おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

裏切りのサーカス

2019-01-30 10:02:04 | 映画
「裏切りのサーカス」 2011年 イギリス/フランス/ドイツ


監督 トーマス・アルフレッドソン
出演 ゲイリー・オールドマン コリン・ファース
   トム・ハーディ トビー・ジョーンズ
   マーク・ストロング ベネディクト・カンバーバッチ
   キアラン・ハインズ キャシー・バーク
   デヴィッド・デンシック スティーヴン・グレアム
   ジョン・ハート サイモン・マクバーニー

ストーリー
東西冷戦下、英国情報局秘密情報部MI6とソ連国家保安委員会KGBは熾烈な情報戦を繰り広げていた。
そんな中、英国諜報部<サーカス>のリーダー、コントロール(ジョン・ハート)は、組織幹部の中に長年にわたり潜り込んでいるソ連の二重スパイ<もぐら>の存在の情報を掴む。
ハンガリーの将軍が<もぐら>の名前と引き換えに亡命を要求。
コントロールは独断で、工作員ジム・プリドー(マーク・ストロング)をブダペストに送り込むが、ジムが撃たれて作戦は失敗に終わる。
責任を問われたコントロールは長年の右腕だった老スパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)と共に組織を去ることとなる。
直後にコントロールは謎の死を遂げ、レイコン次官(サイモン・マクバーニー)から引退したスマイリーのもとに<もぐら>を捜し出せという新たな命が下る。
標的は組織幹部である“ティンカー”ことパーシー・アレリン(トビ―・ジョーンズ)、“テイラー”ことビル・ヘイドン(コリン・ファース)、“ソルジャー”ことロイ・ブランド(キアラン・ハインズ)、“プアマン”ことトビー・エスタヘイス(デヴィッド・デンシック)の4人。
過去の記憶を遡り、証言を集め、容疑者を洗いあげていくスマイリー。
浮かび上がるソ連の深部情報ソース<ウィッチクラフト>、そしてかつての宿敵・ソ連のスパイ、カーラの影。
やがてスマイリーが見い出す意外な裏切り者の正体とは……。

寸評
制作国はイギリス、フランス、ドイツなのだが舞台が英国情報局秘密情報部MI6なのでイギリス色が強い。
イギリス発のスパイ映画と言えば007シリーズを思い浮かべてしまい、派手な銃撃戦に、最新鋭の武器、華麗な立ち回りと美女たちがイメージとして浮かんでくる。
だが、実際のスパイというのは、予想はしていたがずいぶんと地味で勤勉な人たちなのだだと思い知らされる。
神経をすり減らす情報戦の中、登場人物の誰もが疲労感たっぷりなのが雰囲気を出していた。
同じイギリス諜報部のドラマでも「007」とは対極にあり、派手なアクションも銃撃戦もないにも関わらず息詰まるようなスリリングなドラマが展開される。
特にスパイ同士の虚々実々の心理戦が、リアルに描かれて見応え十分
キーとなる登場人物は大勢いるので、彼等の相関関係を理解するのに一苦労するのだが、そのこともまた雰囲気作りに一役買っていて最後まで飽きずに観られた。

ハンガリーのブタペストに秘密裏に派遣されたジム・プリドーが、敵の謀略により射殺される冒頭シーンの緊張感などにはしびれてしまう。
ブリドーはカフェのアウトドアテーブルで男と向き合っている。
乳飲み子を抱いた女性がいて静かな雰囲気だが、ウェイターの流した冷や汗がテーブルに滴る。
そのことで観客はブリドーが敵の情報部員に取り囲まれていることを知る。
偶然2階の窓を開けて通りを覗きこんだ老婆がただならぬ表情をしていることで普段とは違うことが暗示される。
ブリドーは危険を察知しその場を去ろうとしたところ、ウェイターが飛び出し発砲第一射で乳飲み子を抱えた女性の頭部に誤射してしまい、その後にブリドーは撃たれ石畳に血が流れだす。
一気に描くこの場面はタイトルバックが出る前の名シーンだ。

主人公スマイリーを演じたゲイリー・オールドマンがすこぶるいい。
スマイリーは冷静な洞察力と静かな行動力で二重スパイを洗い出す内向的な老スパイで、見る者を魅了する。
妻の浮気により別居しているのだが、回想シーンで妻がほかの男と抱き合っているのを目撃し動揺する姿を見せるシーンがくどくないのがいい。
スマイリーのメガネは黒縁だが、回想シーンではべっ甲柄となっていて、過去と現在が入り組んだ映像に僕たちが戸惑わない配慮としている。
コントロールとスマイリーはサーカスを追われるが、その後ろ姿にトビー・エスタヘイスが「バイバイ」とやり、ビル・ヘイドンが「ひどいやつだ」と諌めるのは、”もぐら”の存在を含めサーカス内部のゆがんだ人間関係を暗示していたと思う(エスタヘイスの二重人格は予想通り公判で暴かれる)。

スパイ同士の虚々実々の心理戦がリアルに描かれて見応え十分で、途中でスマイリーに命じられてピーターが資料を盗み出すあたりのスリリングさも特筆ものだ。
後半に進むにつれてスリリングさはさらに加速し、ある事実が明らかになると、また新たな疑惑が浮上し、誰が犯人なのかまったくわからなくなり、凍てつくような映像によって全体を異様な緊迫感が包む。
二重スパイを描いただけにかなり入り組んでいるのだが、雰囲気で押しまくる演出が素晴らしい。