「恋人たち」 2015年 日本
監督 橋口亮輔
出演 篠原篤 成嶋瞳子 池田良 安藤玉恵
黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡
リリー・フランキー 木野花 光石研
ストーリー
都心に張り巡らされた高速道路の下。
橋梁のコンクリートに耳をぴたりと付けた篠塚アツシ(篠原篤)が、ハンマーでコンクリートをノックする。
機械よりも正確な聴力を持つ彼の仕事は、音の響きで破損場所を探し当てる橋梁点検。
しかし、彼は数年前に愛する妻を通り魔殺人事件で失い、今では健康保険料も支払えないほど貧しい生活を送っていた。
妻を殺した犯人を極刑にすることだけを生きがいにして裁判のために奔走するアツシだが、親身になってくれる弁護士はいない。
次第に社会そのものに恨みを抱くようになった彼はある日、破滅的な行動を起こしてしまう……。
東京近郊では高橋瞳子(成嶋瞳子)が自分に関心を持たない夫・信二郎(高橋信二朗)と、そりが合わない姑・敬子(木野花)と3人で暮らし退屈な毎日を送っていた。
同じ弁当屋に勤めるパート仲間と共に皇室の追っかけをすることと、小説や漫画を描いたりすることだけが楽しみな平凡な日々。
だがある日、パート先で知り合った取引先の男・藤田弘(光石研)とひょんなことから親しくなり、次第に瞳子は藤田に惹かれていく。
やがて養鶏場の経営を夢見る藤田に誘われた瞳子は家を出る決意をするが……。
企業を対象とした弁護士事務所に務める四ノ宮(池田良)は、エリートである自分が他者より優れていることに疑いを持たない完璧主義者。
高級マンションで同性の恋人・中山(中山求一郎)と一緒に暮らしているが、実は学生時代からの親友・聡(山中聡)を秘かに想い続けていた。
そんな中、些細な出来事がきっかけで四ノ宮と聡の間に微妙な亀裂が生じ始める……。
そんな不器用ながらも懸命に日々を生きている3人だったのだが…。
寸評
主人公の三人はもがきながらも生きている。
その三人がわずかに係わり合いながら物語が進行していく。
アツシは自分と共に歩いていこうとしてくれた妻を通り魔に殺されてしまった。
しかし犯人は精神異常で判断能力がなかったと罪に問われていない。
犯人の親に誤ってもらっても、自分を励ましてくれた妻は戻ってこない。
平凡な主婦の瞳子は満たされない日々を過ごしている。
狭い家に姑を含めた三人で暮らしているが夫との会話は少ない。
パート先で知り合った男からもらった鶏肉のことで暴力も振るわれたりしている。
四ノ宮はゲイだが、そことで親友だった聡の妻から敬遠され親友とも疎遠になってしまう。
三人を通して、今の日本を覆う矛盾に満ちた空気、世の中に存在する嫌な言動や偏見を気をてらうことなくリアルに細部まで見せていく。
主人公たちは今の自分とは違うが、間違いなく自分たちと同じ今を生きているという真実味がある。
アツシは悲しみから抜け出せず裁判に奔走するが、困窮も手伝って日に日に追い詰められていく。
犯人は罪に問われず、世の中が残された遺族を運が悪かった程度で置き去りにしていく矛盾は、異常者の通り魔殺人事件が起きるたびに感じることだ。
犯人を殺してやりたいと思うができない。
裁判に訴えて裁いてやろうとしても、弁護士からは無理だと言い放たれる。
じゃあ、一体どうすればいいんだともがき苦しむ。
瞳子は諦めたような生活を送っているが、ある日恋に落ちる。
相手の男は怪しいと思っていながらも、気持ちには逆らえずその男の元へ走ろうとするが、その夢も無残に打ち砕かれる。
自分は平凡に誰からも注目されずに生きることしかできないのかと悩む。
四ノ宮は特別なことを何もしないで、ごく普通に付き合ってきた親友から拒絶されるようになる。
親友の聡は四ノ宮がゲイであることを受け入れているが、どうもそれを知った聡の妻がゲイを嫌っているようなのだ。
子供の耳を触って「お父さんの耳と似てるね」と言っただけで嫌悪感をあらわにする。
四ノ宮はなぜ聡が遠ざかって行くのかが分からない。
自分は一体何をしたのだと叫ぶ。
彼らが置かれている状況は、アツシがやっている仕事そのものだ。
表面上は何ともないように見える橋梁が、実は内部に異常をきたしている危険なものだということである。
アツシはそんな橋梁が数多くある川を船に乗って現場に通う。
彼等を取り巻いている危険な雰囲気の中で、彼らは必死に生きている
そんな彼らの姿を普通に描き続けるから重い、暗い。
見ているこちら側としては、その救いようのない姿に気持ちが沈んで行ってしまう。
そんな気持ちを振り払うように、最後には希望に満ちた未来を見せる映画は多いが、市井の人々の哀しみを描いてきただけにその光はわずかなものである。
アツシの同僚は身体障害者でハンデを背負っているが、「殺しちゃいけないよ、こうして話が出来なくなってしまうじゃないか」と諭す。
瞳子、四ノ宮が感じる光明もわずかなものである。
映画は彼等を覆っていた皮を一枚剥いで、その下に隠れていたわずかな優しい部分をあぶりだしていた。
こんな日本でどう生きていけばいいのかと問いながらも、だけどわずかなことに喜びを感じて生きていくしかないじゃないかと語りかけてきた。
つらい現実を描きながらも、優しく見守る橋口監督らしい作品だった。
