おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

阿修羅のごとく

2019-01-07 20:25:50 | 映画
「阿修羅のごとく」 2003年 日本


監督 森田芳光
出演 大竹しのぶ 黒木瞳 深津絵里 深田恭子
   小林薫 中村獅童 RIKIYA 桃井かおり
   坂東三津五郎 木村佳乃 益岡徹
   長澤まさみ 紺野美沙子 八千草薫 仲代達矢

ストーリー
三女・滝子(深津絵里)の突然の呼びかけで、久し振りに竹沢家の4姉妹が集まった。
70歳を迎える父・恒太郎(仲代達矢)に、愛人と子供がいるというのだ。
母・ふじ(八千草薫)の耳には入れないようにしよう、と約束する姉妹。
この事件を機に、一見平和に見えた女たちがそれぞれに抱える、日常のさまざまな事件が露呈してくる。

未亡人の長女・綱子(大竹しのぶ)は、華道の師匠で生計を立てており、出入りの料亭の妻子ある男性と付き合っているが、その妻に勘付かれてしまう。
次女の巻子(黒木瞳)は、サラリーマンの夫と2人の子供と平凡な家庭を営んでいるが、最近夫の浮気を疑い始め、ノイローゼ気味。
図書館に勤める三女の滝子は、父の愛人の調査を頼んだ内気な青年・勝又(中村獅童)と恋愛感情はあるのだが、その恋はなかなか進展しない。
四女の咲子(深田恭子)は、売れないボクサー陣内(RIKIYA)と同棲中。
新人戦に勝ったあと、家族に紹介し結婚しようと思っている。

母・ふじ だけは、夫の愛人問題も耳に入っていないのか、泰然と日常を過ごしているようだった…。
季節が移り、家族それぞれが急展開を見せることになる・・・。

寸評
阿修羅と言えば僕は真っ先に興福寺の国宝阿修羅像を思い浮かべる。初めて見た時は自分が描いていた印象とは違い案外と小さな仏像で有ることに驚いた。
阿修羅は仏教の守護神ではあるが闘争的であり、帝釈天と闘い敗れた神であり、その戦いの場面から修羅場なる言葉も生まれているといのが僕の認識。
この映画でも最初にその阿修羅像が映し出され、「阿修羅とは表面的には仁義礼智信を揚げるかに見えるものの、内には猜疑心が強く互いに事実を曲げて、いつわって他人の悪口を言い合う、言い争いの象徴とされるインド民間信仰上の神のこと」と表示される。
描かれた内容は主人公達、脇役達を含めて、正にその世界を具現化した現世の出来事だ。
その説明に続いて、四姉妹が演じる一コマに役名と演者タイトルがでるのだが、この扱い方は「さあ映画を見るぞ」という気分にさせてくれてよかった。
タイトル通りここでは女たちの修羅場が演じられるが、一方で家族間のいさかいを描きながらもその実、家族の深い結びつきを描いていた作品だったと思う。

ここに描かれている四姉妹は谷崎の「細雪」とはまた違う四姉妹で、それぞれが違った愛の世界にいる。
未亡人の長女は不倫相手とのただならぬ仲にいる。
それが、ウナギの出前をとった時にバレてしまうのだが、いやはや滑稽に描かれ包括絶倒だ。
次女は一見平和相でありながらも夫に対する猜疑心を抱いている。
それを確信する時の、薄笑いを浮かべながらのつぶやきと、その後の時間をかけない処理は心情を想像させるに十分なのだが、どこか滑稽。
三女は恋愛下手でいまだに独身、自由奔放に生きていると感じている四女に嫉妬している気配だ。
その思いは幼少時のささいな出来事に由来しているらしいことが後で知らされるが、それでも頭脳明晰、正確ブスを思わせる行動が続く同情の対象者だ。
末っ子は一般的にはどうかと思われる男と同棲中なのだが、やはり三女だけにはライバル心を持っているといった具合。
四姉妹それぞれが満たされぬ愛の中に生きていて、そして阿修羅の如き本音での闘争と生きざまを見せるのだが、当の本人達は真剣なのだろうけど見ている我々には滑稽に見える出来ごとのオンパレードで、クスクス笑いが絶えない。

姉妹の言い争いを描き、会話の中にちょっとした嫌味を見せがらも、家族や親子の本当の感情などが随所で伝わってくるような描き方をしている。森田芳光の演出はそれらをユーモアをもって描き、家族の思いやりをどこか笑ってしまうキャラクター達に演じさせている。ともすれば重くなりそうなテーマだが、それを面白おかしいまるで喜劇映画の様な雰囲気で終始一貫押し通している。
仲代、八千草の両親は物静かで言葉少なだが、結局すべてお見通しよといったものを感じさせ、流石は長い人生を生きてきた老人たちの年輪をピシャリと決めていた。
四姉妹は、結局は家族が好きなのだ。母の存在がまた姉妹を姉妹たらしめていたのだと思う。
立派な親にはいい子が育つ。はたして我が家の一人娘は…。

