おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

WOOD JOB!~神去なあなあ日常~

2019-01-26 10:44:26 | 映画
「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」 2014年 日本


監督 矢口史靖
出演 染谷将太 長澤まさみ 伊藤英明 優香
   西田尚美 マキタスポーツ 有福正志
   田中要次 近藤芳正 光石研 柄本明

ストーリー
勇気(染谷将太)はチャランポランな性格で毎日能天気な高校生活を送ったばかりに大学受験に失敗。
彼女にもフラれ、進路も決まらないという散々な状態で高校の卒業式を迎える。
そんな時、ふと目にしたパンフレットの表紙で微笑む美女に釣られ、彼女に会いたいがために、勇気は街から逃げ出すように1年間の林業研修プログラムに参加することを決意。
だが、ローカル線を乗り継いで降り立った神去(=かむさり)村は、携帯電話の電波も届かない“超”が付くほどの田舎の村だった。
そこに待っていたのは表紙の美女ではなく、鹿やら蛇やら虫だらけの山、同じ人間とは思えないほど凶暴で野生的な先輩のヨキ(伊藤英明)、命がいくつあっても足りない過酷な林業の現場……。
耐えきれずに逃げ出そうとしていたところ、例の表紙の美女・直紀(長澤まさみ)が村に住んでいることが判明。
留まる事を決意するが……。
休む間もなく訪れる新体験、野趣溢れる田舎暮らし、底なしに魅力的な村人に囲まれ、勇気は少しずつ変化してゆく。
仕事にも環境にも慣れて来た頃、主人公の元カノが所属する大学生サークルが訪ねてくる。
騒がしくチャラチャラしている学生達に勇気は檄を飛ばし、元カノは困惑しつつもその場を後にする。
この頃になると勇気はすっかり林業研修に馴染み始めていた。
村では数十年ぶりに行われる大きな祭りが行われることになった。
果たして、勇気と直紀の恋の行方は?
そして、勇気は無事に生きて帰れるのか!?

寸評
都市生活者にとってはまったくなじみのない林業という職業をディテール豊かに、しかも魅力たっぷりに描いたなかなかの佳作である。
へえそうなのかといったトリビア的な興味を引く細部を描くのではなく、真正面から都会から来た青年と山村の人々の交流を捕らえている。
もちろん矢口監督作品なので、所々に笑いを誘う場面を挿入しているのだが奇をてらったものではない。
林業をほとんどと言っていいぐらい知らない僕たちに、林業の厳しさと神と共にある生活を描きながら、林業は僕たちの生活に密接に関わっているんだと訴えることに成功している。
勇気は研修を終えて自宅に帰ってくるが、建築途中の日本家屋から木の香りを嗅いで山を思い出す場面にそのことが集約されている。
勇気が鼻をクンクンさせた時には僕たちも木の香りを感じるような錯覚に陥る。
この映画には木の香りがする。

日本人は有史以来自然をあがめ山や岩や大木を神としてきた。
林業にたずさわる人々は正にそうしてあがめてきた神と共に生きている。
山に入るときに手を合わせ祈りをささげ、神様が木の数を数える日には人を木と間違えるからと山に入らない。
神と共に生きている人々だと分かる。
神とのかかわりの集大成として48年ぶりの大祭が行われる。
チェーンソーという文明の力を使わず、皆が古来はやっていたであろうように斧で大木を切り倒す。
枝を打ちはらい整えられた巨木は男性のシンボルだ。
山の頂から滑り台の様にしつらえられた木造のスロープを滑り落とされる。
待ち受けるのは藁で編み上げられた女性のシンボルである。
女たちは激突した巨木に駆け寄り子孫繁栄を願う。
僕が訪ねた奈良の飛鳥川には藁で編んだ男女のシンボルが掛けられていた。
そのような子孫繁栄の願いは古来よりどの地方でも祈られていたのだろう。
松明を掲げたふんどし姿の男たちが山の頂を目指す姿は荘厳で感動的だ。

ヨキ役の伊藤英明が野生児キャラクターを好演し、オーバーではあるものの現実感を失わない役作りが絶妙で、山の男を颯爽と演じていた。
ヒロインの長澤は山の男に囲まれて男が乗り移っているような女性である。
過去に林業研修にやって来た男と恋愛関係にあったが、その恋は破綻している。
そのトラウマを抱えているが、やはりヒロインなのでどこかでチャーミングな部分を観客に見せねばならない。
それがあの手ぬぐいだけではちょっと物足りないような気がする。
相手の勇気が高校を卒業したばかりの未成年と言うのも気になった。
当然と言えば当然なのだが、勇気が徐々に山の男に目覚めていく姿に共感するし、手に就いたご飯粒のシーンも神の存在を暗示していい処理だった。
あの人との抱擁シーンに僕はグッときたし、最後のワンショット、余韻を残すための上手いショットだった。