直面したからだ。
新興宗教に押されて不景気なこの寺、犬の葬式を引受けては、犬寺とあだ名されるみの子の生き方に反撥を感じながら、本堂再建の資金をかせぐには、どうする事も出来ぬ現実に直面していた。
資金集めに奔走したある日、松戸競輪で車券を一枚買ったのが、運よく大穴となり、“現ナマをつかむこつは、ここにあり"と由来競輪のとりこになった。
もともと少しのお布施をもらう坊主にはあきたらなかった春道だが、競輪づいてからは寺には寄りつかず、大金を使い果した。
父親の玄海の出した教師の退職願いが受理されたと聞いて、激怒した春道は、本堂再建費としてためていた百万円余りを使い果して、寺の犠牲になるのは御免とばかり、飛び出していった。
しかし、父の突然の死は春道に坊主になる決意を固めさした。
頭をまるめて京都大本山に行った春道は修業の末、下山し寺の再建に精を出した。
そこへ、かつての教え子サチ子(伊藤アイ子)が春道を頼って訪れた。
貧しく、義父との間にいざこざが絶えないサチ子を、春道は寺にひきとった。
まもなく春道はみの子に結婚を申し込んだが、みの子の口から父玄海と関係があったと知らされ、ヤケになった春道は、再び競輪にこり始めた。
競輪で本堂再建資金を作った春道は、寺をみの子にまかせ、サチ子を連れて青森にむけて発った。
五年後とある競輪場で予想屋春道の弁舌がひときわさわやかに響き渡っていた。


寸評
小沢昭一は名バイプレーヤーだったと思うが、このような役をやらせると抜群だった。
主演作としてこの作品でも光っているが、後年に本作の脚本に参加している今村昌平で撮った『「エロ事師たち」より 人類学入門 』でも素晴らしい演技を見せ、主演作品がもっとあっても良かった俳優だったと思う。
小沢演じる春道はたまたま行った競輪で大穴を当てる。
いわゆるビギナーズ・ラックというやつで、ギャンブルをやったことのある者なら経験があるのではないかと思う。
初めての時は何も考えずに買うから案外と当たるのだが、一度味を占めると欲が絡んできて配当金などを考え出すから負けが込んでいく。
僕も競馬を始めたころはそんなことがあって、春道ならずとも競馬って小遣い稼ぎになるんだなと思ってしまった。
その後の結果は言わずもがなである。
はなから25%の上前をはねられて掛け金を分け合っているのだから勝つわけがない。
この作品でも春道が競輪にはまっていき借金で身動きが取れなくなる。
この映画を見て春道のことを笑えない人間は大勢いるだろう。
僕の身内にもギャンブルに手を出し、それが元でヤクザにからまれ財産をなくした者がいる。
僕はそうなってしまう自分の性格を恐れ、会社で経理に配属された時にギャンブルから足を洗った。

西村昭五郎は僕の学生時代に登場した日活ロマンポルノの監督と言うイメージなのだが、デビュー作である本作が彼の最高傑作ではないかと思う。
宗教法人を皮肉っているわけではないし、ギャンブルを呪っているわけでもなく、必死に生きる庶民の姿を追い続けているスタイルがなかなかいい。
死んだ兄の妻であるみの子も父親の玄海も寺の存続が一番の人間で、その為には何でもやると言う人物である。
みの子はそのためには内職もやるし、犬の葬式を行いその肉を売ることを何とも思っていない。
彼女によれば「衛生的に処理している」ということなのだが、春道は衛生の問題ではなく道徳の問題だと説くのだが、その春道もどこに道徳観があるのかという人物である。
玄海は寺の後継者を得るために、子供を宿せない長男に代わりみの子と関係を持ち子供を産ませている。
玄海もみの子も寺の存続しか頭にないのである。
もしかすると死んだ長男も同じ気持ちでいたのかもしれない。
サチ子は義父に犯されて身ごもったが、春道のもとでけなげに生きている。
初井言栄のシマという老婆は出来の悪い息子の為に金を残し、サチ子を嫁にもらいたいと思っている。
それぞれがそれぞれの立場で必死に生きているのだ。

春道は最後の大勝負を掛けるのだが、ここで出会った渡辺美佐子とのエピソードは凄みがある。
彼らが買った車券が何だったのかが分からない描き方もいい。
渡邊美佐子と行ったホテルで春道がコップを落とすシーンはいいし、そこからの展開が素晴らしい。
何よりも法衣をまとって予想屋をやる春道の姿は、彼の生きていくことへのバイタリティを示すものとして秀逸で、その口上には聞きほれてしまうものがある。
素晴らしいエンディングとなっている。