悪人

2019-01-07 10:18:32 | 映画
「悪人」 2010年 日本


監督 李相日
出演 妻夫木聡 深津絵里 岡田将生 満島ひかり
   塩見三省 池内万作 光石研 余貴美子
   井川比佐志 松尾スズキ 山田キヌヲ
   韓英恵 中村絢香 宮崎美子 永山絢斗
   樹木希林 柄本明

ストーリー
土木作業員の清水祐一は、長崎の外れのさびれた漁村で生まれ育ち、恋人も友人もなく、祖父母の面倒をみながら暮らしていた。
佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代は、妹と二人で暮らすアパートと職場の往復だけの退屈な毎日。
そんな孤独な魂を抱えた二人が偶然出会い、刹那的な愛にその身を焦がす。
しかし祐一は、連日ニュースを賑わせている殺人事件の犯人だったのだ…。
数日前、福岡と佐賀の県境、三瀬峠で福岡の保険会社のOL・石橋佳乃の絞殺死体が発見された。
事件当夜に佳乃と会っていた地元の裕福な大学生・増尾圭吾に容疑がかかり、警察は彼の行方を追う。
久留米で理容店を営む佳乃の父・石橋佳男は一人娘の死に直面し、絶望に打ちひしがれる中、佳乃が出会い系サイトに頻繁にアクセスし、複数の男相手に売春まがいの行為をしていたという事実を知らされる。
DNA鑑定から増尾が犯人ではないことが判明、新たな容疑者として金髪の男、清水祐一が浮上する。
幼い頃母親に捨てられた祐一をわが子同然に育ててきた、祐一の祖母・房枝は、彼が殺人事件の犯人だと知らされ、連日マスコミに追い立てられていた。
一方、警察の追跡を逃れた祐一は光代のもとへ向かい、佳乃を殺めたことを打ち明ける。
光代はその事実に衝撃を受けるが、警察に自首するという祐一を光代は引き止める。
生まれて初めて人を愛する喜びを知った光代は、祐一と共に絶望的な逃避行へと向かうのであった…。

寸評
殺人事件を介した加害者と被害者の家族の対比が切ない。
被害者の父(柄本明 )は殺された一人娘の佳乃(満島ひかり)を溺愛しているが、事件を通じて娘の実態を知ることになる。
その言いようのないはけ口を母親でもある妻(宮崎美子)に向ける。
加害者の祖母(樹木希林 )は祐一(妻夫木聡 )を捨て去った母親(余貴美子 )に代わり、自分一人で育てたことを自負している。
しかし、事件がきっかけで母親と会っていたことを知り、しかも小遣いをせびっていたことを気付かされ、唯一とも思える誇りを傷つけられる。
それでもわが孫を思い続けることしか出来ない肉親の情が痛々しい。

深津絵里がモントリオール映画祭で主演女優賞を受賞したことで話題の映画となっているが、彼女はもちろんながら、主演男優としての妻夫木聡もなかなか良い味を出していた。
そして助演陣も柄本明、樹木希林、岡田将生なども熱演していたが、とりわけ満島ひかりがいい。
みえっぱりで嫌味な女を見事に演じていて、加害者である祐一に対する同情をさそう役を見事にこなしていた。
あまりの熱演で、殺人犯擁護に陥ってしまいそうなほどである。
僕はこの作品における満島ひかりの演技を見て、「この人はスゴイ!」と思わず唸った。

殺人犯以外の悪人が次々と登場する。
人を小馬鹿にしている裕福な大学生(岡田将生)とその取り巻き連中。
老人をカモにする悪徳商法の連中。
他人のことなどお構い無しの傍若無人なマスコミ。
祐一を捨て去った母親。
もちろん、殺された保険外交員の女性までも悪人である。
その他にも自分が育てた子だと占有する祖母や、子供の非行を母親のせいにする身勝手な父親も悪人と言えなくもない。

それでも一点の光明を散りばめて救いを見出している。
増尾のくだらない取り巻き連中のなかに、その生き方に反発するようになる男を存在させている。
祖母に対して押し寄せるマスコミに一括するバスの運転手などである。
また叔母である祐一の祖母夫婦を気遣う甥っ子の存在や、店に出ることがなかった佳乃の母親が理髪店の鏡を拭きながら夫の帰りを待つ姿などもそうである。
なにより今まで通り努めている光代の姿が救いであって、暗くなって重い気持ちになってしまいそうなこの作品をつなぎ止めていた。
「やはり殺人犯なのだから悪人なんですよね」とつぶやく光代の向こうに巻きつけられたスカーフは、これを初めての給料で祖母に贈る優しい心根を持っていた少年が孤独に陥って、出会い系サイトにしか行き場がなくなってしまう今の薄っぺらな世の中に対する警鐘の様な気もした。