監督 橋口亮輔
出演 篠原篤 成嶋瞳子 池田良 安藤玉恵
黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡
リリー・フランキー 木野花 光石研
ストーリー
都心に張り巡らされた高速道路の下。
橋梁のコンクリートに耳をぴたりと付けた篠塚アツシ(篠原篤)が、ハンマーでコンクリートをノックする。
機械よりも正確な聴力を持つ彼の仕事は、音の響きで破損場所を探し当てる橋梁点検。
しかし、彼は数年前に愛する妻を通り魔殺人事件で失い、今では健康保険料も支払えないほど貧しい生活を送っていた。
妻を殺した犯人を極刑にすることだけを生きがいにして裁判のために奔走するアツシだが、親身になってくれる弁護士はいない。
次第に社会そのものに恨みを抱くようになった彼はある日、破滅的な行動を起こしてしまう……。
東京近郊では高橋瞳子(成嶋瞳子)が自分に関心を持たない夫・信二郎(高橋信二朗)と、そりが合わない姑・敬子(木野花)と3人で暮らし退屈な毎日を送っていた。
同じ弁当屋に勤めるパート仲間と共に皇室の追っかけをすることと、小説や漫画を描いたりすることだけが楽しみな平凡な日々。
だがある日、パート先で知り合った取引先の男・藤田弘(光石研)とひょんなことから親しくなり、次第に瞳子は藤田に惹かれていく。
やがて養鶏場の経営を夢見る藤田に誘われた瞳子は家を出る決意をするが……。
企業を対象とした弁護士事務所に務める四ノ宮(池田良)は、エリートである自分が他者より優れていることに疑いを持たない完璧主義者。
高級マンションで同性の恋人・中山(中山求一郎)と一緒に暮らしているが、実は学生時代からの親友・聡(山中聡)を秘かに想い続けていた。
そんな中、些細な出来事がきっかけで四ノ宮と聡の間に微妙な亀裂が生じ始める……。
そんな不器用ながらも懸命に日々を生きている3人だったのだが…。
寸評
主人公の三人はもがきながらも生きている。
その三人がわずかに係わり合いながら物語が進行していく。
アツシは自分と共に歩いていこうとしてくれた妻を通り魔に殺されてしまった。
しかし犯人は精神異常で判断能力がなかったと罪に問われていない。
犯人の親に誤ってもらっても、自分を励ましてくれた妻は戻ってこない。
平凡な主婦の瞳子は満たされない日々を過ごしている。
狭い家に姑を含めた三人で暮らしているが夫との会話は少ない。
パート先で知り合った男からもらった鶏肉のことで暴力も振るわれたりしている。
四ノ宮はゲイだが、そことで親友だった聡の妻から敬遠され親友とも疎遠になってしまう。
三人を通して、今の日本を覆う矛盾に満ちた空気、世の中に存在する嫌な言動や偏見を気をてらうことなくリアルに細部まで見せていく。
主人公たちは今の自分とは違うが、間違いなく自分たちと同じ今を生きているという真実味がある。
アツシは悲しみから抜け出せず裁判に奔走するが、困窮も手伝って日に日に追い詰められていく。
犯人は罪に問われず、世の中が残された遺族を運が悪かった程度で置き去りにしていく矛盾は、異常者の通り魔殺人事件が起きるたびに感じることだ。
犯人を殺してやりたいと思うができない。
裁判に訴えて裁いてやろうとしても、弁護士からは無理だと言い放たれる。
じゃあ、一体どうすればいいんだともがき苦しむ。
瞳子は諦めたような生活を送っているが、ある日恋に落ちる。
相手の男は怪しいと思っていながらも、気持ちには逆らえずその男の元へ走ろうとするが、その夢も無残に打ち砕かれる。
自分は平凡に誰からも注目されずに生きることしかできないのかと悩む。
四ノ宮は特別なことを何もしないで、ごく普通に付き合ってきた親友から拒絶されるようになる。
親友の聡は四ノ宮がゲイであることを受け入れているが、どうもそれを知った聡の妻がゲイを嫌っているようなのだ。
子供の耳を触って「お父さんの耳と似てるね」と言っただけで嫌悪感をあらわにする。
四ノ宮はなぜ聡が遠ざかって行くのかが分からない。
自分は一体何をしたのだと叫ぶ。
彼らが置かれている状況は、アツシがやっている仕事そのものだ。
表面上は何ともないように見える橋梁が、実は内部に異常をきたしている危険なものだということである。
アツシはそんな橋梁が数多くある川を船に乗って現場に通う。
彼等を取り巻いている危険な雰囲気の中で、彼らは必死に生きている
そんな彼らの姿を普通に描き続けるから重い、暗い。
見ているこちら側としては、その救いようのない姿に気持ちが沈んで行ってしまう。
そんな気持ちを振り払うように、最後には希望に満ちた未来を見せる映画は多いが、市井の人々の哀しみを描いてきただけにその光はわずかなものである。
アツシの同僚は身体障害者でハンデを背負っているが、「殺しちゃいけないよ、こうして話が出来なくなってしまうじゃないか」と諭す。
瞳子、四ノ宮が感じる光明もわずかなものである。
映画は彼等を覆っていた皮を一枚剥いで、その下に隠れていたわずかな優しい部分をあぶりだしていた。
こんな日本でどう生きていけばいいのかと問いながらも、だけどわずかなことに喜びを感じて生きていくしかないじゃないかと語りかけてきた。
つらい現実を描きながらも、優しく見守る橋口監督らしい作品だった。