蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

ストームを走る―脱・日常を探して(その7)

2010年01月12日 | 季節の便り・旅篇

 10月27日、快晴の朝が明けた。腕時計の表示は標高2,250メートル、気圧775hpと出た。アリゾナ州フラグスタッグは高原の町である。厳しい寒気の中を、町のグロッサリーを探して買い物を済ませた。ベッドルームにリビング、キッチン、ジャグジーにテラスを配したホテル・ウインダムの豪華なコテージで、備えられた炊事道具で自炊しながら、今日はのんびり休養日である。ゴルフ場や池を配した広大な敷地は、松の木に囲まれた閑静で贅沢なリゾート・ホテルだった。

 ブランチの後、昨日夕暮れの道端に幾つも建っていたインディアン・ジュエリー・ショップが気になって、R98号を1時間ほど北に走り戻った。
 天候が急速に崩れ、潅木を大きくしならせながら荒野を烈風が吹き募る。殆どの小屋掛けの店が入り口を閉ざしていた。店が見付からないままに、やがてGrand Canyon South Rimに向かうR64号への分岐点に来た。ストームが近付いている。諦めきれずにR64号に走りこんだところで、ようやく開いている店を見つけた。小屋の中に先住民ナバホ族の店番がいて、色とりどりのジュエリーで作ったアクセサリーや、織物、焼き物、民芸品などが並んでいた。幾つかを土産に求め、吹き募る風に背中を丸めながら車に逃げ戻った。
 娘が笑いながら言う「グランド・キャニオンまで、あと17マイル(27キロ)だよ。どうする?」「ウーン、お天気も悪いし、又にしようか」……ツアーだったら、嵐を衝いて何が何でも目的地に向かい、決して引き返すことはないだろう。「余裕だね!」と笑いながら、きっと又来るだろう、又来たいなと自分に言い聞かせた。Lake Powellを中心に、半径230キロの円の中に、8つの国立公園と16の国定公園がある。所謂Grand Circleと称される広大なエリアである。2年前のBryce Canyon、今回のZion Canyonの後には、やはりGrand Canyonは欠かすわけにはいかないだろう。元気でいたいと思う。

 左手に、寄り集まる数軒のインディアン・ショップが見えた。欲張って寄ってよかった。そのすぐ裏に、巨大な渓谷があった。グランド・キャニオンのミニ版である。世界的な観光地グランド・キャニオンの陰にあって、殆ど省みられることのない渓谷だが、コロラド川が刻んだLittle Colorado River Gorge(峡谷)は、やはりナバホ族の居留地の中の捨てがたい観光資源のひとつである。むしろ、此処を観てよかったと思う。ザックに提げるお守りとして、小さなブルーの石を1個5ドルで求めて、自分への土産とした。

 雨交じりの強風にハンドルを取られながら戻ったホテルで、カマンベール・チーズと生ハムを添えて、広いジャグジーでシャンパン・パーティと洒落込んだ。3人共、ちゃっかり水着を用意しているからおかしい。明日は又、カリフォルニア州のAliso Viejoまでの長い長いドライブが待っている。明日こそハンドルを代わってやろうと思う。パスポートも3冊目となった。国際運転免許証も3度目の申請をした。「帰っての楽しみだよ!」と言って娘は教えてくれないが、おそらく2,000キロを超えるロング・ドライブになるだろう。前回の滞在では、延べ4,500キロを走った。運転が好きとは言っても、娘の疲れも半端じゃないと思う。1泊で帰れる道のりを、私達の疲れに気を遣って敢えて1日のリッチな休息日を娘が作ってくれた。
 
 しかし、ロス到着以来、肝臓だけは一日の休息日もなく、毎日ワイン、シャンパン、メキシカン・ビールなど、飲んだくれる日々である。「ジャグジーで飲んだら、あまり酔わないんだよ」という娘の言葉に惑わされてグラスを傾けたが、とんでもない!あまり強くない私は、回りに回る酔いにフラフラになりながら、ベッドに転びこむ旅の夜となった。
           (2010年1月:写真:Little Colorado River Gorge)

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2 コメント

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Unknown (わさび)
2010-01-15 17:42:39
2000キロ、4500キロ・・・わあ、考えただけでもくたびれちゃう~(笑)
2000キロで北海道~九州まで?
昨年は、その往復?
ドライバーのめいちゃんに(^-^)//""ぱちぱちです。

Grand Canyonに行く時は、是非、ご一緒させて下さい。お願いします!

インディアンジュエリーいいですよね~♪
私もブルーの石大好きです。

それで、ご隠居さんは運転変わったのかな?
旅の途中の休養日、必要ですが短い旅程だとなかなか取れなくて、さすが、めいちゃん、名ツアコンです(*^^)v
名ツアコンで安心で楽しい旅が続きますね~♪
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大平原の疾駆! (蟋蟀庵ご隠居)
2010-01-15 18:18:10
わさびさん
 勿論、運転を代わりましたよ!(その8)をご参照下さい。
 娘のめいのツアコンぶり見事ですよ。毎回散々頭を悩ませながら、サプライズをふんだんに用意してくれます。さすがに8度目(多分。西海岸は6度目?)の訪問なので、「もう、案内する所がないよ~!」と頭を抱えながら、それでもやっぱり喜ばせてくれます。ホントにありがたいですね。
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