おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

恋するトマト

2021-02-07 10:15:37 | 映画
「恋するトマト」 2005年 日本


監督 南部英夫
出演 大地康雄 アリス・ティクソン
   富田靖子 村田雄浩 ルビー・モレノ
   織本順吉 いまむらいづみ でんでん
   阿知波悟美 あき竹城 石井光三
   アレックス・アルジェンテ
   清水紘治 藤岡弘

ストーリー
野田正男は中年になっても結婚出来ずに老いた両親と共に農作業に勤しむ。
周りの農家仲間も同様に嫁のもらい手は無く、苦渋の選択ながら農業に見切りをつけて土地を売り払ってしまう等深刻な後継者不足に喘いでいる。
そんな中、田舎暮らしに憧れる女性と婚約寸前まで漕ぎ着けるも御破算となってしまい、落ち込む正男を農家仲間がフィリピンパブへ誘い、そこに働くホステスと遂に婚約する事になる。
フィリピンの両親へ挨拶するため正男はフィリピンへ向かい、妻になる女性の家族に挨拶し、結納金を渡すものの一晩開けたら一家は消え去っていた。
妻になる女性を日本へ派遣したタレント事務所を頼りに向かうもののそんな女性は知らないと一蹴される。
失意の正男は行くあても無く放浪し浮浪者となってしまう。
そんなどん底の正男を拾ったのが先のタレント事務所で、真面目な正男を事務所の社長も大変気に入り、車と金を与えて自由な裁量で仕事させていた。
正男は偶然通りかかった水田地帯に故郷を想い、農作業をしている人達を見ているうちに農家の血が騒ぎ手伝う事になり、その農作業の人達の中にホテルのラウンジで働いていたクリスティナと出会う。
正男はクリスティナと親しくなるにつれ徐々に農作業に傾倒してゆく。
正男はタレント事務所を辞め日本に帰ってクリスティナと結婚する事を決心した。
しかし父親は戦前の日本人の粗暴さに恐々として断った。
またしてもどん底に落ちた正男は豪雨の中、日本へ帰るのであったが・・・。


寸評
日本農家の後継者問題、外国人女性労働者問題などの社会問題に加えてラブロマンスが上手い具合に配分されていて、主演の正男を演じている大地康雄の手になる脚本は上手くまとまっている。
農家の後継者問題、特に嫁不足は深刻である。
正男は婚活に積極参加していながら何度も失敗に終わっているが、今回の田舎生活にあこがれている富田靖子とは上手くいきそうな雰囲気である。
ところが最後になって、やはり農業をやっていくには自信がないと断られてしまう。
僕も農業をやったことはないが農家上がりなので農業の大変さは少年の目ながら体感している。
自給自足が出来るものの、気候に左右されるし、体力勝負の重労働が待ち構えている。
土にまみれた仕事は決してきれいな仕事ではない。
もっと楽で収入が得れる仕事は色々あるのだから、何を混んで農家などにと思うのだろう。
正男の婚活は、嫁に来てくれるのなら誰でもいいようなところがある。
ましてや相手が富田靖子なら大万歳だったはずだが、そうは上手くいかない。
富田靖子は田舎に憧れているだけの軽いキャラにぴったりなキャスティングであった。

正男はフィリピン・パブでルビー・モレノと知り合い、結婚の許可を得るためにフィリピンに向かうが、ルビー・モレノの一家は結婚詐欺一家で行方をくらましてしまう。
正男は結婚式の費用と当座の生活資金として父親に200万円を渡すと、父親は「これだけあれば一生暮らしていける」と言っているから、日本との経済格差はそれぐらいあると言うことだろう。
正男が訪ねたルビー・モレノがいると思われる場所はスラム街なのだが、その向こうには首都マニラの高層ビル群が見えている。
僕がシンガポールに行った時にも同じような光景に出会い、貧富の差のひどさと大都会とスラム街が隣り合わせなことに驚いたものだ。
正男は落ちぶれて、芸能人スカウトの仕事をやることになるが、実態は女の子を日本に送り込み水商売やら売春やらをやらせるものである。
アジア系の女性が風俗店で不法就労している実態は珍しくはない。
実際にその為のブローカーは存在しているに違いなく、彼らは正男のような手口で女性を募っているのだろう。
日本にとっては恥ずかしいことだが、フィリピンに於ける売春ツアーやじゃぱゆきさん等の日本・フィリピンが抱える深刻な問題を描いている。
このパートをかなりの時間を割いて描いているのだが、正男の人間性が一番出ているパートでもある。

正男の実家は茨城県の霞ヶ浦近くにあり、フィリピンで同じような景色に出会い故郷を思い出し、フィリピンの農家を手伝うようになる。
そこにはクリスティーナという女性が絡んでいて、正男とのラブロマンスが展開されるのだが、その展開に違和感はなくエンタメ性に富んだものとなっている。
この組み立ては大地康雄の筆の力によるもので、「恋するトマト」は主演俳優としても、企画者、脚本家としても大地康雄の代表作になるだろう。